世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

218 / 241
第二百十八話

特にこれと言ったことも無く十階までたどり着いてしまったギルド・フロンティア一行。

 

調子を確かめる様に振るい、杖を軽く撫でながらふとレフィーヤはそう言えば聞き忘れていた事が在ったなと思い出した。なので、サッと汗を拭ってから銃声を響かせるローウェンに向かって問いかけた。

 

「そう言えばなんであの時、あの良く分からない魚っぽいらしい何かが出てきた時に私を止めたんですか?」

「ん? あぁそう言えば言ってなかったか。しかしそれ今訊くか?」

「まぁ、今である必要は在りませんけど。妙に気に成りましてね」

「そうか。しかし止めた理由か……なんか、あれだったんだよな」

「あれ、とは?」

 

如何いう事なのかと、レフィーヤは首を傾げ僅かに視線を向けて見る。彼はふむと銃を放ちながら少し考える仕草をしてから口を開いた。

 

「あいつの状態が……あぁ、言い表しにくいがそうだな。追い詰められた草食動物みたいなとでも言えばいいか。そんな感じの状態だと思ったんでな、そんな奴に下手に手を出せば碌な事にはならないだろうから止めた」

「成程、確かにそれは危ないですね」

 

もしも自爆とかされたら困る処ではないしと、何となしにレフィーヤは爆弾カズラや何時ぞやの石像を思い出す。そう言った類のものは命を捨てる事を前提で在るから、止める事が容易ではないから質が悪いのだとレフィーヤは思わずと言った様子で顔を顰めた。

 

それを考えれば確かに手を出さなかったのは正しいのだろう。自爆しなかったとしても、追い詰められて決死の覚悟での反撃と言うのはとても恐ろしいのだから。

 

因みに、どうしてそう思ったのかは聞かない。そう大した理由が在る訳では無いと察したからだ。多分、勘とか経験則とかそう言った当たりのだ。

 

「他に訊きたいことは?」

「とくには無いですね」

 

と、言いながら手の中で軽く杖を回しながら見る。

 

その瞳に映すは恐ろしき妖花。巨大な花に身をゆだねていた美しき人型は香りを纏い。しかし其の全ては命を蝕むもので在った。微笑みを称えた人型の吐息は、鮮やかな花弁より香るそれは惑わし誘い正気を奪う。伸び揺れる蔦は人の体など容易く砕き、絞め殺すことが出来るだろう。そんな十階の中央で遭遇した強力で凶悪な階層の主と呼ぶに相応しいその妖花は。

 

 

今、炎に焼かれ絶叫を上げていた。

 

 

「花って叫べるんですね、ちょっと吃驚……いや、同じ様なのは結構居たような気もしますね。と言う事は別に珍しくはないんですかね」

「知らん」

 

なんて少しずれた事を言いながら、ローウェンの一撃に因って顔の上半分が吹き飛ばされた妖花は苦しみから逃れようと蔦を乱雑に振るい、しかしその全てが彼らに届く前に撃ち落されていくのをレフィーヤは眺め。次の瞬間勢いよくその場から飛び退く。

 

直後に、先程までいた場所を突き破り姿を現すのは妖花の根。蔦に劣らず凶悪なそれは、しかしレフィーヤに因って叩き込まれた炎に飲まれ崩れていく。

 

為す事の全てが阻まれ、唯その身を削られて行くばかり。蹂躙と呼ぶべきその光景が広がる理由は、妖花が彼らよりも弱かったから……では無い。

 

ただ、彼らの予想を上回る事が無かったからに過ぎない。

 

蔦や根による攻撃は強力である事は確かだが、似たような攻撃をしてくる妖花以上に強大で凶悪な存在と戦い乗り越えた事の在る彼らにとっては対処はそう難しいものでは無かった。

 

そして妖花の毒に関しては運が悪かったという他ないだろう。勿論、妖花の方が。彼等の持ち歩いている薬で解毒可能なものだったのだから。そして、毒を使うと分かった時点で彼等は速攻で倒す為に全力で攻撃を叩き込んだのだ。毒を奇襲と同程度かそれ以上に危険だと思って居るから。

 

後はそう、燃えるのが悪い。

 

そう言う事もあって現在の惨劇である。もはや根を使った攻撃すら出来ずに絶叫する妖花の姿に流石のレフィーヤも憐れみを憶える。

 

「まだ叫べるみたいなんで追加行きますね」

「頼む」

 

なんてことは無く、事切れるその瞬間まで徹底的に攻撃を叩き込む。油断などありはしない。

 

さてどれ程の時間が経過したか。其れほどでは無いだろうなとレフィーヤは思いながら灰、或いは炭と化した妖花を見る。

 

まぁ、こんなのが居たらあの巨狼達が逃げるのも仕方がないだろうなとフィーヤは所々に落ちているあの時の狼と同種のものと思われる骨を見て思うのだ。蔦だけでも面倒なのに何時何処から襲い掛かってくるかとても分かり辛い根に毒まで撒き散らすのだから。そう考えながら納得したように頷く。

 

さてとレフィーヤは視線を妖花だったものから外し辺りを見渡す。他にモンスターは来ていないかと探り、近づいてくる敵意を持ったものが居ない事を確認してから。

 

敵意を持たない何かが居る方向へと視線を向けた。

 

向けられるまるで見定めるかのような視線を受けながら、如何するのかと横目で同じ方向に視線を向けているローウェンを見る。すると彼は軽く息を吐いて言葉を口にした。

 

「用が在るなら出てきたらどうだ?」

 

その言葉に、何かが動く。ゆっくりとだがしかし止まることなく。

 

 

離れていった。

 

 

「………来ないのかよ」

 

そんなローウェンの呟きが、辺りに響いたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。