一週間。それを長いと感じるか短いと感じるかは人それぞれで在り、そもそも状況に因って変わる事も良くある事だ。だが、よほど忙しかったりしない限りはどうしてもやる事の無い、言ってしまえば暇な時間が生まれてしまう訳で。
「それでさて如何し様かって考えてたら丁度ベートさんを見かけた訳ですよ」
「……詰まり何が言いてぇ」
「暇つぶしに付き合えくださいおらぁ!……って事ですよ」
「喧嘩撃ってんのかおい」
「何言ってるんですか。その通りに決まってるでしょう」
「てめぇはよぉ……ッ!!」
「あ、蹴ります? 蹴っちゃいます? 挑発に乗って蹴っちゃいますか?」
「ぐッ…! てめぇほんっと性格悪くなったなおい!」
「あ、分かります?」
「分からねぇ訳ねぇだろ!」
ですよねと言いながらレフィーヤは頷いた。だって分かる様に言っているのだしと。
「で、どうですか? イライラしてますか? 殴りたいですか?」
「あぁ、今すぐ蹴り殺したいくらいにはな!!」
「ならば良しですよ」
「なにがだよ!」
「だってイライラを溜め込んでも碌な事にはならないでしょう? それならせめてそれを何かに向けることが出来れば随分と楽だとは思いませんか?」
「…てめぇ」
「まぁ、あんな状況じゃ溜め込むのも仕方ないとも言えますけどね。無駄な事してるな見たいな視線を向けられちゃ鍛錬にも身が入らないのも仕方ないですよ、鬱陶しいですし」
ベートの表情が歪む。恐らく街中を歩いていたのはロキファミリアの居心地が、と言うか向けられる視線が嫌でと言うものなのだろう、と勝手に思ってみるレフィーヤ。
「じゃあ美味しいものを食べに行きましょうか」
「なんでだよ?!」
「え? だってイライラ解消、と言うかあれですよ気分転換したい時は美味しいものを食べるに限るでしょう? 若しくは術を自重なしの全力ぶっぱとか」
で、ベートはそう言うのに向いている術は憶えていなかった筈だから必然的に美味しいものを食べに行く事に成るのだとレフィーヤは言う。
「あ、術を全力で放ちたいんですか? 良いですよ、一時間ほどあれば基本的な術は使える様になりますし。ある意味でそっちの方が良いかもしれませんね。楽しいですよ、周りに一切遠慮なしで放つ術って」
「いやしねぇから」
「そうですか、それじゃあ食べに行きましょうか。当然、私の奢りで」
「…奢らされるのかと思ったんだが」
「やだなぁ、其れやったらもはや性格が悪いんじゃなくてただの嫌な奴じゃないですか」
「分からねぇ…」
「さてと、それじゃあ行きましょうか。最近いい店を見つけたんですよ。こう、貴様に勝てるかな? って挑発する様に笑みを浮かべながら料理を出してくる店主が居る店なんですけど」
「どんな店だよ」
そう言いながら溜息を吐き、意気揚々と歩いていくレフィーヤに仕方がないと言った様子で、そして少し疲れたような表情を浮かべながらベートは付いていく。
そして今、彼は泣いていた。
鼻水は詰り垂れ、咽ては餌付いている。あぁ、此処こそが地獄なのかと彼はきっと思って居る事だろう。声が酷く掠れている。けれどそれでも彼は声を縛りだして問いかける。
「んだよ、ぞれ?!」
「鍋ですけど」
可笑しな事を言うものだと、レフィーヤは思いながらそう返す。どう見ても鍋ではないかと。
「な…べ?」
震えながらレフィーヤの眼前に在る個人用の小さなそれを彼は見る。釣られる様に彼女もまた見る。ゴポゴポと溶岩の如く弾け煮えたぎるそれを。
「じってるのどぢげぇぞ……ッ!!」
「それはまぁ、そうでしょうね。特別な激辛鍋ですから」
「ぞんなレベルじゃねぇぞごれ!?」
そこまで言う程だろうかと思い、よく考えたら慣れてない人や鼻がよかったりする人からしたら其れこそ拷問でしか無いのではないかと今、気が付いた。忘れていたともいう。
「あぁー、すみません。完全に私のミスですね……取り合えず、離れます?」
そう言葉にすると彼は音を立てて立ち上がり勢いよく離れていく、其れこそ限界まで。店の外に、というか言われるまで動かなかったのはプライドの問題なのだろうか。こう、引いたら負けみたいな。
完全に失敗したなと思いながらも、レフィーヤは次の瞬間にはその事を意識から追い出した。そして見るのは眼前に在る鍋と、不敵な笑みを浮かべている店主のみ。そして何時の日だったか、敗北を突き付けられたあの鍋を思わせるそれに。レフィーヤは今、挑む。
涼やかな風が心地よく頬を撫で、通り抜けていくのをレフィーヤは感じ、目を細める。そして、しっかりと視線をげっそりとしていたベートへと向けて、頭尾下げた
「その、本当にすみませんでした。よく考えなくても好みの問題が在ったのに」
「いや、好みとかってレベルの問題じゃねぇだろあれ。ただの劇物だったじゃねぇか」
「劇物とは失礼ですね。いえまぁ一般の人からすればそうなのかもしれませんけど美味しいんですよ? こう、辛さがまるで熟練の鍛冶師の振るう槌の如く舌と脳を揺さぶる程の強い衝撃を与えてきてですね。そしてですね、それを超えた先にですね、鍛え抜かれた剣の如き食材の旨味がさながら達人の振るう剣劇の様に迫ってくるんですよ」
「いや分かんねぇよ」
「む、ベートさんもですか。なんか皆そう言うんですよね」
「だろうな、其れに関しては全力で同意してやるよ」
そう力強く言葉にするベートに、やはり同士はそう多くは無いのかとレフィーヤは思ったのだ。まぁそれは其れで仕方ない事だと思い。さてと言葉にする。
「で、あぁー……一応訊きますけど、気分転換に成りましたかね?」
「成ったと思ってんのか、おい? ただひでぇ目にあっただけじゃねぇかよ」
「ですよねー」
「…あぁー、ただまぁ。あれだ」
「はい?」
「苛立ちは何処かに行ったのは確かだな」
「………ベートさん」
「んだよ」
これは言うべきかはレフィーヤには分からない事だ。だが言わなければいけないと心の中のロキが言って居る。何処からか言ってへんけど!? なんて聞こえた気がしたが、気のせいだろうからと無視して、レフィーヤははっきりと口にした。
「そういう事言うからツンデレって言われるんですよ?」
「うるせぇ!!」