世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百十七話

彼らが進むは大木の生い茂る階層。世界樹と比べてしまったらあれだが、それでも十分すぎる程巨大な其れは、彼らの進む道を暗く影を落としていた。

 

尤もその程度で彼らの歩みが止められるわけでは無いが。

 

ふと、何気なく上を見るローウェン。どうかしたのかとレフィーヤが見ると、大したことでは無いと言いたげに腕を振って。

 

「いやなに、あの時の狼は恐らくこの階層に生息してたんだろうなって思っただけだ」

「と言いますと」

「木の上にそれらしい傷が見えたから」

「傷ですか」

「そうだ。縄張りの主張の為のものか、それとも単純に移動する際に出来ただけのものか。まぁ恐らくでしかないがが移動した際に出来た物だろうな」

「あぁ、成程。あの爪はしっかり木に食い込ませるためのものだったって事ですか」

「何度も言うが多分でしかないがな」

 

まぁ、実際に見た訳では無いのだからそれは仕方ない事だと思いながらレフィーヤもまた巨木を見上げて、ふと思った事を口にする。

 

「あの狼って木の上で過ごしてたんですか?」

「そんなものさっきの以上に知る訳ないだろう」

「ですよね」

 

在り得ない事では無いだろうが。しかしやっぱり断言は出来ない。何時もの事だが、やはりはっきりしないというのは何とも、引っかかるというか微妙な気持ちに成るものだとレフィーヤは思いながら、落ちてきたモンスターを躱し術で貫く。

 

「まぁ、こんな感じであの狼が上から襲い掛かってくるかも知れないって思っておいた方が良いでしょうけどね」

「其れはそうだな。だが、そいつは襲い掛かって来たというよりはただ単に落ちてきただけだと思うぞ」

「敵意とか無かったですもんね」

 

だとしても危険である事に変わりないが、寧ろ下手な奇襲よりも危険かもしれない。

 

「しかしあれだね。こう、前の階層との差が激しい所とか実に迷宮らしいよね。前のオラリオのダンジョンだっけかもこんな感じなんだっけ?」

「間違ってはいませんけど、そこまで急激な変化では無かった筈ですよ? よく覚えてませんけど」

「断言はしないんだ。まぁ、仕方ない事だけど」

「そうだな。調べようにも資料とか諸々はかなりと言うかほぼ全部この前ので紛失し様だしな。今あるのは記憶頼りの物でしか無いから確実とは言えないし」

 

だから仕方ない事だ、と彼は肩を竦めながら言った。

 

「まぁ、最低限。前のと違うか違わないかが判断出来れば依頼的には問題ないだろう」

「そうですね」

 

と言うかそこの判断がつかなかったら、そもそも依頼を受けていなかったかも知れないしとレフィーヤは思う。達成できないものを受けるほど阿呆では無いのだ。

 

何て、恐らくモンスターの物だろう視線を感じながら彼らは進む。

 

 

 

その眼前に、ズルリッと何かが這い出てきた。

 

 

「…なんだ?」

 

それが何であるのかを彼らは知らない。分かる事と言えばそれが無言で敵意を、いや憎しみの籠った視線を向けてきている事位だ。反射的に杖を構えるが、しかしローウェンに視線で止められ、何もせずにただそれを見る。

 

全身をローブで覆い隠しているそれはゆっくりと視線を動かし。そして、暗く重い声を響かせた。

 

『―――――まだ、駄目だ』

 

ただ一言。それだけを言うと僅かにローブを揺らし、それの姿は溶ける様に消えた。そうして何かが消えてから暫くの間は辺りの警戒を続け、何もないことを確認してから言葉にする。

 

「なんだったんですかね、あれ」

「さてな。少なくとも、友好的では無かったのは確かだろう」

「あれだけの敵意やら憎悪やらを乗せた視線を向けられれば誰だって分かる事でしょう、それは。で、ですよ、何か他に分かった事ありますか? 私は特に在りませんけど」

「そうだな……何となく、魚っぽかったな」

「魚ですか?」

「あぁ、と言ってもさっきローブが揺れた時にチラッと見えただけだがな」

「揺れたって、本当に一瞬じゃないですか。相変わらずですね」

「それはどういう意味でなのかは取り合えずおいて置いといてやろう」

「ありがとうございます」

「しかし魚っぽいというのは確かにそうかもしれないでござるな。其れらしい臭いがしたでござるし」

「え? 臭いって……生臭い感じの?」

「よく言えば磯の香的なものでござるが、まぁそうでござるな」

 

それは、よく言う必要が在るのだろうかと思ったが、取り合えず気にせず考える。

 

「……ここで魚っていうのも可笑しいですよね?」

「まぁ、森だしな。それも水辺が見当たらないし」

「磯、と言うものからかけ離れてるでござるな」

「因みに、其れっぽい所は前のオラリオのダンジョンには?」

「えぇーっとですね……あぁ、在りましたよ。名前までは憶えてませんけど」

「と言う事は、さっきの溶ける様に消えた事を考えるに、そこからここに来たって事に成るのかね……態々俺たちに会いに、と言うか見にか」

「態々?」

「態々」

 

一体どんな意味が在るというのか。それを先程の何かが言った言葉から考える。

 

「駄目だって言ってましたよね。あれは、あれですかね。まだ勝てないから駄目だって事なんですかね」

「或いは、ここから先に進んでも死ぬだけだから帰れって意味かも知れんぞ? まぁ、流石に無いだろうが」

「そうですね。そうだとしたらあんな視線向けてきませんもんね」

 

まぁ、取り合えず如何するのかと言えばだ。

 

「放置だな。出来ることないし」

「ですね」

 

そうしてサクッと切り替えて、彼らは進むのだった。

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