世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百八話

さてと、レフィーヤは白目を向いて気絶しているベートと見て、呟く。

 

「どうしましょうか?」

「言われても困るでござる。と言うか何かしらの手段が在るから気絶させてまで連れてきたのではないのでござるか?」

「いえ、なにか助言でももらえないかなって思ってました。と言う訳でお願いします」

「拙者でござるか? そんないきなり言われても」

「美味しいものを奢りますから」

「拙者に任せるでござる! と言っても、割と単純な事で解決できると思うでござるよ。まぁ場合にもよるでござるが」

「本当ですか?」

 

それはどのような方法なのかと、そうと問い掛けようとしたその時だ。呻き声、視線がゴザルニからベートへと向く。丁度目を覚ました彼を見る。

 

「いてぇ……何が」

「と言う訳でござるよベート殿」

「………あ?」

 

目が覚めたベートの耳に届くのは鳥の鳴き声では無くござるだった。流石の彼も唐突過ぎて意味が分からないと眉間に皴を作っている。

 

「何言ってんだというか誰だてめぇ」

「ゴザルニにござる」

「馬鹿にしてんのか、あぁ?」

「其れがしてないんですよね」

「……レフィーヤか」

「はい、貴方の後頭部に氷を叩きつけて気絶させた上で此処まで連れてきたレフィーヤですよ」

「殺す気かよてめぇ?!」

「そんな訳ないでしょう」

 

其の積りだったら槍を叩き込んでるし、なんて事は流石に言葉にはしない。

 

「チッ……それで、なんの積りだ」

「冷たいですね。ちょっと燃えてみますか?」

「なんでだよ」

「あ、コロッケ食べたいでござる」

「いやだからなんでだよ?! コロッケ何処から出てきたんだよ何の関係も無いだろうが!」

「コロッケを作る際に火を使うじゃないですか何言ってるんですかベートさんは」

「意味わかんねぇよ、何でそこに飛んだのか見当もつかねぇよ」

「冒険者としてそれはどうかと思いますよこのツンデレ!」

「誰がツンデレだ!」

「え、自分の事も分からなくなってしまっているなんて」

「舐めてんのかてめぇ、いや舐めてるだろうおい」

「失礼ですね、そんな性癖は在りませんよ?」

「て、めぇ……はッ!!」

 

青筋が浮かび、睨みつける様にベートはレフィーヤを見て。歯を食いしばる様にし乍ら舌打ちを響かせる。それを見たレフィーヤは目を細め。思う事は一つ。

 

気に入らない、と言う事だけ。

 

何を堪えるかのようなその姿が。言い訳をするかのようなその舌打ちが。何よりも諦めているとすぐわかる程に濁ったその瞳が、レフィーヤには気に入らなかった。

 

「……で、何の積りだ」

「なんのと言われると気に入らなかったから連れてきただけですけど」

「随分な事をいうじゃねぇか、えぇ?」

 

そう睨むように見ながら言葉にするベート。

 

「なんと言いますか。一体何が在ったらそうなるんですか、ベートさん」

「何、ふざけた事言ってだよ、まさか知らないとは……いや、逃げ出したてめぇには関係ない事だったな」

「逃げ出した、ですか」

 

そう言えば彼らからすれば突然姿を消した様な物かとレフィーヤは思う。まぁ実際はどうなのかは知らないが。ちゃんとロキと話をした時に自分の事だけではなくその後の事を聞いておけばよかったな、と今更だが悔やむ。が、そこは別に重要ではない。そう重要なのは関係ないという言葉だ。

 

逃げたという言葉からロキファミリアで無いのだから関係ないと言いたいのか、或いは。そこまで考えて、気に成っていた事を言葉にする。思い至った事を確認するように。

 

「……ベートさん」

「なんだ、何か言い返そうっていうのか?」

「貴方、弱くなりましたよね」

 

酷く、ベートの顔が歪む。明らかに怒りが露に成っている。けれど、それを言葉にすることなくさらに強く鋭くレフィーヤを睨むだけ。その行動から間違いでは無いのだと、彼女は理解した。やはりだったかと思いながら。

 

そうでなければ、何も出来ずに気絶させられるなんて事に成る訳がないし。

 

「恩恵の喪失、では無くレベルかステータスが下がったって所ですかね」

「……なんでそう思うんだよ」

「だってそうでなければ氷の塊で頭を殴られたら死ぬじゃないですか」

「やっぱり殺す気だっただろうてめぇ」

「だからそんな訳ないって言ってるでしょう」

 

正直、かなり簡単に気絶させられてしまった事に驚き戸惑ったものだと、零す。

 

しかし、そうだとすればロキファミリアの元を訪れた際の光景にも納得できるというものだ。無理に笑みを浮かべている人たちや、何処か無理をしている様子の人たち。そして、あんなに綺麗だったのに酷く淀み、汚れてしまって居た金色にも。

 

そして、同時に理解したのは自分にはどうしようもないと言う事だ。失った彼らに、自らそれを捨てたレフィーヤが言葉にする事など出来ない。その様な権利が在るとは、レフィーヤには思えなかった。

 

「どうやら、レフィーヤ殿にはどうしようもない事で在る様でござるな」

 

そう、耳を傾けていたゴザルニは言葉にして。

 

「それじゃあ、拙者と戦おうではないかでござる」

「いやだからなんでだよ」

 

ベートの視線がレフィーヤからゴザルニに移る。余りに唐突で思わずと言った様子で。そして、レフィーヤもまた同じでどういう事なのかと視線を向ける。

 

「あぁいや、先程も言ったでござるが。別に難しい事でなく単純な事なのでござるよ。解決方法は。まぁレフィーヤ殿がするには今回は少し無理が在る様でござるが」

「……てめぇと戦うと何が在るってんだよ」

「そう変な事では無いでござるよ。そう唯」

 

ゴザルニの視線がベートへと向けられて、言葉にする。

 

「ベート殿に冒険者と言うものを教えるだけでござる故」

 

そう、笑顔を浮かべるゴザルニに言われたベートは、笑った。堪え切れないと言った様子で、怒りと共に笑い声を吐き出した。揺らめく様に彼は立ち上がり、ゴザルニを見下ろす。

 

「随分な事言うじゃねぇか、雑魚の分際でよ」

 

今までとは違い明確な敵意が彼の視線に籠る。けれど、そんな事は大したことは無いといった様子でゴザルニは流し、言葉にする。

 

「それで、戦うでござるか?」

 

浮かべられた笑みに、彼が返す言葉は…分かり切っていた。

 

 

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