世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百十三話

そこは血に塗れていた。恐らく蟻たちの巣であっただろう場所はその蟻たちの体液に沈んでいた。無数と言える程に大量の蟻たちの死骸の中心に一回り程大きな、そう女王蟻と呼ぶに相応しいだろう蟻が。

 

貪られていた。

 

女王蟻に匹敵する程の大きさを持つ、狼。それが音を立てて殻を噛み砕き食らっていた。その体には無数の傷跡が目立ち、つい先ほどまで激闘が続いていたという証明と成っている。

 

視線を走らせる。今、この場に居るのは巨狼を含めて、三体。其の全てが消耗が激しいからか、彼らに気が付く事無く蟻を貪っている。

 

さて、如何したものかと考える…よりも早く動くのは二人。ゴザルニは駆け、ローウェンが銃弾を放った。明確な隙が在るのだから、それを逃す訳が無いのだと言わんばかりの速攻を掛ける。

 

銃声が響くと同時に、何が起きたのかと顔を上げるよりも早く狼たちはその場を飛び退いた。モンスターとは思えない、その動きはしかしローウェンからすれば想定の範囲内でしか無く。飛び退き着地すると同時に狼を打ち貫く。

 

だが、死んでいない。三頭の内一体は眼球を撃ち抜かれ、今にも事切れようとしているがそれでも生きており、敵意の籠った視線を彼らに向けている。

 

 

ので、容赦なく氷塊を叩き込み止めを刺す。

 

 

断末魔も無く潰れる狼、しかしそれに一瞥もくれる事無く巨狼は吼え、一気に加速して踏み込んできたゴザルニに向かって牙をむく。

 

「っと」

 

想像以上に速い。傷つき消耗しているとは思えない程だ。故に彼女は牙から逃れる様に軽やかに動き、刃を振るう。血が舞う。けれど悲鳴を上げる事無く、巨狼は冷静に距離を…取らない。

 

短く吼えると残った一体の狼が大きく動き、逃走を始める。と、同時に頭蓋が撃ち抜かれ崩れ落ちる。

 

それを見てか、それは分からない。けれど確かに怒りを込めた唸り声を上げながら執拗にゴザルニを責め立てる。下手に下がればそれでお終いだと言わんばかりに。

 

牙と爪とがゴザルニに襲い掛かる。けれど、動きが鈍い。ゴザルニでなくとも危なげなく躱せる程に。やはり消耗しきっている。どうしようもない程に。

 

爪が振るわれると同時にゴザルニの刃が走る。それは容赦なく巨狼の前足を断つ。

 

今度こそ、悲鳴の如き声が響く。けれど、それでもまだだと振りぬいた直後のゴザルニを噛み砕かんと牙をむき。

 

 

真下から作り出された氷の柱に貫かれた。

 

 

柱に貫かれたまま力無く項垂れる巨狼。そっとゴザルニは触れ、事切れている事を確認して、頷いて見せた。

 

「他には…居なさそうですね」

「もっと居たんだろうがな。恐らくは蟻との戦いで数が減ってあの状態だったんだろう」

 

そう言いながら改めてローウェンは見渡す。同じようにレフィーヤも見ると、先程倒したのとは違う、狼の死体が幾つも見える。噛み千切られた様な跡が見える事から、蟻と戦って居たのは間違いないだろう。

 

サッと死体の数を数える。見える範囲では、蟻の四分の一に届くか届かないか程度の数しかない。いやこれは狼の数が少ないのではなく、蟻の数が多いのかとレフィーヤは思いながら頷き。気が付き、思った事を口にする。

 

「ローウェンさん」

「なんだ?」

「狼の毛色、緑色…ですかね?」

「みたいだな。蟻の体液でかなり分かりずらいが」

「ですね」

「爪もかなり鋭いし長いな。走るのに不便そうだって思う位」

「石やら岩やらしかない洞窟の中を動き回るのには向いてなさそうですね」

「だな」

 

ふむ、とローウェンは軽く考える様な仕草をしてから、言葉にする。

 

「やはり、縄張り争いか」

「この場合、攻めてきたのが狼って感じですかね」

「蟻に比べて狼の感じが洞窟暮らしって感じでは無いからな。恐らくはだが」

「それで狼がここまでくる間に居なかったのは」

「ここで戦って居たからか」

「或いは下からやって来たかだね」

 

と、辺りに危険がないか見て回っていたハインリヒが近づきながら言葉にした。その通りだなと頷きながら、さてとさらに考える。

 

「…下から来たのだとしたら、その理由は」

「エサ不足か、或いはあの狼がしたことと同じだな」

「何かに追いやられたと言う事か」

 

だと、したら。

 

「あの狼を追い払えるだけの何かが下に居るって事ですか」

 

言いながら、さらに奥へ。さらに下へと続いている道を見る。

 

「それはなんと言いますか。非常に楽しみですね!」

「迷宮の底へと至らんとする冒険者たちの前に立ちはだかる強敵。うん、物語的だけど非常に良い」

「まぁぶっちゃけ、いつも通りでは在るけどな」

「迷宮ですかね」

「迷宮だからね」

 

その通りだと頷きながら、近づいてくるコバックとゴザルニを見て。如何しますかとレフィーヤはローウェンに問いかける。と言っても、帰ってくる言葉は分かり切っているのだが。

 

「当然、進むさ。まだ、依頼にあった目印に成るものが無かったというには早いからな」

 

そう言葉にするローウェンに、レフィーヤも思わず笑みを浮かべてしまう。確かにと頷いて見せる。

 

「それはよくありませんね。無理は駄目ですけど、最善は尽くさないと」

「だろう? まぁそれらしいものが在ったら帰るけどな」

 

と言う訳でと軽く見渡して、それぞれが同意を示す様に頷いたのを見て。彼は、彼らはさらに奥へと向かって歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、しかし。

 

「あ、樹海磁軸」

 

下りてすぐにそれを見つけたのでさっさと帰還するので在った。

 

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