それはダンジョンから帰還して少しした後の事。とある大通りから少し外れた場所にある普通の食事処にて、程々に居る客がそれぞれに食事や知り合いとの会話を楽しんでいる中で彼女も、レフィーヤも彼らと変らず食事を在る人物、いや神物と共にしていた。
「ぅうぉおおぉお――ぅ……」
ふと呻き声がレフィーヤの耳に届く。彼女は手に持っている匙を置き、口元を拭きながら横目で声のする方向へと視線を向ける。と、そこには顔を覆う様にし乍ら天井を見上げているロキの姿が在った。何故そのような事に成停るのだろうか、等と疑問に思う事は無い。そもそもがそうなる原因が彼女自身なのだから。
そして何をしたかと言えば単にダンジョンで在った事を、知った事をロキに話しただけ。
そう、話しただけなのだが。ロキが、いやある程度真面な神が聞けば今の彼女の様になるだろうとレフィーヤは思って居た。なのにロキにそれを話した理由はそれを知らない、或いは忘れたままで居る事は良くないだろと思ったから。
あと単純に色々と弄るのに使えそうだと判断したから。
「で、話を聞いた感想は聞かせて貰っても良いですか? 天界のトリックスターを自称するロキ様」
「…いや、いやなレフィーヤたん。ちゃうねん」
「何が違うんですか? 忘れていただけなら兎も角色々とやらかしてたロキ様」
「言葉の刃が半端ないんやけど?!」
「そうでもないと思いますけど、まぁ神ウラノスの数少ない協力者で在ったらしい神ゼウスや神ヘラをオラリオから追い出してしまったロキ様がそう思うんならそうなのかもしれませんけど」
「……レフィーヤたん、一つ訊いてもええか?」
「良いですけど、何ですか? よく仕事をほっぽり出してリヴェリア様や神ヘスティアに迷惑をかけているロキ様」
「うちの事虐めてそんな楽しいんか?」
「とっても!」
「良い笑顔とサムズアップ付きではっきりと言わんでもええやん!? なんやねん?! うちなんかしたんか!?」
「セクハラとか……ですかね?」
静寂。一瞬では在るが二人だけでなく彼女たちの居る場所、詰まり店内から喧騒が失せる。何気なく横目で少し離れた所に立っていた店長を見ると、其れはそうだと言わんばかりに頷いている姿が見えた。
少し声を震わせながら、ロキは言葉にする。
「それは、あれやん? こう、あれやん? スキンシップちゅうあれやん?」
「なんか同じような雑な言い訳聞いた事ありますね…まぁ、良いですよ。特別に許してあげますよ」
「ほんまか?!」
「えぇ、と言う訳でちょっと外に行きましょうか。大丈夫、軽く術の練習するだけですから。若しかしたら制御から外れてロキ様に直撃するかもしれませんけどそれはもう事故と言うか偶然なので気にしない方向で」
「許す気皆無やんけ!」
「はい!」
「良い声とサムズアップ!! なんやねんほんまもうー…うちな、あれなんやで? レフィーヤたんに食事に誘われてめっちゃ嬉しかったんやで?」
「私も嬉しいですよ、思った通りの反応してくれて。ダンジョンから帰ってすぐにロキ様の所に行って誘った甲斐が在るというものですよ」
「最初から其れ目的だったんかい!」
なにか、口から言葉に成らない音を零しながら頭を掻きむしるロキ。暫くした後力尽きたように机に突っ伏してしまった。
「レフィーヤたん」
「なんですか?」
「何が在ったらそこまで性格が悪くなるんや?」
「そんな悪いですかね?」
「いやいや相当なもんやで」
「そうですか…しかし何が在ったらですか」
その言葉を何度か口にしながら考える。確かに今と昔とではかなり変わったというのは自覚が在る。悪くなったか否かは置いておくとしてもだ。さてと、色々と思い出して見て。何気ない様子で口を開いた。
「私って少し前まで別の世界、と言うか星に居たじゃないですか」
「え、あ、そやな」
「で、当然常識とか色々と違って居た訳で」
「…なんか想像付いてもうたけど、それで?」
「種族のとか故郷のとか、後ファミリアとかでの常識とかを一回全部引っぺがした上であっちでの常識とかノリとかに合わせたらこうなったって感じですかね」
思い返してみて思うのは、そんな劇的な事が在って変わったと言う事では無いなと言う答えにレフィーヤは思い至ったのだった。そしてその言葉を聞いたロキは小さく言葉を零す。
「…あのな、これだけは言っちゃあかん事やって分かってるんやけどな。それでも一回だけ言わせてや」
「何ですか?」
「可愛らしかった頃のレフィーヤたんに戻って!」
「嫌ですよぶちのめしますよ」
「ならせめてその辛辣すぎる言葉を何とかしてーや!」
「セクハラ止めるなら良いですよ」
「………………」
「なぜ黙るです?」
そう、思わず声が零れるレフィーヤ。するとロキはサッと勢いよく視線を逸らした。ついでに話を逸らす為か語りだした。
「いやぁ! しかしあれやんか、レフィーヤたんはその、うちに構ってるほど暇では無いんやろ?! こう、あれやん? 色んな所から依頼とかが舞い込んできてたりとか?」
「何でロキ様はセクハラの話になると雑になるんですか? でもまぁ、暇では無いって言うのは確かでしょうね。でもそれってロキ様だってそうでしょう?」
「いや別に忙しくは無いで?……あ、いや別にドちびに押し付けとるからとかやなくてやで? ほんまやで?」
「あぁいえ、そう言う意味では無くで――――――――」
「レフィーヤさん!!」
「あん?」
「はい?」
言葉が言葉に遮られる。そして声が響くとほぼ同時に二人から零れた声をまたも遮りかき消す様に勢いよくドアが開かれる。
一体なんだと視線を向けた先に居たのは一人の男性、いや少年と言った方が正しい様に思える人が立っていた。まるで兎を思い起こさせるような柔らかそうな白髪に赤い瞳、しかし兎とはかけ離れた濃い血の匂いを感じさせる少年、ベルはその瞳を輝かせ。
「僕、本を書こうと思います!!」
耳が痛くなる程に大きな声で口にした。思わずと言った様に耳を塞ぐロキを横目に、レフィーヤは冷静に答えた。
「そ、そうですか」
それ以外何と言えば良いのか、彼女には分からなかったそうだ。