「とまぁそんな感じで」
カチャリとお茶を手に取り、一口。ふっと一息入れて、置きながらレフィーヤは目の前に座る少女に向かって言葉にする。
「色々と在っりましたが、だからこその大冒険だった訳ですよ」
「成程」
「まぁ本当に大変だったのはその後だったんですけどね」
「ふむ? それはどういう事か」
「ほら、気球艇が壊れてしまいましたからね。なのに私たちが居たのは」
「世界樹の頂き。確かにそれは大変だ」
「食料や予備の薬はぐちゃぐちゃでしたし、なんか隙間に落ちてたのか無傷なモンスターが現れたりしましたからね。正直、変態たちが造ったもう一隻の気球艇が来てくれなかったら死んでたところですよ」
「冒険者にとっての大敵は飢えで在るというのは昔から変わりはしない。幾度となくそれが原因で倒れる冒険者を見てきたものだ」
見ていて気持ちの良いもので無かったと、少女は言いながら菓子を頬張る。表情には出ていないが、少しだけ嬉し気である。
「…ん、それで。ヘルメスの名で呼ばれし存在はどうなった?」
「あぁ、ありがとうって言った後何処かにふらっと飛んでいっちゃいましたよ。意識がしっかりしてたとしても疲労困憊である事に変わり在りませんでしたからね。何処かで休んでるんじゃないですかね」
「そうか」
と、少女はフードを揺らしながら言葉にする。そんな少女を見て。気に成っていた事をレフィーヤは問いかける。
「そう言えばあなたは何をしてたんですか?」
「何を、と問われればそうだな。準備、と言っておこう」
「準備って……昏き禍に関係ある事ですよねそれ」
「その通りだ。尤も、無意味になってしまったが。私からすれば、ヘルメスと呼ばれし存在があの様な事をするとは思って居なかった」
「予定では巨人は目覚める筈がなかったと?」
「いいや、最終的には目覚めて貰う積りだった。巨人が、世界樹の姿が変じたものであったのだから」
「そうですか。で、巨人が目覚めた後に姿を見せなかったのは?」
「見せて如何する。私は戦う術が皆無で在ると知っているだろう」
「其れもそうですね」
確かに、邪魔にしかならないだろう。流石に巨人や昏き禍と相対している時に彼女の事を気にかけながら、なんて事は難しい。出来ないとは言わないけれど。
「それで、私達が巨人や昏き禍と戦って居る時に貴女は何をしてたんですか?」
「している事前提か。若しかしたら何もせずにただ見ていただけかも知れないのに」
「貴女が何もせずになんて事は無いでしょう」
「言い切るか。だが確かに、何かしていたかと問われればしていたと答えるべきだろう」
「やっぱりですか…で、何をしていたんですか?」
「大したことはしていないとも。先程言った様に、巨人の目覚めは想定がだった。だからしていたというよりは、出来た事と言うべきだろう。それとて、精々が迷子になりそうだったものがちゃんと目的地にたどり着けるように道を整えて、目印として看板を立てた程度だ」
「結構大した事ですよね、それ」
其のままの意味で受け取っても、道を整えるって結構処でなく大変な事だろうに。そう言うと、其れもそうかと少女は軽く肩を竦めてみせる。
「処で確認という訳では無いのですか」
「ふむ?」
「アリアドネの糸、在るじゃないですか」
「確かに」
「で、確かですけど。其れで長距離を移動する為には、何かしらの目印が必要なんですよね」
「その通りだ。進む先に糸が結ばれていなければただ迷うだけなのだから。それは当然の事」
「で、あの時凄い沢山の光があの場所に集った訳ですが。あれ、貴女が何かしましたね?」
「さて、どうだろうか。取り合えず言えることは彼らが無事に間に合った。其れだけが重要であり。私が何かしたのかはどうでも良い事だとも」
「…それもそうですね」
確かにと、頷き。そう言う事にしておく事にしたレフィーヤは、お茶を口に含み楽しみながら、目の前の少女を改めて見る。
「これからどうするんですか?」
「ふむ? と、言うと」
「取り合えず、分かり易い星を蝕んでいた存在を打倒した訳ですけど」
「其の事か。確かに、他に分かる範囲には居ない事からもう少し探し居なければまた別の星へ旅立つ。と言うのが正しいのだろうが。今回は居なかったとしてももう少しこの星に残るつもりだ」
「へぇ、以外という訳では無いですけど。その理由は?」
「なに、前の星では待ち続けたのだ。この星を少しぐらい楽しんでも罰は当たらないだろうと思っただけの事だ。ただの休暇なのだから」
「休暇ですか。確かに、休むだけで罰が当たったりしたらたまったものでは在りませんね」
「だろう。あぁ、それにあと一つ理由が在る」
「と、言いますと?」
「君達の歩む姿を見ていたいから。と、言った処か」
「そうですか…楽しんでもらえてますか?」
「勿論」
「其れは良かった」
そう呟くと一気にお茶を飲み干して、立ち上がる。
「そう言う事なら、精々愉快な冒険譚に成る様に気を付けるとしますよ」
「気を付けない方が面白いかもしれないぞ?」
「それは言ってはいけませんよ…それじゃあ、私はこれで」
「あぁ、久しぶりに話が出来て楽しかったと言っておこう」
少女が微かに微笑み。軽く手を振る。
「それではなレフィーヤ。また何処かで出会ったならば、その時もこうして楽しもう」
「えぇ、そうしましょう。それじゃあその時が来るのを楽しみにしていますよ・・・アルコンさん」
そう言うと同時にふっと目の前からローブ姿の少女、アルコンの姿が消える。相変わらず良く分からない技術だなと思いながら、立ち上がり。丁度準備を終えたローウェン達が声を掛けてくる。
「もう良いのか?」
「えぇ、丁度終わった処です」
「そうか、しかしいきなり訪ねてくるとは思ってなかったな、流石に」
「ですね。まぁ別に嫌な事では無いですけどね」
「確かにな。まぁ、準備とかの関係でお前以外は話が出来なかったけどな」
「それは仕方ないですよ。ローウェンさん達が遅いんじゃなく、私の準備が速く終わりすぎただけですし」
「だとしても、と言う奴だな。次の時はちゃんと楽しめる様にしないとな」
言いながらローウェンが乗り込むのは新しく造られた気球艇。何気なくこれから自分たちを乗せて空を飛ぶそれを撫でて、ローウェンに続く様にレフィーヤもまた乗り込んだ。
気球艇が空へと舞い上がる。多くの人たちが行き交う道を上から見る。ここも結構長い事いた物だなと、ラキア王国を見下ろす。また何時でも来れると、視線を前に向ける。これから目指す場所。
一つの冒険が終わった、だからこそ新たな冒険を目指して。気球艇は進む。良く知っている、けれどよく知らない乗っている新しい街に向かって。
その街を見守る様に聳える、世界樹に向かって。
気球艇は、空を進み行く。