世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百二話

昏き禍の体が崩れいく。

 

風が吹く。昏き禍が灰の如く散っていくのを髪を揺らしながらレフィーヤは見て。視線を辺りに散らばる気球艇の破片に向ける。近くに落ちていたそれを拾いながら、言葉を零す。

 

「まさか捨て身であんなことするとは思って居ませんでしたよ、流石に」

「お陰でって言えるだけに、言葉にしがたいわね」

「取り合えず巻き込まれたアスフィが少しかわいそうだね」

「まぁ、あぁも見事に突っ込めばただでは済まないでござろうからな」

「紛れも無くあの二人は仲間だった。せめて安らかに眠れ」

 

「いや、なに死んでる前提で話を進めてるんですか」

 

『何となく』

「やっぱりですか、後で一発ずつ殴らせてくださいね」

「やはり良く分かりません」

 

なんて言いながらゆっくりと空から宙を蹴る様にして降りてくるアスフィ。と、そんな彼女に抱えられているリリルカ。衝突する直前に彼女に因って救い出された居たようだ、というかその瞬間を見ていたので最初から知っていたのだが。そうでなければ流石に先程の様な会話をしたりはしない。

 

「…あっ」

「え、あって何ですか?」

「すみませんリリルカさん。もう限界です」

「いえ限界ってぇえええええええええええええええええ?!」

 

ズルリとアスフィの手から滑り落ちるリリルカ。酷く痛々しい音を響かせて落ちた。そこまで高くは無かったが、大丈夫だろうかと見に行くと、寝転がったまま額に青筋を浮かべ空に居るアスフィに向かって笑顔を向けていた。

 

「いえまぁ、確かに大砲の弾を込めて撃ってとしていましたし、気球艇を引っ張ったりもして疲れていると言う事を考えれば仕方ない事だとは分かります、えぇ分かっていますとも」

「けど?」

「其れとこれとは話が別ってやつですね」

 

小さな声で許さないと零すリリルカから視線を外し、丁度降りてきたアスフィを見る。

 

「お疲れさまでした」

「はい、疲れました……それにしても」

 

アスフィの視線が、崩れ落ち散っていく昏き禍へと向けられる。

 

「死んでいる、のですよね」

「えぇ確かに事切れていますよ」

「そうです…か」

 

視線が彷徨う。そうしてから彼女は、レフィーヤを見て。

 

「正直に言いますと、倒せるとは思って居ませんでした。いいえ、倒せる存在だと思えませんでした」

「それは、まぁ仕方ない事ですよ」

 

世界を揺るがすほどの巨体と、命を腐らせていく吐息、極めつけに無尽蔵に生み出されるモンスター。何処の神話の怪物だと言いたくなるような存在だったのだから。寧ろ、よく大砲を撃つなんて援護が出来たものだと思う程だとレフィーヤはアスフィを見て、色々と在ったのだろうと思い、訊かないでおく事にした。幾ら冒険者が未知を求めるとは言っても、その位の自重は出来る。

 

なんて思いながら視線を巡らせて。目の前を光が横切る。

 

「…これって」

 

いいや、これと言う言い方は正しくはないだろう。その光は間違いなく、意志在りしものなのだから。

 

手を伸ばし、しかし止める。目の前の光から感じる意志が酷く希薄で在ったから。今にも消えて無くなって仕舞いそうな程に。存在を保つための力を巨人に、世界樹に捧げたのだから当然と言えるかもしれないが。

 

光が、光たちが世界樹から溢れ出す。それは皆希薄であるが、しかしそれでも確かにそこに在り続けている。死んでいない、終わっていない。

 

まだ光たちは、生きている。

 

助からないと思って居たのに、どうしてと思いながら声を聴く。聞き覚えの在る笑い声を。視線が向く。レフィーヤだけではない、皆が笑う光を見た。

 

光の見分間けがつくわけではない。だが、その光は何故か見覚えがあって。アスフィが声を震わせながら言葉にする。まさかと呟きながら、光の名を零す。

 

「…ヘルメス、様?」

『―――――あぁ、分かるのか。流石と言うべきかな、アスフィ』

 

驚愕する。光たちがそうであったから可能性としては無い訳では無いだろうが。それでも驚いてしまう。まさか彼もまた終わっていなかったとはと。そう思って居る事を察したのか、静かに笑いながら言葉を響かせる。

 

『驚いているのかい? いいや、当然だ。俺自身驚いているのだから。まさか世界樹そのものに生かされるとは思っても見なかったのだからな』

「生かされた?」

 

如何いう事だと、レフィーヤは彼を見る。やはり彼は笑いながら答えた。

 

『詳しくは分かりはしないよ。俺は世界樹ではないからな。だが、死んではならないと言われた気がしたんだ。あぁ気のせいかも知れないが、こうしてここに居る事を考えれば、きっとそうでは無いのだろうな』

 

光が溢れていく。枝に茂る葉が全て光で出来ていると思えてしまう程に。

 

『何故、そのような事を巨人が、世界樹が思ったのかは分からない。だが、俺がここにこうして今も意識を保ったままで居られる意味は分かっている。伝えるべき言葉を俺は憶えている。世界樹だけじゃない。俺達の、人々に神と言われた俺たち全員の言葉を』

 

揺らめき、揺蕩いながら光が昇っていく。雨の如く降り注いだ光が空に向かって。

 

『だから、またこの言葉を言わせてもらうよ』

 

光が揺らぐ。消えてしまいそうなほど淡く瞬きながら。言葉が重なり響く。

 

 

―――――ありがとう、と。

 

 

こうして、遥か昔より続く神々の願いが漸く・・・・叶ったのだった。

 

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