世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百二十六話

思い起こすのは成れの果てを終わらせた時の事。成れの果ての全てが灰へと還り、ウラノスはそれを静かに見つめていた。そしてゆっくりと彼は口を開いたのだ。

 

『…一つ、依頼がある』

 

と、視線を灰から外し彼らに向けて口にした。依頼、それを拒否するか如何か。それは内容を聞いてからだとローウェンは無言で続きを促した。

 

『私を、最下層まで連れて行ってくれ』

 

己ではもう、そこまでたどり着けないからと。彼は血がにじむのではと思う程に、その手に力を込め乍ら言葉にしたのだ。

 

如何して最下層に行こうとしているのかとか、色々と気に成る事は在った。だがローウェンは小さく、さてと言葉を零してから仲間に問いかける様に言葉にした。

 

『一応って訳じゃないが、断る理由が思い浮かんだ奴は居るか?』

 

無言である。全員が笑いながら言葉にしない。当然だ。依頼を断る理由など無いのだから。故に、彼もまた笑いながらウラノスに言った。其の依頼を請けると。

 

彼は静かに、頭を下げた。

 

それを見ながら軽く肩を回しながらレフィーヤは問いかける。

 

『で、依頼は良いですけど流石にこのまますぐに向かうとか言いませんよね?』

 

食料以外の消耗は殆ど無い、無いがしかし何が在るかも分からないのだからウラノスを守りながら最下層までとなると無理が在ると彼女は思う。それに対してウラノスはいいやと答えた。一旦、街に帰ると。無理が在るのだと彼もちゃんと理解しているからだろう。なんて考えて、そもそもと彼が口にした言葉を聞いた。

 

『ここは最下層まで繋がっていない。故に、一度は帰らねばならない』

『今すぐぶっ壊してやろうかおい』

『何故だ?!』

 

反射的に発せられただろう彼の、ローウェンの言葉にはこれ以上ない程の殺意が宿っていたという。

 

 

 

 

「いや本当に、今思い出してもあの時ほど明確に誰かに対して殺意を抱いた事は在りませんでしたね」

「帰って来るなり物騒な事を言うね、まぁ同意だけど……あ、お帰り」

「はい、ただいまです」

 

言いながらよいしょと持っていた幾つかの本をテーブルの上に置いて一息つくレフィーヤは、何気なく座っていたハインリヒを見て、問いかける。

 

「ハインリヒさんだけですか?」

「うん。ゴザルニとコバックは買い物でローウェンもギルドに行ったっきり帰ってきてないから多分だけど序でに買い物をしてるんだろうね」

「そうでしたか」

「で、帰って来るなりなんでそんな殺意満点だったのかな?」

 

と、問われたレフィーヤは大したことでは無いと言いながら答えた。

 

「いえ、神ウラノスからの依頼の事を思い出してただけなんですよ。まぁ、結果的に殺意も湧き出てしまった訳ですけど」

「そっか、なら仕方ないね」

「正直今からでもぶん殴りに行きたいぐらいですよ」

 

まぁ行きませんけどと零しながら座るレフィーヤ。殺る気に満ちているがそれもある意味で仕方の無い事だ。何せウラノスが言ったことは、やってしまった事は冒険者に対して一番やってはいけない事だった。

 

冒険者が先が無いなどと言われれば怒るのは当然の事なのだから。

 

本当にボコボコにされていても可笑しくなかったのだ。ウラノスは自分たちの寛大さに感謝すべきだとレフィーヤは思いながら本を開く。と、ハインリヒが態々立ち上がり彼女に近寄ってきて覗き込んだ。

 

「なんですか?」

「いや何読んでるのかなって思ってね…しかしこれって」

「えぇ、あれですよ。『悍ましき神と清らかなる神』です」

 

口にしたのは手にしている本の題。成程とハインリヒは頷いてから積まれている本を軽く撫でた。

 

「他のは…『地に沈む少女』に『堕ちてきた闇』、それに『真樹の残し子』か」

 

それは全て、物語の題名。それも村に伝わる伝承や寝物語の類。伝わっていた地域も、伝えていた人種も違うそれらは、しかし共通点が存在した。

 

それは一人の少女が登場し、地の底へと向かいその身を空から落ちてきた何かに対して贄とし鎮めるという結果を迎えるという点だ。

 

対象が悍ましき神で在ったり、闇そのもので在ったり、或いは単純に厄災で在ったりと変ってはいるが、そこは変わることなく確かに残し語られていた。

 

そして彼女たちにとって重要なのは少女が贄と成った事でも、空から落ちてきた何かが鎮められた事でもない。少女が地の底へと向かったという部分だ。

 

 

何せ、彼女たちが向かうのもまた地の底と言うべき場所なのだから。

 

 

勿論、手にして居る本も積まれている本もすでに何度も読んだものだ。けれど向かうのだからと改めて読んで、そして考えようとレフィーヤは思ったから本を開いているのだ。

 

何気なく、軽く文字を撫でる様に触れて。やっぱりと口からこぼす。

 

「この地の底ってどう考えてもダンジョン、其の最下層の事ですよね?」

「それは前から言ってる事だね。ここ等辺で他に地の底なんて言える場所は今の所は知らないし」

「ですね。それにもし本当に地の底に、ダンジョンの最下層にこれに書かれてる少女が向かったのだとすれば…理由としては十分あり得る事ですよね」

「ウラノスが護衛を頼んでまで向かおうとする理由にかな?」

「えぇ、はい」

「まぁ可能性としては十分あり得るだろうね。断言は出来ないけど」

「ですよね。で、考えても分からないけどそこに辿り着けばわかる、って所に行きつくんですよね」

「大体そうだね」

「それでも考えるのを止めるよりは良いんでしょうけどね…ま、取り合えず気に成る事に変わり在りませんし。取り合えず暫くは考えながら読んでいるとしましょうか」

 

少なくともローウェン達が返ってくるまではと言うと、そうかと言ってハインリヒは離れていった。そんな彼を見て何かやる事が在るのだろうと思いながら視線を本へと戻し、再び撫でる。

 

そう、本に記されて居る事が本当かどうかはそこへと至れば分かる事。ウラノスのそこへと向かう理由も、少女が本当に存在したのかも。

 

そして少女と共にそこへと向かったという、ある本では神の分身と。或いは清らかな杖と。或いは光の欠片と。そして或いは『真樹の苗木』と記され語られる存在が何であるのかもダンジョンの最下層、地の底へと至れば分かる事だ。

 

 

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