世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二十三話

第三迷宮、清冽ノ渓流と呼ばれる竹林の谷間を縫う渓流で発見されたそこは。いつもならば痛い程の冷たさを湛えた水が流れている筈なのに、今は湯気が立ち生き物が住めそうに無い程の高温となっている。が、今の彼等にはそんな事は関係ない。重要なのはどれだけ早く、サラ教授の居る最下層に向かい、そして其処に居る可能性の高い怪物を排除するかだ。

 

故に彼等は走っていた。

 

「しかしあっついなここ。おい渓流どうした渓流、冷たさ如何したよ渓流」

「言っても仕方が無いでござるよ。前に来た時よりも熱くなっている位でござるしな」

「ふむ、よくよく考えたら異常な事態だな。もしや、此度の怪物もそれが原因か?」

「在り得なくはなさそうだな」

「寧ろ有力にござる?」

「だろう? 詰り思い至ってしまった私は天才と言う事か」

「死ね」

「介錯は任せるでござる」

「手心は無いのかな?」

 

「「無い」」

 

「えぇー」

「ま、おふざけは置いといて大丈夫かレフィーヤ?」

 

気遣う様なローウェンの言葉。しかし、それに返事を返す事は出来なかった。追い掛けるのが精一杯だからだ。先程の会話も、まさに走りながら彼等が行っていた事。いや、いいや。それだけならば体力が在れば出来なくは無い事だ。オラリオならば、その程度容易いと言う冒険者は山ほど居るだろう。けれど、彼等は唯走っている訳では無い。彼は全力疾走しているのだ。

 

それも、戦闘を行いながら。

 

前方にひっかきモグラ。ローウェンが弾丸を放つ。弾丸は、予め定められたかのように投げられた石を射ち落す。唖然とした、否、してしまったひっかきモグラはゴザルニの刃に因って両断される。

横に居た噛みつき草が蔦を伸ばし、直後にゴザルニに切り落とされて火球で焼かれた。

後方よりベノムスパイダーが糸を吐くも、届く前にホロンに焼かれ弾丸がベノムスパイダーを貫く。

 

けれどそれだけでは無い、それだけでは無いのだ。彼等は止まらない。一切速度を落とす事無く、しかし常に陣形と呼ぶものを変えている。前に出て横に避け後ろに下がる。それが繰り返されているのだ。

 

レフィーヤを中心に。まるで、守っているかのように。

 

悔しかった。嗚呼、悔しいとも。唯、守られながら付いて行くのに精一杯な事が悔しくてならないレフィーヤ。しかし、しかしだ。それ以上に貴方達何やってるのと言いたい。

 

「いやぁ、やっぱり一寸きつかったかね?」

「最近冒険者に成ったばかりならば仕方ない事だろう。尤も、付いて着ている時点で十分な実力はある様だが」

「で…ござる……な」

 

ローウェンは何故後ろを向きながら走っているのか。

ホロンは何故ポージングしながら走っているのか。

ゴザルニは何故弁当を食べながら走っているのか。

と言うか今気が付いたが何で走っているのに音がしないのか。

 

「いや待て、なんで弁当食ってんだよお前」

「空腹故」

「お前……お前ッ!」

「流石に嘘でござるよ。唯単に食べたかったから食べてるだけでござる」

「悪化している気がするのだが?」

 

間違いなく悪化している。そんな馬鹿みたいな事をしながらも疾走し敵を排除していく。やはり音は殆ど聞えない。お陰でレフィーネの足音が酷く大きく聞こえる。

 

若しかしてモンスターが襲って来てるのって自分の所為かと思いながら彼等の動きを見て、レフィーヤは気が付いた。連携は考えなくていいと言っていた意味に。彼等は連携など欠片もしていない事に。しているのは押し付け合いと奪い合いだ。得意な敵を他の二人から奪って狩り、苦手な敵を押し付けて狩る。それでも、問題が無いのはちゃんと理解しているからだ。

 

誰が、何を得意として苦手としているのかを。

 

確かに此れならば連携を深く考える必要等ないだろう。やるべき事を理解しているのだから。

 

「ふむ、しかし相当辛そうだ。此の侭では危ないだろうが……いかに?」

「どっちにしろ最下層直前で休憩いれるから」

「ならば大丈夫か」

 

するりレフィーヤの横に出たホロンは納得した様に頷く。そんな彼の周囲を氷槍と火球が旋回していた。

どうやっているんだ其れは。

なんで発動した印術が周りを旋回するなんて事に成るんだ。

どうやったらモンスターを貫いた氷槍を砕く事無く元の場所に戻す事が出来るんだ。

 

何時か、自分もそれが出来る様に成るのか。

 

そう考えていると階段が見えた。置いて行かれないように、重く感じる足を動かし更に早く前へ。

 

「いや何処行くんだよ」

「ぬぇへぇッ!?!」

 

首が絞めつけられる。

 

誰かに、服の襟を掴まれたから。何事かと急ぎ確認するとローウェンが掴んでいた。何をするのかと言おうとして、酷く生臭い匂いが鼻に付く。そして音。水の流れる音がする。そこで漸く気が付いた。この階段の先は最下層なのだと。そして自分が其処に突っ込もうとしていた事に。

 

疲れて、思考が鈍っている状態で。

 

血の気が引く。この先に怪物が居たとするならば。レフィーヤは死んでいただろう。或はもし、運が良かったとしても無事ではいられない。そしてそれは、まず間違いなく彼等の足かせとなるだろう。

 

「あ……すみ――――ません」

「謝る前に呼吸を整え様な? それから謝らなくてもいいから」

「寧ろ、ちゃんと付いて来れた事が驚きだ」

「気合入ってるでござるな」

 

そんな言葉を聞きながら深呼吸。ゴザルニから差し出された水を口に含む。少しだけ疲れが取れたのか、落ち着いてきた。それを見てローウェンが頷き。

 

「じゃあ、レフィーヤ。言って於くが今回は、と言うか今回もお前が最大火力だから削り切る際は頼むぞ」

「あ、はい。わかり、え?」

 

最大火力?

 

如何いう事かと問い掛けようとして、ホロンに肩を叩かれた。如何したのかと見れば、彼は言った。

 

「深く考えず、行けると思った時に思いっきり印術を叩き込めばいい。其れだけの事だ」

 

そんな、単純な事をだ。それだけでいいのかと思わなくもないが、それ以外の事が出来るとは言えないレフィーヤは黙って頷いた。

 

そんな、僅かな休憩を経て、彼等は最下層へ。 

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