世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百十二話

「蟻だな」

「蟻ですね」

「どう見ても蟻だね。あぁ、そう言えば前のオラリオの迷宮にも蟻のモンスター、確かキラーアントだっけ? が居たらしいけど、あれがそうなのかな?」

「いや確かにキラーアントっていう名前のモンスターは居ましたけど」

 

言いながら、改めて見る。そして思った事を隠さずに言葉にした。

 

「あんな大きくは無かった気がします」

「まぁ、お前よりも二回り程でかいしな。あの大きさが普通だったならそう書かれてただろうしな」

「と言うかよく見たら見た目が結構違いますね、あれ」

「キラーアントがただでかくなっただけ。と言うのとは違うかもしれないって事か」

「別種なのか、それとも進化したのか分かりませんけどね。何方にせよ、気軽に手を出さない方が良さそうですね。特性と言うかがキラーアントと同じだったら面倒どころじゃ無いですし」

「あぁ、仲間を呼ぶんだったか。だとしたら確かにそうだな」

「まるでD.O.Eでござるな」

「そう言えばあいつ等も同じような事出来たな」

「呼んだというか寄って来たって感じでしたけどね。で、如何しますか?」

「そうだな」

 

と、言いながら蟻を見る。気が付いていないのか、それとも気にしていないのか変わらずゆったりと歩いている蟻を。

 

「……襲ってくる様子がないから無視で」

「虫だけにって事ね」

 

なにか馬鹿な事をコバックが言ったがそれも無視して、彼らは先へと進んでいく。下を目指して歩んでいく。

 

 

 

積りだった。

 

 

 

ギチリッと不快な音が響く、連続する。それはレフィーヤの想像が正しければ警戒音と呼ばれる類の物で在るはずで、その音は蟻から響いた様に思えた。だから彼女は、いや彼等は振り返り武器を構え見据える。視線の先には当然、巨大な蟻。だが、しかし。

 

「…敵意が私達に向いてませんね」

 

そう、まるでここではない何処かにこそ敵が居ると言わんばかりに敵意を彼らではない何処かに向け乍らその身を震わせている蟻。そして、音を響かせながら走り去っていく。

 

彼らは蟻の姿が見えなくなっても警戒を続け。そして暫くしたのちに力を抜き、構えを解く。

 

「何かが在ったんだろうな」

「みたいですね…さっきのってキラーアントのあれ、で良いのでしょうかね?」

「まぁ明らかに、っていうのは言い過ぎか。多分そうだろうな」

 

だとするならば、此処ではない何処かに居た蟻の同種に何かが在ったと言う事だろう。

 

「何が在ったんでしょうね」

「さてな。恐らく何かが在ったんだろう、程度の事しか言えないな。ただ」

「なんですか?」

「進んでいけばその何かと遭遇する可能性が在るっていうのは考慮しておかないといけないな」

 

それはそうだとレフィーヤは頷く。ここでまぁ大丈夫だろうなどと考えるのはただの油断で慢心だ。一気に死に近づくだろうし、そう考える時点で冒険者として終わると思っていい。冒険とはそんな甘いものでは無いのだから。

 

だからこそ楽しいと言えるのだけれど。

 

「それじゃあ、今度こそ進むか。なにかあったらすぐにだぞ」

「分かってますよ」

「言われなくとも」

「なら良し」

 

スッと目を細めて頷きながらローウェンはそう言うと、歩みだす。今まで以上に辺りに鋭い視線を巡らせながら。それに続くレフィーヤ達もまた同じで、その何かを見逃さない様にと。そして、すぐに異変と呼べる事が起きている事に気が付いた。

 

モンスターが居ないのだ。一匹たりとも。

 

「…ローウェンさん」

「隠れてるな。感じからして強い敵から逃れる為って処か」

「やっぱりですか」

「さっきの奴、かしらね」

「そう考えるのが妥当だな」

 

言いながら先に進む。やはり、モンスター達は息を潜め姿を見せようとしない。ただ、何処か、奥へと向かって進む蟻のモンスター以外は。

 

その様子から、今も何かが起こっている。いや違う、何かに襲われていると言った方が良いかもしれない。痛い程の敵意か、或いは闘志とでも言えばよいだろう、それを感じたのだから。

 

「下からだな」

 

何気なく呟かれた言葉に、レフィーヤは静かに頷いた。そしてやはりかと思う。このまま下に向かえば、間違いなくそれと遭遇するに事に成ると。

 

だが、迷うことは無い。恐れはしても止まることは無い。何時もの事だと思いはすれど油断など無く。軽く視線を交らわせ、頷いて進む。モンスターの姿の無いその階を。

 

どの位進んだだろうか。変化が一つ。それは音だ、音が聞こえるのだ。

 

それは何かが叫ぶ音。

何かが擦れる音。

何かが潰れる音。

何かと何かが戦う音。

 

鼻を擽る独特の香り、それは何だったかとレフィーヤは思い出そうとして、蟻の体液の其れだったかなと首を捻る。やはりそこまでちゃんと覚えてはいないかと、思いながらローウェンを見る。

 

「さてこの先で何かが、と言うか蟻が何かに襲われてるって感じですかね?」

「まぁ、だろうな。流石に、これでただ事故が起こっているだけですとは言えんよな。聞こえるの明らかに戦闘音だし」

「それの音が今まさに聞こえなくなった訳ですけど。如何しますか?」

「そんな分かり切ってる事を態々訊くのか?」

「そうですね」

 

その通りだと頷いて、彼らは迷いなくそこへと踏み込んだ。

 

 

 

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