「うぉぉぁあああぁああぁああ……――――――――」
もはや見慣れた、疲れた表情を浮かべて項垂れるヘスティア。彼女はハインリヒからの話を聞いて椅子の背もたれに寄りかかり、視線を彷徨わせてから言葉にする。
「まぁ、うん。確かに樹海磁軸は目印としてはこの上ないものではある。そこに関しては文句はないよ」
「そうですか」
「うん、まぁうん。それで、その蟻? キラーアントでは無いとか言ってたけど。其れってどれくらいの脅威なのさ」
「どれくらいと言われても、僕には判断できないかな。レフィーヤ、君は何かこう彼女に分かり易く言える?」
「そうですね」
と、少し考える。分かり易くと言えばやはりレベルだろう。そう思い、考えて。言葉にする。
「レベル2の冒険者なら油断しなければ大丈夫だと思いますよ」
「へぇーレベル2かぁー、そっかぁー……因みにレベル1だった場合は?」
「死にます」
「そっかー死ぬのかぁー……因みにだけど」
「なんですか?」
「さっきのレベル2なら大丈夫って、何が大丈夫なんだい?」
「其のままの意味ですが」
「……そっか」
ふぅ…っと深くヘスティアは息を吐き、言葉を口にする。
「今現在オラリオに居る冒険者の最高レベルは幾つだか知ってるかい?」
「知りませんけど」
「まぁ、だろうね。弱体化したという事実をそう好き好んで言いふらす様な事はしないだろうからね、普通」
「でしょうね。それで、どの位なんですか?」
「……4だ」
「4?」
「そう、レベル4。それが現在の最高レベルだ」
「はっきり言いますね」
「まぁね」
と言う事は、何かしらそう言えるだけのものが在ると言う事なのだろう。例えば最高位、いや最強の冒険者がそうなのだとか…いやまぁ、取り合えずそれは良いとして。仮にレベル4が最高だとしたら、それ以下は一体どれだけ居るのだろうかというのが重要だ。
「で、レベル1の冒険者はどの位居るんですか?」
「そんな事を把握出来てる訳が無いだろう馬鹿か君は」
「罵られるほどですか? いやですね」
よく考えればその通りだ。ただでさえ冒険者の大半がレベル1で、それがさらに増えた上に仕事仕事仕事の仕事三昧で時間も無い、挙句そうなったという事を進んで伝えに来るようなもの好きなんてレベルでない人が居る訳も無く。そう考えれば、本当に訊く必要のない問いだったなと、レフィーヤは頷いた。
「と言うか今更ですけどよく知ることが出来ましたね」
「え?……あぁ、レベルダウンの事かい。其れに関しては親切に……親切、か? まぁ、そんな感じで教えてくれた人が二人程いてね。尤も、本当に善意で伝えてくれたのは一人な気がするけどね」
「へぇー、二人も居たんですか……因みにですけど」
「流石に教えないからね?」
「それは残念です。まぁ、二人の内一人は何となく想像付きますけど」
「そうなのかい?」
その言葉に頷いて見せた。本当に想像だけなのだが。しかしその通りだったなら先ほどのヘスティアの発言も確かにと思える。何でそんなことするのか本当に分からないから。
「で、レフィーヤ。その誰かは一体誰なのかな? 僕も知ってたりする?」
「しますよ。ほらあの人、と言うか神ですよ。あのねちっこい視線を向けてくる痴女みたいな恰好してる」
「痴女みたいなって……あぁ、彼女か」
「ちょっと待ってもらってもいいかな?」
「なんですか?」
と、首を傾げながら視線を向ける。表情が死に絶えているヘスティアに。
「その、あれだ。もしも間違えてたらあれだからね、いろんな意味で。一応、その想像してる人物、いや神物か。が誰なのか教えてくれないかな?」
「神フレイアですけど」
「………そっかー、本当にあれだね。相変わらず色んな意味で凄いね、いや本当に!」
やけくそ気味にそう叫ぶヘスティア。反応を見るにどうやら間違って居なかったようだ。中々冴え渡っているのではと特に意味の無いポーズを取りながらレフィーヤは思うのだった。
「いやしかし痴女、痴女って」
「いえ、どう考えても痴女じゃないですか」
と言うかあんな自分たちを欲情しきった顔を浮かべながら見つめてくるのだから痴女以外の言葉では言い表し様が無いだろうとレフィーヤは思う。まぁそんな事をヘスティアが知る訳も無いのだが。正直、余り関わりたくないというのが本音だ。
「まぁ、そんな事はどうでもいいとして」
「如何でもって、いやまぁ確かに関係は無いかもしれないけど」
「でしょう? 重要なのは、迷宮の事をこれからどうするかって事ですよ」
「それは、それはなぁー…取り合えず話し合わなければいけない事では在るから何とも言えないのは、まぁ分かるだろう?」
「其れは勿論」
「だからこれは個人的な言葉でしかないけど。皆に教えたいと思って居るんだ」
「そうなんですか?」
「うん」
頷くヘスティアは、窓から見える景色を見ながら言葉にする。
「だって、嫌だろう? 冒険者が、冒険出来なくて落ちぶれていくなんて」
「確かに、そうですね」
「まぁ、自分で冒険をする場所ぐらい探せって話だけどね」
「それは本当にそうですよね。何も冒険の舞台は迷宮だけじゃないのにそれが無くなったらもう出来る事が無いみたいな空気に成るのは本当にどうかと思いますよ」
「何度も言うけど、本当に色んな意味であれだよね、君達は」
苦笑を浮かべるヘスティア。そしてはてと首を傾げて、彼女は問いかけた。
「そう言えば良いのかい?」
「何がですか」
「迷宮の事を広めてさ。独占、と言う訳じゃないけど、今の所挑んでいるのは君達だけなんだから、其のまま広めない方が邪魔される事無く冒険出来るだろうに」
「あぁ、そんな事ですか。良いんですよ広めても」
「寧ろ、広めて貰わないと駄目だ。うん、駄目だね」
「それは何故なんだい?」
何故って、其れは勿論とレフィーヤは言葉にする。
「競う相手が居た方が、面白いからですよ」
そう、ヘスティアに向かって笑顔を浮かべながら告げたのだ。それを聞いた彼女はポカンと唖然としたように口を開けて、そして困った様、けれど楽し気に…笑ったのだった。