「…何で君が知っているのか、なんて事は訊くまでも無い事だね」
「何時かはそれを知るだろうとは思って居たよ」
「其れに関して僕に訊きに来るかもしれないともね」
「でも、ごめんよ」
「それの、あれの事を君に話すことは出来ないんだ」
「君に何か不足が在るからとか、そう言うんじゃないんだ」
「ただ、そう唯僕が臆病なだけなんだ」
「あれの事を口に出すことも、思い出す事すら恐ろしくて」
「だからごめん」
「…って言われちゃいましてね」
なんて、食堂で寛いでいたゴザルニと一緒にギルドから帰ってくる際に寄り道して買ってきた菓子を口にしつつ在った事を話すレフィーヤ。
「そ、れは……その、あれでござるな」
「えぇ、一目であぁこれは無理だなって分かりましたよ。幸いと言いますか、一番知りたかった事はある程度分かりましたからその話は早々に切り上げて帰ってきた訳なんですけどね」
「寄り道しながらでござるか?」
「寄り道しながらですね。これ美味しいでしょう?」
「で、ござるな」
と菓子を一口。サクサクと心地よい食感と優しい甘さを楽しむ二人。
「因みに知りたかった事とは何でござる?」
「んふぇ?」
変な声が漏れるレフィーヤ。少し待って欲しいと手で制してから、口の中に残っていた分を呑み込んで。置いておいたお茶で一息。
「……はぁ。で、知りたかった事は勿論、星を喰らうものに関してですよ。正確にはそれが空想の存在なのか、それとも実在する存在なのかを知りたかったんですよね」
「成程、それでレフィーヤ殿はどっちだと判断したのでござるか?」
「実在する存在でしょうね。神ヘスティアの言い方や反応からして確かに実在するんだと確信しましたから。まぁやっぱりと言うか、やばい存在みたいですけど」
お茶を一口。そして少しの間。やはり今日はいい天気だなと思いながら外を眺めるレフィーヤに対して、ゴザルニはしかしと言葉を向けた。
「しかし、あの星を喰らうものがでござるか」
「ん? あの、なんて随分な言い方ですね?」
「いやいや、レフィーヤ殿が知っている以上の事は知らないでござるよ」
「なら何を持ってあのなんですかね」
「ただ単に、星を喰らうものと言う話の内容を思い出しただけでござる」
「……あぁ、あれをですか」
「ござる」
二人して少しだけ遠くの景色へと視線を向け乍ら、それでも思い出してしまう星を喰らうものと言う話の内容。それは、こういうものだ。
『ある日、災い落ちてきた』
『落ちた災い、星喰らう』
『大地貪り、海呑んだ』
『多くの命、食われて消えて』
『だからやさしい大樹は悲しんで』
『災い止めんとその身に封じ』
『やさしい大樹は空へと消えた』
『二つの欠片を残して空へと消えた』
『そして残るは少しの命と光と二つの欠片』
『後は全部、食われて消えた』
と言う内容を二人は思い返して、ポツリと言葉を零した。
「何度、考えても……子守歌って感じじゃないですよね」
「しかし、子守歌集に記されていたのでござろう?」
「最後の方に申し訳程度にですけどね。あれを作った人も子守歌としてはどうなんだろうって思ったに違いありませんよ」
「子供の心に深い傷を残しそうな内容でござるからな」
言って、少し視線を感じつつもそれを無視する。きっと心に傷が出来る子守歌とは? と疑問に思った誰かが見てきているのだろうと思いながら。
「…もしもの話でしかないんですけど」
「何でござるか?」
「もしも、子守歌の内容が本当だとしたら…この星って」
「滅びかけたって事でござろうな」
或いはかけたのではなく、滅びたのだと言うべきなのかもしれない。
「つまりあれですよね。間違いなく原初の闇や昏き禍と同等の存在って事ですよね」
「まぁ、以上である事は在っても以下である事は無いと考えておくべきでござろうな」
「ですよね。救い、とは少し違いますけど内容通りなら封じられた上でこの星には居ないと言う事に成るって事ぐらいですかね」
「それでも場合に因っては相対する事に成るでござろうがな」
「止めてくださいよ。ただでさえそう言った存在と相対する機会が凄く多いんですから」
「しかしレフィーヤ殿。正直少し想像して心が躍ったでござる」
「いや確かに私だって一瞬だけですがそうでしたけど、原初の闇や昏き禍ともう一度戦うようなものですからね? 昏き禍の時は世界樹の助けが在ったから良かったですが原初の闇みたいな戦いとか御免なんですけど」
「それは確かでござるな。拙者もあの体内から腐っていくような感覚はもう味わいたくないでござる」
「寧ろあれを自分から味わいたいなんて言う人なんて……あ、ごめんなさい」
「何故謝るでござる? 何故拙者から視線を逸らすのでござる? 説明してほしいのでござるが? ござるが?」
其れは勿論、一人だけ実際にそんな様な事を良いそうな大変あれな性癖を持っている戦闘狂をゴザルニを見て思い出したからです。なんて事はレフィーヤは言わない、言うまでも無い。何せ彼女はレフィーヤが思った事を理解しているから、だから少しだけ涙目に成っているのだろうし。
「大丈夫ですよ。あの人はこの街どころかこの星に居ませんからこちらから向かわない限りは出会う事は在りませんとよ……多分」
「そこは断言してほしかったのでござるが?!」
「だって私達がこうしてここに居る時点であの人も同じ様に訪れる事が出来る可能性が在る訳ですし」
「出来れば否定したいけど冒険者として否定できない事言わないで欲しいのでござるが?!」
そんな悲鳴にも似た言葉を聞きながらし。まぁ、実際は自分達にはアルコンと言う案内役と言って良い存在がいた事を考えればさらに此処まで来れる可能性は低くなるのだがと思いながら悶えるゴザルニを見つつレフィーヤはお茶を飲むだった。
「まぁ、どれだけ絶望的だろうとそれを乗り越えて行くのが冒険者なんですけどね」
「確かにその通りでござるが今そう言う事言わないで欲しいのでござる!!」