「其れで―…その、あー」
言葉を選ぶレフィーヤ。いや正確には探すと言うべきだろうか。未だ興奮している様子のベルにちゃんと伝わる言葉を。割と力づくで座らせたベルを見て、いや分かり易く問いかければいいかと思い彼女は言葉にした。
「なんで本を書こうと思ったんですか?」
「悲劇が在ったからですよ!」
「うーんどういう事なんですかねぇ」
「悲劇が在ったから本を書くって」
なんやそれと、呟くロキを横目に。しかし次に何を聞けば良いのか分かったとレフィーヤは続ける。
「で、どんな悲劇が在ったんですか?」
「本が無かったんですよ!!」
「いやあるやろ?」
「欲しかった本が無かったとかですか?」
「そうなんですよ! 無かったんですよ!! だから書くんですよ!!」
「いやだからなんでそこから書くなんて事に成るねん」
「そんなのレフィーヤさん達の本が無いのが可笑しいから、いえ悲劇だからに決まってるじゃないですかっ!!」
「……は?」
「あぁ、そう言う事ですか」
何度も何度も力強くテーブルを叩き音を響かせるベル。そして彼の言った言葉に因ってどういう事なのかを理解したレフィーヤは頷いた。そして視界の端でこれも若さかと呟きながら頷いている店長が見えて若さってなんだというとてもどうでもいい疑問が新たに湧いて出てきていたりした。
が、まぁそれは取り合えずいいとしてとレフィーヤは口を開く。
「詰り私、いえ私達に関して書かれている本が探しても無かったから自分で書いてしまおう…って感じですかね」
「はい!」
「そう言う事やったんか。成程なぁ……なぁレフィーヤたん」
「なんですか?」
「この子何時もこんな感じなんか?」
「そうですねぇ。何時もはもう少し」
言いながら思い返して。
「もう少し血なまぐさいですかね」
「物騒すぎひん?」
「そうでもないでしょう? 冒険者ならそんな珍しくない事ですし」
「うちの知ってる冒険者とレフィーヤたんの知ってる冒険者とが乖離してる気がしてならん」
「それはそうでしょう」
正しく別物ですしと呟くレフィーヤ。しかしそれはベルのテーブルを叩く音にかき消された。何時まで叩いているのだろうと思いながら口を開く。
「まぁ、取り合えず話は分かりました。まぁ、書きたいというのなら私は別に構いませんよ」
「ありがとうございます!! これで少しでもレフィーヤさん達の冒険譚を知らないという悲劇を減らす事が出来ます!!」
「うーん、流石に悲劇は言いすぎな気がしますけど……まぁ、頑張ってくださいね」
「頑張ります!! それでは!!」
勢いよく、其れこそ椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がるベル。そして其のまま駆け出し。
「あ、騒がしくしてごめんなさい」
店長の元まで行き頭を下げ謝罪してから店を後にした。去っていく背中を眺めながらレフィーヤは呟く。
「いやぁ、本当に嵐みたいになっちゃいましたねぇベル君は」
「嵐みたいやったちゅうのは同意やけど……普通に謝っていったな」
「迷惑と言います悪い事したと思ったら最低限謝る位はするでしょう、普通」
「いや其れはそうやけど」
「まぁ、迷惑をかけたとも悪い事したとも思わなかったら謝るなんて事絶対にしないでしょうけど」
「そんなことやろうと思ったわ畜生!」
「そう言う意味では騒いで迷惑かけたと思うあたり良い子ですよねベル君」
「……まぁ、それはそうやな。なんや、無性に納得できひんけどな」
「それは其れで良いんじゃないですか?」
何て言って。さてと、特に意味も無く手を叩いてからレフィーヤもまた立ち上がる。
「それじゃあ私もそろそろ行きますよ。色々やる事ありますし」
「…あ、そうなんか」
「えぇ、依頼関係の準備に。あと調べたい事もありますからね。いえ、調べごとも準備の一つですかね」
なんて言いながら店長の元まで向かい。会計を済ませる、前にふとレフィーヤはロキを見て言葉にする。
「ロキ様はまだいますか?」
「いやうちももう行くわ」
「そうですか。あ、支払いは済ませちゃいますけど」
「なんや悪いな」
「そう思うなら自分の分は、と言うか私も分も出してくれます?」
「おう、ええで!」
「きゃーろきさますてきー」
「はっはっは、ほんまにそう思うならその棒読みなんとかせいや」
「無理ですね」
「だろうと思ったわ!!」
そうやけくそ気味に言葉にするロキと共に店の外へ。暫く、歩く。
「…まぁ、あれや。独り立ちした子にあんまりとやかく言うのはええことや無いんやろうけど。頑張れって言う事ぐらいはええよな」
「えぇ、良いと思いますよ。飽くまで個人的にはですけど」
「そうか、なら良かったわ」
「でも頑張れは私からも言える言葉ですからね。例えば仕事の事とか」
「あぁーなんやよく聞こえんなぁー。耳が遠くなってしもうたんかぁー?」
「だからわざとらしいですよ」
分かれ道。ロキが向かう方向とレフィーヤの向かう方向は違う。だからレフィーヤは口を開いて言葉を口にした。
「それじゃあ、ここ等辺で」
「あぁ…また今度な」
「…えぇ、また機会が在れば」
そして彼女は前を向く。
動かずにじっと彼女の去り行く背を見るロキの視線を受けながら、それでも止まらず。自分の目指す場所に向かってレフィーヤは、歩き続ける。