世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百九話

語る、ゴザルニは語る。

 

「そも、冒険者とは挑むものでござる。危険を冒す者でござる」

 

何でもないかのように、風に揺れた髪を整えながら言葉にする。

 

「当然、挑む相手が自分よりも弱いという事もあるでござろうが。大半は自分よりも強く、また未知の存在でござる。何をしてくるのか全く分からないでござる。それと相対するのが半ば日常となるのが冒険者でござる」

 

まぁ程度はあるけれど、と小さく呟いてから。彼女は続ける。

 

「その中には、敵を弱体化させることに特化しているものが居ない、と断言するのは愚かでござる。或いは怠惰でござる。すべき事を行っていると言う事でござるからな」

 

彼らからすれば当然の事であり、或いは彼らにとって考えない様にしていた事、しかしあっさりと響かせる。

 

「いや、別に弱体化だとかでなくてもいいでござるな。例えば、毒でござる。耐性があるから大丈夫などと思って居たりはしなかったでござるか? 或いは薬が在るから大丈夫だとか、思った事は在るでござるか?」

 

或いは、オラリオに居た冒険者の大半が思って居たかもしれない事を彼女は口にして。

 

「だとすれば馬鹿でござるよ。まさかでござるが成長し強くなるのは恩恵を得ている自分たちだけだと思って居るのであれば本当にただの馬鹿でござるよ。言いたくはないでござるが」

 

否定する。勿論、必ずしもそうだとは彼女とて思って居ない。けれど、心の片隅にすらその考えが無かったかと問われれば、きっと言葉に詰まる者は沢山いるだろう。

 

「ある意味で恩恵の弊害と言えるかもしれないでござるな。ある程度、容易く強くなれる故に、それ以外の選択肢がある事を忘れてしまって居るでござる。ただ強く成れば先に進めると勘違いしてしまって居るでござる。それが無ければ強くなれないと勘違いしてしまって居るでござる」

 

他に幾らでも方法が在るというのに、分かり易かったからこそそれ以外に目を向ける事が出来なくなっていた。

 

「そんな事は全くないのでござるがな」

 

そうだ、強くなる方法も、先に進む方法も。いっぱいある、神々の手を借りずとも、だ。

 

「そもそも、強ければ勝てて弱ければ負けるというのも可笑しいでござるな。もし本当にそうなのだとしたら冒険者の大半は死んでいるでござるな。自分よりも強いモンスター達にすり潰されて、しかし」

 

けれど、そうなっていないのは単純だ。

 

 

「弱肉強食。それを笑顔で踏み越えていくのが冒険者でござろう?」

 

 

だからこそレフィーヤの眼前では、ゴザルニの前でベートは膝を付いていた。

 

確かに、ベートは弱くなったのだろう。レベルか或いはステータスか、どちらかなのか何方もなのかは分からないが確実に低下しているのだろう。けれど、それでもレフィーヤの時と違って彼は恩恵を失ってなどいないのだろう。それは、動きを見れば分かる事だ。言い方は悪いが人間離れした動きをしていたのだからそこは間違いない。

 

が、其れだけだと言えるだろう。

 

自分よりも強いものとばかり戦ってきた彼らは当然の様にベートにも余裕は在っても油断なく相対した。其れこそ原初の闇や昏き禍と相対した時と同じように。

 

その結果が目の前で関節を外され戦えなくなっているベートだ。色々な意味で酷いと言う他ない。そもそも、幾らベートが強かろうと、ゴザルニは世界規模の禍を文字通り笑顔で乗り越えてきた冒険者の一人で在るのだ。言ってしまえば、ジャイアントキリングのプロと言ったような存在なのだ。強いだけでは勝つことが出来る程、彼女は甘くはない。

 

ギシリと軋む音がした。それはベートから響く音。歯が砕けるのではと思う程に噛み締め、血が滴り落ちるほどに力を込めて手を握りしめていた。そしてその瞳に宿るのは、唯一つ。

 

怒りだ。

 

自らを負かしたゴザルニに対してではなく、自分に対して怒りを抱いていた。負けたからではない、どうしようもなく腑抜けていた事に対してだ。

 

「好き勝手言ってくれるじゃねぇか…ッ!」

 

ゴキリッと鈍い音を響かせて、彼は無理やり外された関節を嵌め直す。相当の痛みを感じているだろうに、彼の表情は変わらず怒りに満ちていた。まるで、それだけでは足りないと言った様に。

 

「だが認めてやる。てめぇは雑魚だ。だがそれでも俺よりも上だと認めてやる」

「光栄でござるな」

「舐めてんのかてめぇ」

「自分よりも強いものに認められるのは嬉しい事でござろう?」

 

それは本心からの言葉なのだろう。けれど、火に油でしかない。故に勢いよく燃え上がり、だが呑み込んだ。彼はそれを吐き出さずに内に秘めた、それを行えばただの恥の上塗りでしかないと思ったからだろう。

 

「…チッ」

 

小さく、舌打ち。それは抑えきれなかったそれが零れた物だろう。けれど、それは先程までの物とは違ったもので在る様に思えた。

 

彼は、二人に背を向けて歩き出す。その行為がどの様な意味で在るのかを理解しながら。

 

「良いのでござるか?」

「……あぁ」

 

問われ、足を止めそう言葉を零す。それは間違いなく、自らの敗北を認める言葉だった。けれど、諦めの言葉では、無かった。

 

「すぐだ」

「ぬん?」

「てめぇら如きに出来た事だ。すぐに超えてやるッ!」

 

ただそれだけを言葉にして彼は歩き去っていった。酷く、瞳をぎらつかせ乍ら。それは、レフィーヤの良く知っているものだった。

 

 

 

 

ベートの姿が見えなくなって暫くの間、二人は佇み。そして軽くゴザルニは息を吐いて、レフィーヤを見る。

 

「とまぁ、ベート殿の様な人物はあんな感じで煽ってしまえばそれで勝手に立ち直るのでござるよ」

「成程。私には出来そうにないですね」

「で、ござろうな。そもそも自分が認めがたい事を認めさせるためにある程度圧倒できないと駄目でござるからな。あぁ、それにしても説教みたいで疲れるでござるな。自分でも不快になるでござる。全く拙者は何様だと言いたいでござるな」

「すみません」

「そう言うなら、ちゃんと美味しいものを頼むでござるよ」

「其れは勿論ですよ。まぁ少し後に成るかもですが」

「なにか用でもあるのでござるか?」

「えぇ、はい。在るというか出来たというかですかね」

「で、ござるか。してそれはどのようなものでござるか?」

「そうですね。大したことでは在りませんよ」

 

 

 

 

「ちょっと神様の所に行ってくるだけですから」

 

レフィーヤは笑顔でそう言って。目的の場所に向かって歩き出した。

 

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