「新たなダンジョンが見つかった」
それは多くの人々にとって突然の事だった。街のほぼ中心に存在する少しだけ高い場所に存在する世界樹のよく見える広場。そこにギルドの職員が集まり、そこの新たな長に無理やりされたヘスティアが用意された壇上の上に立ったかと思えば、そう口にしたのだ。
「それは今までと同じものなのか、そうでないのか。どのようなモンスターが現れるのか、どの様なトラップが存在するのか、何処まで続いているのか。まるで分からない…未知のダンジョンだ」
ギルド職員が何かをしているのをかぎつけてか集まっていた人が、神々が驚きに目を見開き、そしてその多くが顔を蒼褪めさせた。それが、どうしてなのかをヘスティアは理解しながら、それでも街全体に響かせんとする程、声を張り響かせる。
「この事実をこうして口にして居るのは、君達冒険者に聞いて欲しかったからだ。そして、在る依頼を出す為でもある。それはダンジョンの調査、探索…では無く、踏破を目的としたものだ」
彼女は見渡す、何時の間にか集まってきていた人々を。冒険者を見る。
「勿論、これは強制ではない。何せ三大を超えるほどの超高難易度であるとはっきりと断言できるからだ。故に、君達はこの依頼を受けても良いし、受けなくても良い。全て、君達の意志で決めてくれ」
あぁ、けれどとヘスティアは忘れていたと言わんばかりに口にする。
「仮に依頼を受けなかったとしても。君たちは思うがままにダンジョンに挑むと良い」
え…? と言う声が零れた。それが誰からのものだったのかは、ヘスティアにも分からないが、それでもどうしてなのかは分かった。
「そう、望むのだとすれば遠慮することは無い。依頼を達成する為にではなくとも良いんだ。失われたものを取り戻す為でもいいし、強く成る為でもいい、或いは単純に富の為にと言うのでも大いに結構だ。まぁ、詰りはだ。依頼なんてものは、理由の一つに過ぎないんだよ」
だからと、ヘスティアはその両腕を広げて。
「望むならば、求めるなら挑め! それが在るかどうかを、自分の目で確かめる為に! 人の子等、冒険者達よ、その新たなるオラリオの……いや」
街全体に届けと声を張り上げる。
「冒険者達よ、世界樹の迷宮に挑め!!」
大樹を見上げながら、言葉を響かせたのだった。
が、しかしだ。
「なんて言われた割に動きが鈍いですよね」
「そうだな。喜び勇んで突っ込んでいったのはかなり少数だったみたいだな」
「其の内に一人に見覚えのある白髪の少年が居たけど。彼この街に居たんだね。今まで出会わなかったから気が付かなかったよ」
「しかしまた街が汚れるでござるな、血で」
「そう言えば何で彼何時もすぐに血を落とさないのかしらね? どう思う?」
「知らん」
「そうとしか言いよう無いですよね。本人にでも聞かないと」
なんていつも通りな会話を準備を進めながらする彼等。そして言った通り以外な程…と言う訳では無いが迷宮に向かった冒険者の数は多くは無かった。全体の五分の一に届か居ない程度でしかない。尤も、恐らくはと付くが。
いや或いは逆に、五分の一も言われてすぐに向かったと言うべきか。思わずレフィーヤもニッコリと笑みが浮かんでしまうというものだ。競える相手が多い事がとても嬉しいのだと。当然だが、その中の一人としてベートの姿が見えたのが良かった。
そして、金色の彼女も。
「まぁ、だとしてもやる事は変わりないんですけどね」
「寧ろ何が在ったら変わる事に成るんだろうね、特にローウェンとか……所で何でいきなりそんな事を言ったのかな?」
「ただの独り言ですけど?」
「あぁ、そうだったのか。なら反応する必要も無かったか」
「でも反応してくれると」
「嬉しい」
そう言い合ってから、無言で見つめ合ってからレフィーヤは腕を動かし、ハインリヒとはハイタッチ。やはり心が通じ合って居る。
「で、どの位の人が追いついてくるとレフィーヤは思う?」
「そうですね。ロキファミリアの皆さんとかはかなり来ると思いますよ、まぁ多分ですけど」
「多分なのかい」
「ぶっちゃけ今のあの人たちの事、そこまで詳しくないですし。まぁ、ベートさんは来ると思いますけどね。プライド的な意味でも。負けたままで居るとは思いませんし。ねぇゴザルニさん」
「負ける積りは無いでござるがな」
「同じく。あとはそうですね……まぁ、あの人でしょうね」
「あの人とは?」
「それはですね」
「アイズとかいう奴だろう?」
そう、ローウェンは言葉にした。レフィーヤは視線を彼に向ける。
「よく言おうとしてた人が分かりましたね」
「寧ろ分からないとでも思ったのかレフィーヤ……いや違ったな」
「何が違うんですか?」
「違うだろう、なぁ? アイズさん見つめ隊のレフィーヤ・ウィリディス」
「ゴバァ―――ッ?!」
何かが込み上げてきて吐いた。若しかしたら血かも知れない。其れほどの苦痛がレフィーヤの胸を貫いた。そして思うの、今それを持ち出すのかと。
「何故…今、それを」
「いや、今言ったら中々楽しい事に成りそうだったからな。丁度、忘れているだろうと思ったしな」
その通りで完全に忘れていた。言われなければ思い出さなかっただろう程に。なんと言う事か、そんな所まで的確なのか彼はと戦慄する。まぁいつも通りではあるが。
それでも苦しい事に変わりはないと悶える。しっかりと準備を終わらせてから。
「っと、これで大丈夫でござるか?」
「問題ないわよ、わたしは」
「気球艇も何時でも出せますよ」
「らしいぞ」
「あ、そうですか」
そうとなればと、レフィーヤは何事も無かったように立ち上がり、其れっぽく着色してあるだけの水を拭ってから気球艇に乗り込んだ。
向かう先は当然、世界樹の迷宮だ。