第二百四話
迷宮都市オラリオと言う街が在った、其の呼び名の通り迷宮と共に在ったその街は。迷宮と共に失われた。
そう、すでに存在しないのだ。神々とその眷族たる冒険者たちに因って栄えたオラリオという街は巨人に因って壊され昏き禍に因って跡形も残さず砕かれた。そしてモンスターが際限なく産み落とされ良質な素材が手に入った迷宮と呼ばれた場所はその親とも言うべき昏き禍が打倒されたことに因って失われた。
そんな自らの居場所と、迷宮を失った冒険者達から気力が失われているように見えた。いや或いは単純に、巨人や昏き禍と言う極大の災厄を前にして心が折れてしまったのかもしれない。
そしてそれは巨人が見えた時点で避難していた一般人と呼ばれる人々とて例外でなく。酷い者は心を病んでしまったそうだ。
が、しかし。割とすぐに立ち直り、今も目の前で道を行き交いながら新たな居場所である街を造り上げたのだった。
冒険者達には未だに何処から表情に影が在るというに、彼らは弾けんばかりの笑みを浮かべながらせわしなく動き回り働いている姿を、何故か真っ先に完成した上で営業している喫茶店から眺める。その様子に、元気が良いなとレフィーヤは思い、横に座っているリリルカの呟きを聞いた。
「全く、オラリオの冒険者は情けないですね」
「それは流言い過ぎですよ。巨人とか昏き禍とかの所為で自信とかそう言ったものが粉砕された人がかなりいるみたいですからね」
「ですが」
「あ、私達の事を出すのは駄目ですよ? ある意味、私達は慣れていましたから」
「あれに慣れるってどういう事ですか頭可笑しいですよ」
「まぁ否定はしません。と言うか出来ませんね」
まぁ可笑しさで言えば昏き禍を見たのに一回吐いただけで大丈夫だったリリルカも相当のものなのだが。それを彼女も理解しているのか言葉にしない。よく神が言って居たブーメランと言う奴に成るからだろう。もう手遅れ感はあるが。
「それにしても」
そう呟きながらリリルカは改めて道を行き交う人たちを見る。
「一般人と呼ばれる人たちがあんなに強いとは思って居ませんでした」
「種類が違うだけですからね。冒険者で無いから弱い、なんて言うのは傲慢だと思いますよ。まぁ今回のは少し特殊ですけど」
「そうなんですか?」
「えぇ、一周しちゃうんですよ。こう、心が折れるとか折れないとかじゃなく、まぁあんなのに襲われたんだから仕方ないかって感じで」
「諦めるって事ですか?」
「そうですね、案外冒険者にも必要な物だったりするんですよね、諦めるって事は。そうでなければ無駄な消耗をする事に成りますし」
「因みにですが、レフィーヤ様は?」
「基本的に諦めずに爆走してますね」
それこそ食料などと言った消耗品が無くなりそうにならない限りは諦めることなどない。それ以外では基本的に、例え絶望的なほど差が存在する強敵だろうが難解で在り突破不可能なのではと思える様な致死性の罠が在ろうと諦める理由にはなりはしない。
「やはりキチガイはキチガイだと言う事ですか」
「まぁ、普通の人と比べられない程度の場所に居るとは自分でも思いますよ。ローウェンさんほど人を止めてはいませんけど」
最近、人外さに磨きがかかっているローウェン。一体彼は何処まで行ってしまうのだろうかと。順調に彼の後を追うレフィーヤは思うのだった。
「……でもやっぱりおかしいですよね」
「何がですか?」
「冒険者様の事ですよ。幾らレフィーヤ様の言う通りだとしても、度が過ぎると言いますか」
「それは、まぁ否定はしません」
確かに、幾ら心が折れた人が居ると言っても全員がそう言う訳では無い。だというのに、目に入る冒険者は皆変わらず同じように暗い顔をしている。それは、漸く帰る事の出来たロキファミリアの館・・・として一時的に使われている場所に居た団員達もそうだった。其れこそ高レベルの冒険者までもだ。そんな雰囲気の所為でという訳では無いが、ちゃんと会って話が出来たのがロキただ一人だった。
そのロキ自身も何が起こったのかを言いたくはない様子だったので訊く事はしなかったが。
「まぁ、理由が在るなし関係なく私達が出来る事なんてそう多くは無いんですから、気にするだけ無駄ですよ」
「そうでしょうか?」
「えぇ、悩んでも仕方ない事はさっさと悩むことを諦めてしまった方が楽ですよ?」
「ここでそれが来るのですか」
「あ、此処だなって思ったものでして」
「確かにそうかもしれませんけど」
何て言いながら微笑んで。見覚えのある姿が見えて声が零れる。
「あ、ローウェンさん」
「ん? あぁ、レフィーヤとリリルカか。なにをしてる…のかは見れば分かるな」
「喫茶店でお茶しながらレフィーヤ様とせわしなく動き回る人たちを見て笑って居ました」
「言い方に悪意が溢れてますね。まぁそれは何時もの事として、ローウェンさんはこれからどこに? 宿に、と言うには方向が違う見たいですけど」
「少し呼ばれてな。これからギルドに行く処だ」
「あぁ、それでですか」
確かにギルドに行くならば喫茶店の在る道を通るのが一番早いかと頷き。そうだと言葉を口にする。
「あ私もギルドに付いていっても良いですか?」
「別に構わないぞ」
「ありがとうございます。ではリリルカさん、そう言う事なので」
「分かりました。じゃあリリはここでもう少し動き回る人や暗い顔をした冒険者様を眺めながら意味深に笑みを浮かべるという無駄な作業を続けますね」
「本当に無駄ですね」
これと言って意味も無く満足できるかどうかもよく分からない、作業と言っていいのかも分からない行動だ。まぁ、したいというならばそれはそれで良いのだろう。程々にとリリルカに言いつつ、自分の分の代金を彼女に手渡し、外へ出てローウェンと共にギルドに向かって。
オラリオと言う名を受け継いだ、新たに世界樹を象徴としたその街を二人は歩いていく。