世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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『のぉ、■■■よ』
『なんだ?』
『お主、何故そのような老人の姿をしておるのじゃ?』
『…それをお前が言うのか?』
『む、何を言うか。最高にイケイケな感じじゃろ』
『……そうか』
『そう言う事だ。だがお主はそうでは無かろう? そのでかい図体に関しては、まぁお主の器の事を考えれば分かる事だが…別に老人の姿で在る必要は無いだろう? 何か理由があるのか? 儂の様にイケイケな感じに成りたかったとか』
『断じて違う。大した理由などありはしない…ただ』
『ただ、何じゃ?』

『私は、こうなのだそうだ』
『……なんじゃそりゃ』



第二百二十七話

迷宮は最下層に繋がっていない。そうウラノスは言った。それははっきり言って冒険者たちにとって一番言ってはならない事で、しかしそれでも彼らは罵倒するだけで手を出す様な事はしなかった。

 

さてそれはどうしてかと言えば、本当に其のままの意味で、あのまま進んでもウラノスの目的地にはたどり着けないとちゃんと理解したからだ。

 

だから、迷宮がそこへと繋がっていないと言われても怒り軽く罵倒はすれど手は出さなかったのだ。彼等の感情はウラノスの事情とは関係が無いから。キチガイとよく言われる彼らだが、そこら辺の判断はちゃんと出来るのだ。許すつもりは欠片も無いからもしも、そうもしも彼が何事も無く依頼を終えた後に最下層から街へと還る事が出来たなら容赦なく拳を叩き込もうとレフィーヤは決めていたりする。

 

まぁ、もしもの話でしか無いのだがと。軽く息を吐きながら自分たちが乗ってきたそれを見て呟いた。

 

「しかし、まさかこれがここにもあるとは思ってませんでした」

「ま、確かにそうでござるな」

 

独り言の積りであった言葉に、ゴザルニが返す。視線を彼女へと向ける。

 

「これ、何時だったかアルコンさんが名前言ってましたけど……なんて名前でしたっけ」

「そう言えば言って居たでござるな……確かエスカレーターだったような」

「…それは、違くないですか?」

「ぬん。拙者も言ってから違うと思ったでござる」

「ですよね。でも近い感じではあるんですよね」

「で、ござるな」

「と言う事はエスカレーターに近い感じの名前で……昇降機?」

「……ぬん」

「……その、間違ってはいないと思うんですけど」

「アルコン殿が言って居た名前ではないでござるな。エスカレーターよりも離れたような気がする程でござる」

「ですよね。と言う訳で教えてくださいローウェンさん」

 

「いや待て、俺が知っている前提なのか」

 

言いながら、服についているごみを払う様に手で叩きながら視線を二人へと向けるローウェン。

 

「言っておくが、殆ど利用した事の無い物の名前を憶えているほど俺の頭は優秀じゃないぞ?」

「じゃあこれの名前は何ですか?」

「エレベーター」

「憶えてるじゃないですか」

 

あぁそう言えばそうでござったな、なんて言って居るゴザルニを横目に。思った通りだったローウェンにやっぱりという言うべきか、それとも流石とでも言えば良いのか一瞬迷うレフィーヤ。まぁどちらでも変わらないかと思い、軽く首を振って。

 

術を奔らせる。

 

ほぼ真上に向けて氷槍が放たれた直後、悲鳴。いやそれは断末魔と呼ぶべきものが響き渡り、降り注いできた灰を軽く飛んで躱すレフィーヤ。

 

けれど、綺麗に躱すことが出来ずに、僅かでは在るが灰が服に掛かり汚れてしまう。レフィーヤは浅くため息を吐きながら、ローウェンと同じ様に叩いて落とす。

 

「…これ血とかが降って来るのと灰が降って来るのってどっちの方がましなんでしょうね?」

「いやいや、どっちも嫌でしょそれは」

「まぁ、汚れて喜ぶなんて事は無いですからね」

 

尚、よく分からない例外的人物は何人かいるがと頭の隅でレフィーヤは思うのであった。

 

「それにしても…」

 

サッと灰がちゃんと落ちたか確認しながら意識を辺りに向け、探る。複数の蠢く気配。漂ってくる殺意。指す様な敵意。

 

そして階層を埋め尽くすかのような、悪意。

 

邪悪、と言う言葉が正しくと言うべき淀んだ空気は昏き禍に及ばないまでも、それでも常人ならば。いや少し腕が立つ程度の冒険者であっても悪ければ発狂し、良くても胃の中身を吐き出してしまいかねない程のものだった。

 

はっきり言って、人が居るべき場所では無い。ましてさらに奥へ、さらに下へと進むなど愚か者と言われる事だろう。

 

「じゃあ進むか」

「ですね」

「ござる」

「あ、ちょっと薬の位置ズレた」

「あら大丈夫?」

「………」

 

尤もそんな事など、気にも留めない筋金入りの冒険馬鹿の彼らには関係ない事だが。そして、そんな何時もと変らない調子で進んでいく彼らを無言で見ながらウラノスは軋む音を響かせた。

 

「…何か言いたい事でも在るのかな?」

 

カチャカチャと小さな音を鳴らしながら薬の位置を整えながらハインリヒがウラノスを横目で見ながら問いかける。

 

「…いいや、何も」

「そっか。なら良いけど」

 

これで良しと言いながら軽く鞄に触れるハインリヒ。そして其のまま視線をしっかりとウラノスへと向けた。

 

「てっきり、本当に僕達で大丈夫なのだろうか、なんて心配してるのかと思ったよ」

「…それこそ、在るはずもない事だ。そなたら以上の冒険者など、この星には居ないのだから」

「やだローウェンさん。思って居た以上の評価なんですけど」

「なんでそんな事俺に言ったのか気に成るんだが?」

 

思わずと言った様に、聞き耳を立てていたレフィーヤがローウェンにそう零す。呆れた様子の彼を横目に、何故そこまで高評価なのだろうかと少し考える。

 

が、考えるまでも無く昏き禍を打倒した時点で高評価だとしても可笑しくは無いのだと思ったからだ。それでも自分達以上が居ない、なんて事は思わないが。

 

まぁそれでも一応は納得したと言わんばかりに頷き。気を抜けば喉が干上がりそうになる程の周囲から感じる圧を気合でねじ伏せ、いつも通り余裕を作りつつ。悪意に満ちた迷宮を進む。




―――それはとても古い記憶

『あなたって不思議ね』
『…いきなりなんだというのだ』
『だってそうでしょう? ふわふわのぴかぴかなのに、喋り方がまるでおじいちゃんみたいじゃない』
『…だから何だというのだ?』
『いいえ、大したことじゃないのよ。ただそうね。あなたが人だったらきっと凄いおじいちゃんになるわね!』
『凄いとは…どう凄いというのだ』
『分からないわ! とにかく凄いの!! 例えば大きいとか』
『大…きい?』
『そうよ! 凄いでしょ!』

―――そう言って少女は笑う

―――もう名前も思い出せない

―――けれどそんな何の変哲も無い会話を

―――私は確かに憶えている
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