世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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『あぁ、やっと終わったのか』

―――眼前で、昏き禍が崩れ消えていく

―――ずっと、ずっと、ずっと

―――待ち望んでいた光景だ

―――もう無理なのだと諦めたくて

―――けれど、それでも諦めたくなかった

―――そんな、奇跡のような光景だ

『…あぁ、そうだ』

―――ふと、思ったのだ

―――迎えに行こうと思ったのだ

―――彼女の事を、暗く深い地の底から

―――彼女の好きだった空の下へ連れ出そうと

―――きっと、いや間違いなく生きてなどいないだろう

―――それでもせめて骸だけでもと



―――そう、思っていたのだ




第二百二十八話

それは余りに単純かつ、馬鹿としか言えない事だった。

 

そこは悪意に満ちた場所。

そこは敵意に満ちた場所。

そこは殺意に満ちた場所。

 

そこは、迷宮の最下層。

 

そんな尋常ならざる場所で、誰かを守りながら安全に進むにはどうすればよいのか。その疑問、或いは問題とも言うべき思考は、とても単純で、馬鹿としか言いようのない。何よりも暴力的な方法で解決することに彼らはしたのだ。

 

 

即ち、敵が居なければ安全だよねという考えの元に発見したモンスターを片っ端から狩っていくというものだ。

 

 

襲い掛かってくるものも。

隠れているものも。

逃げていくものも。

通りすがっただけのものも。

 

片っ端から、唯そこに居ると確認できたから奇襲して容赦なく魔石を砕き灰に変えていく。気付かれても襲われる前に襲えと首を落としていく。

 

此処が普通の迷宮で、そこに住まうのが普通の生き物たちで在ったなら流石にこんな暴挙をすることは無かっただろうが。しかし最下層で蠢いていた魔物たちにとって運の悪い事にそこは普通では無く、またその魔物たちも生き物とはかけ離れた、どれだけ狩った所で生態系と呼ぶべきものに影響のないのだから彼らは気にしない。

 

だから魔物を狩りつくす。主にレフィーヤとゴザルニの二人が。

 

何故その二人なのか、コバックとハインリヒは兎も角としてローウェンは如何したのかと言えば、唯の弾の節約をしているだけだ。例え、一発で魔物一体を屠れるとしても弾は減っていくことに変わりない。だから余り彼は戦っていないのだ。それでもかなりの数の魔物を狩っているのだが。

 

そして彼らは今、灰の積もった道を歩み行く。何とも気軽に、まるで公園内を散歩しているかの如く。もっとも全力で警戒している状態なのだから散歩、とは言いずらいだろうが。

 

さっと視線を走らせ、気配を探るレフィーヤ。見つけたら即狩って居たからこそなのか、足を踏み入れた時に感じていた気配の大半が失せていた。だから彼女はふっと息を吐いた。

 

もしかしたらレフィーヤに、彼等全員に気付かれる事無く潜んでいる魔物が居るかもしれないが、そんな化け物が居たならもうどうしようもない。出来る事と言えば精々、何時襲われても大丈夫なように身構えておくことくらいだろう。

 

もっとも、そんな事をする必要も無いだろうがとレフィーヤは思う。楽観視しているからでは無い。もっと単純に、彼らが魔物でさえ近寄らないだろう領域に足を踏み入れたからだ。

 

「…なんだこれ?」

 

ウラノスの目的地に向かっている途中、顔を顰め乍らローウェンが辺りを見渡す。

 

目の前には何も無い、唯の道が続いている。何か隠し部屋の様なものがある様子は無く、またモンスターの気配も無い。けれど違った、いや変ったのだ。まるで境界線が存在したかのように。

 

悪意も、殺意も、敵意も、其の全てが消え失せたのだ。

 

静謐、とでも言えばよいだろうか。耳が痛い程、音が失せたそこは迷宮で在ると言う事を忘れそうな程、酷く空気まで澄んでいた。或いはここが世界で一番清らかな場所かもしれないと思えるほどだ。

 

唯一つ、極大の邪気が存在しなければだが。

 

「…成程」

 

居るなと思いながら、小さく呟いた。今まで何度も感じてきた感覚。彼等の進む道、その途中かそれとも終わりにか。それは分からないが間違いなくいるだろうと確信する。

 

問題は、そこに居るのだと確信した存在は果たしてウラノスが目的としているものなのか、それとも立ちふさがっているものなのか分からない事だが。

 

ちらりと、横目でウラノスを見る。彼の表情は変わらず、そして変わらず覚悟が浮かんでいた。例え死んだとしても成し遂げるのだという覚悟が。

 

そして暫しの無言。

 

語る事もなく歩く。先へ、先へと進む事に圧力と邪気が強まっていき、けれどそれに反して空気はより清らかなものへと変っていく。

 

そして辿り着いたのは一つの扉の前。何の変哲もない様で、しかし確かに彼らには分かった。それが内に在るものを逃さぬ様に存在する封印としての役割を持って居る事に。

 

「…感謝する」

 

扉を見つめる彼らに、ウラノスは静かに言葉にしゆっくりと歩み出る。

 

「これで漸く…為す事が出来る」

 

彼らが何かを語る前に、扉を開け放つ。その行動に迷いはない、先に何が待っているのかを知っているから。

 

 

まず、最初に瞳に映り込んだのは…巨大な玉座の如きもの。

 

 

それて、まるで骸で形作られているかの様で、なのにまるで生きているかのように蠢くそれに座するのは一人の少女。いや、贄としてその身を捧げた少女で在ったであろう存在。微笑みを浮かべるその姿だけは人の様に見える、けれどその気配は昏き禍の如く淀んでいた。

 

「■■■■」

 

彼が、ウラノスが言葉を口にする。けれどそれは、レフィーヤにはなんと言って居るのか分からなかった。彼女の知らぬ言葉だったから。けれど、それがどの様なものであったのかは、何となくであるが分かった気がした。きっと少女の名を、口にしたのだろうと。

 

「遅くなって、済まなかったな」

 

あぁ、ギシリと軋む音が響く。今にも崩れ壊れてしまいそうな音が。けれど、それでも彼は止まらない。

 

 

 

 

 

「すぐ、終わらせる」

 

 

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