世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百話

無数に存在する昏き禍の瞳が蠢き、彼らを捉える。明確な敵意が、殺意が、悪意が宿る視線を向ける。あぁ目の前の存在は滅ぼすべき敵なのだと、不敵に笑みを浮かべる彼らに咆哮を轟かせながら新たに触手を生み出し振るう。

 

それは世界樹に封じられないようにか、巨人と相対していた時に振るっていた物とは比べようも無い大きさで在った、だがそれでも彼らを羽虫の如く叩き潰すには十分すぎる程、巨大で在った。

 

だが、その程度ならば彼らにとって日常茶飯事で在る。

 

軽やかに駆ける。巨大であったとしても速くはない。だから、彼らは避けられる。触手が叩きつけられ飛び散る破片を軽く叩き落としながらゴザルニが加速して前に出る。瞳が蠢き、彼女を捉える。と同時に瞳に術と弾丸が叩き込まれる。

 

不快な音を響かせながらその身を捩り、淀んだ血潮を撒き散らす。ただそれだけでもあらゆる命を腐らせていくだろうその劇毒は、しかし彼女は掠りもせずに一気に踏み込む。

 

新たな触手が振るわれる。自らに当たることなど全く気にすることなく乱雑に、世界樹ごと叩き潰してやると言わんばかりに振り回す。其の全てに弾丸が撃ち込まれ、爆ぜる。叫びに次ぐ叫び。それは衝撃となって彼らに襲い掛かり、けれど足止めにもならない。

 

ゴザルニが駆ける。広がる枝葉を蹴り跳ねる。昏き禍に向かって刃を振るう。

 

「――――チッ!」

 

確かに彼女の刃は切り裂いた。だが舌打ちが零れるほどに浅い。いや、いいや違う。それは昏き禍が巨大で在るからこそそう思わずにはいられないのだ。確かな痛みを感じてか、暴れ悶えている。

 

しかし、潰した筈の瞳が蠢き、新たな瞳が現れるのを見ると効いている筈なのに、まるでそれが実感できない。これが焼け石に水と言うやつかとレフィーヤは思う。

 

瞳が廻り蠢く。それは誰を捉えているのか。全員か、それとも誰も見ていないのか。瞳が一斉に動き、彼らを捉える。其れと同時にゴポリッと不快な音を響かせながら、淀んだ灼熱が零れる。

 

なにかする積りかと、レフィーヤは術を行使する。放たれたのは氷塊。巨大な其れはしかし昏き禍と比べてしまえば酷く小さく見える。それでも行動を阻害するには十分な其れは灼熱を放とうとしていた昏き禍へ叩き込まれる。

 

灼熱が昏き禍の間近で爆ぜる。それは自らの体を焼き溶かす。まさか自分が生み出したそれに焼かれるとは思って居なかったのか、今まで以上に暴れ狂う昏き禍。

 

乱雑に振るわれる触手を術を行使しながら掻い潜る。的確に自分に向かって来る触手に術を叩き込み軌道を変えながら進む。

 

「おうッ?!」

 

だが、世界樹が揺らぐ。突然の事に僅かに足を取られ、即座に立て直す。そして揺れの原因を考えて、すぐに思い至る。いいや、考えるまでも無かったのだ。世界樹は今昏き禍を抑え込んでおり、其れから逃れようと昏き禍が暴れているのだ。寧ろ今まで揺れなかったのが可笑しいと言える。

 

時間が無いかもしれない。そう頭に過る。だからと言って焦れば致命的な隙を晒してしまうかもしれない。だがか、変わらず。確認するように視線を走らせる。何をすべきか、何が出来るのかを思考しながら仲間を見る。

 

視線が交わるのは一瞬、だがそれだけで十分だった。

 

動き出す。術を行使しながら見る、見る。その瞬間を見逃さないといつでも放てる様にし乍ら見るのだ。複数の触手が動く。動き回る彼ら全員に向かって振り下ろされる。先程よりも苛烈に、執拗に追い回す様に振るわれる。

 

連続する衝撃と揺れに足を取られない様に注意しながら、レフィーヤは走る。何時でもその術を放てる様にし乍ら、術を叩き込んでいく。

 

咆哮が響き渡り、揺れが強まる。何かがしたから来る。そう理解すると同時に飛ぶようにその場から動く。直後、先程までレフィーヤが立っていた場所から触手が世界樹を突き破りながら姿を現す。

 

同時に、揺れる。世界樹が軋む。その音はまるで悲鳴のようで。さっと視線を走らる、目の見える場所に変化はない、だが限界は近いかもしれない。何時、世界樹が割れ折れてしまうかも分からない。流石に拙いかと術を行使して。

 

 

砲撃が昏き禍に叩き込まれた。

 

 

「これ、は!」

 

視線が走る。空を飛ぶ気球艇にを見る。あぁ、きっと彼女たちがそれを放ったのだろう。効いたか否かはどうでもいい。彼女たちが撃ち放ったことに事意味が在る。

 

昏き禍の瞳が蠢き、一斉に気球艇を捉える。今まで意識すらしていなかっただろうそれに明確な敵意が向く。そしてバチリッと弾ける音。瞬く、走る、閃光が飛ぶ。直撃せずとも掠ればそれで消し飛んでしまうと思えるほどの力が昏き禍から放たれようとしている。今度は遮られぬ様に、執拗に触手を振るいながら。見せつける様に淀んだ稲妻を走らせている。

 

―――音が響く。

 

閃光が強まる。何時放たれても可笑しくはない。

 

―――音が近づく。

 

振るわれる触手を避け、或いは術を叩き込みながら、その様子をレフィーヤは見ていた。

 

―――音が震わせる。

 

今ならば術を行使すれば防げるだろう。だが、彼女は触手に向けてのみ術を放つ。それは、何故か。あぁなんてことは無い単純な理由だ。既に、術は放たれているからだ。その術の名は。

 

『メテオ』

 

小さな星が昏き禍に直撃し―――――音が、炸裂する。

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