世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百十九話

それは雲一つない晴れの日の事。レフィーヤが今いるのは気持ちの良い風が吹き込む部屋。では無くギルドだった。とある理由、というか依頼に関して話が在ったから訪れているのだが。

 

「無理ですね。今回の依頼を私は受ける事は出来ません」

 

と、ギルド長であるヘスティアに向かってそう口にした。

 

「…随分とはっきりと言うね」

「そう言われましてもね。無理なものは無理ですから」

「いやまぁ、そう何だろうけどさぁ」

 

いやでもと、そう少し困ったような表情を浮かべるヘスティアに対して彼女は肩を竦めながら言葉にする。

 

「理由は、勿論聞きますよね」

「当然だとも」

「単純に依頼の内容が問題だからですよ」

 

内容が? と首を傾げるヘスティアを見ながらレフィーヤは自分がギルドに足を運ぶ事となった彼女個人に対しての依頼の内容を改めて思い出しながらそう言った。同じように思い返していただろうヘスティアは少し考える仕草をする。

 

「どこか可笑しな…いや拙い所でもあったのかい?」

「無かったら断りませんよ。あと言っておきますけど別に術を広めたくないからとかいう理由ではないので。寧ろ積極的に広めてます。ラキアでもすでにかなりの人に教えてますからね……と言うかそれを知ったから私に依頼を出したんでしょう?」

「うん、その通りだよ。その通りだからなんで断られたんだって一瞬だけど思ったんだよね」

「でしょうね。じゃあ…と言うのも可笑しいですかね? まぁそれは置いておくとして私の術、印術の特徴がどの様なものか知ってますか?」

「印術の……特徴?」

 

そうですと、何気なく人差し指を立てながら言葉を続ける。

 

「印術の特徴はですね。簡単な事です」

「簡単……何とも、分かり易い特徴だね」

「はい。私は他にも幾つか術理を学んでますが、印術よりも簡単な術は知りません。極端な話、印を憶えてそれを書ける様になればそれだけで使うだけなら出来てしまいますし」

「成程、それは……」

 

言葉が止まり、ヘスティアの視線が泳ぐ。暫くした後に改めて彼女はレフィーヤを見て。

 

「それはとても危ないのでは?」

「危ないですよ。使いこなせなくたって子供でも火事を起こせてしまえるように成る訳ですから。と言う訳で改めて私への依頼の内容を思い返してください」

「……あぁ、成程。そこが問題だったと言う事か」

「はい」

 

そう、ヘスティアからレフィーヤへの依頼、その内容。分かり易く言えばそれは彼女の知る術に関する技術や知識を広めやすい様に紙などに書き出して欲しいというもの。本当は少し違うかもしれないが広めて欲しい、と言うよりは残して欲しいという内容である事に変わりないのはヘスティアの反応を見ればわかる事。だから彼女はもう一度はっきりと言葉にする。

 

「だから、依頼を受ける事は出来ません。そんな書き写すだけで増えていく危険物なんて残すつもりは在りませんから。まぁ、ずっと私が管理して見せる相手も選んで良いって言うんでしたら話は別ですけど」

「それは書いてもらう意味がないよね」

「私が死んだ後には意味が出て来るんじゃないですか?」

「管理者が居ない危険物としてのかい?」

「さぁ? 流石に私が死んだ後の事は分かりませんよ」

 

想像は出来ますけど、なんて呟けばヘスティアは何とも言い難い笑みを浮かべた。きっと同じ所に考えが行きついたのだろうとレフィーヤは思う。詰まりろくでもないと言う事だ。

 

しかしと、口に出す事無く思う。実の所、先程言った危険性を皆無にする方法がある事をレフィーヤは知っている。と言うか見たことが在るのだその現物を。だが、やはり駄目だなと思う。あれはただの怪文書でしかない。危険性がない理由が理解できないからと言うものなのだから、そんなものを作り残した処でやはり依頼の達成にはならないだろう。

 

ただ術者達を苛立たせるゴミが増えるだけだ。

 

「それにしても大丈夫なのかい?」

 

そんな事を考えているレフィーヤにヘスティアはそう言葉にする。大丈夫とはどういうことかと視線を彼女へと向け乍ら思い。あぁ成程と頷いて見せた。

 

「ラキアで印術を広めた事ですか」

「うん、其の事だよ。言っては何だけど…その、あの国の主神が相当あれだろう?」

「まぁ分からなくも無いですけど取り合えず大丈夫だと思いますよ? 危険性とかは物理的に叩き込みましたし、意識も出来る限り逸らしましたし。やはり冒険者だと簡単ですよね」

「冒険者だとって」

「冒険の舞台が迷宮だけでは無いって教えただけですよ」

 

そう、大したことでは無かったと言わんばかりにレフィーヤは言葉にする。

 

「伝承とかお伽噺とか。そう言った興味深いものが軽く調べただけでもかなりありましたからね」

「へぇー…例えばどんなのだい?」

「例えばですか? そうですね、ある程度信憑性と言いますか、在り得そうだなと思ったのを上げますと」

 

少し思い出す様な仕草をしてからレフィーヤは口を開いた。

 

「例えば天へと至る事の出来る柱の話とか、邪竜に挑んだ偉大なる三と英雄の話。他にも悍ましき神を封じる為にその身を贄とした少女の話とかも在りましたね」

「あぁ…それは」

「在り得そうでしょう? まぁ、天へと至る柱に関しては何となくどういうものなのか分かりますし、邪竜の話も想像できます。因みに今個人的に気に成ってるのは少女の話ですね。何せ最近、その悍ましき神と言うものに当て嵌まりそうな存在と相対した訳ですし」

「それは……うん、そうだね」

「でしょう? あぁ、あとですね」

「まだ在るのかい?」

「そうですね。と言っても気に成っているのはこれで最後ですが」

 

そう言って、それはと少しだけ間を置いてから口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星を喰らうものって言うんですよ」

 

瞬間、空間が軋むのをレフィーヤは感じた。

 

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