世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百三十六話

最果ての世界樹に向かう為に、しかし多くのものであればまず最初に考えなければいけない事が存在する。それその世界樹のある場所が空の上であり、どうやってそこに行くのかと言う事。それだけのようで、しかしそこを目指し挑んだ者達がその生涯をかけて尚、到達することが出来なかった領域。冒険者が其れを目指すと言うだけで愚か者か、現実を知らない大バカ者と呼ばれる事となるだろう一つの挑戦で在り、大冒険と呼ぶべきものなのだ。

 

彼ら以外がそこを目指したならばの話だが。

 

そう、彼らは例外なのだ。其れは何故なのかと問うまでもない。何せ彼らは星と星とを繋ぐ道を通り今の場所に至っているのだ。そう、そうだ。彼らはすでに多くのものが目指したその領域に居たり、そして超えているのだ。

 

だから彼らはそもそもがどうやって辿り着こうかなどと考えていない。知っているから、空の上に到達する方法を、すでに行った事が、通った事が在るから。

 

さらに言えばどうやって世界樹に目指すか、いや探すのかと言う事すら考えるまでも無いのだ。何せその世界樹の声を聴き、大体では在るがその場所を理解している存在が、彼らの友で在るのだから。

 

詰りは彼らが世界樹に到達する為にする必要がある事は世界樹の声を聴いた彼女、アルコンが弄りそして調整した星と星とを繋ぐ道に向かう為の装置を潜り抜けるだけで良いのだ。

 

道中だけで比較するならば今までで一番楽ではないだろうかと言う程だ。尤も、そうしなかった場合は空の上の何処かを揺蕩う世界樹を探さなければいけない訳なのだから其れこそ数十年、いやそれ以上の途方もない年月が掛かり依頼処では無かっただろう。

 

「だとしても流石に味気ないというか、正直面白みは皆無だよね」

 

なんて、ハインリヒの言葉に確かにと嘘偽りのない本心を呟き頷く彼らの佇む場所。そこは暗く、しかし無数の星々の光が照らす星と星とを繋ぐ道。

 

そして眼前にあるは、空の上の更には果てを揺蕩い。しかし今まさに彼らの手の届くところにある見る者に無残で在ると思わせるだろう、枯れ果てた世界樹。いいや或いは、それが世界樹であると認める事が出来ない者もいるかもしれない。

 

限界、と言うアルコンに届けられた言葉が偽りでは無いのだと思い知らされる。

 

「…初めて見るな。ここまでの状態に成ってる世界樹は」

「そうですね。と言いますか、想像しにくかったんですけど、限界まで行った世界樹ってこんな感じなんですね」

「枯れている処を見ると結局は世界樹とて木と言う事なのでござろうな」

 

そう今さらだが、世界樹もその名にある通りの木で在るのだと実感した。もっと別の何かで、朽ちる事が無いのではと思ってしまっていたが、それでも命であることに変わりは無かったのだと。世界樹にも終わりは在るのだと、今更ながら。

 

まぁそれはそれとしてとレフィーヤは世界樹へと向かい歩きながら軽く辺りを見渡し、思った事を口にする。

 

「敵いない処か生き物の気配すらありません」

「そう言えば前に道を通った時もそうだったな」

「まぁ空の上ですしねここ。元々生き物が住んでいなかっただけなんて事も十分あり得ますけどね」

 

と言ってもまぁ、と言葉を零して続ける。

 

「仮にいてもこんな状態の場所に近づきたくはないでしょうけどね」

「それは確かにそうだろうな」

 

空気が重く淀み、そして悍ましく歪んでいた。それの正体が、それの元凶が何であるのかは考えるまでもなく彼らには理解出来た。同時に確信する。やはり考えに間違いはなく、今から挑もうとしている存在は昏き禍に負けず劣らず、正しく星を滅ぼすことのできる厄災なのだと。

 

だからこそ改めて思う。自分達は馬鹿処の話のではない大馬鹿者なのだなと。

 

「ぶっちゃけあれでござるな。こんな瘴気じみた物を垂れ流しにしている様な存在に挑むとか我ながら正気を疑うでござるな」

「上手い事言ったつもりか」

「そんなつもりござらんが?」

「え、なにか上手いかどうかって思うよな事言ったかしら? ちょっと分からなかったのだけれど、どうなのハインリヒちゃん」

「さらっと止めを刺そうとする当たり流石だねコバック、僕には真似できないしそもそも僕も良く分からなかったんだよね。レフィーヤは分かったかい?」

「すみません私も分かりませんでした。と言う訳で懇切丁寧に説明してくれませんか?」

「拙者に死ねと?」

「良し分かった分かり易く説明してやろう」

「ははぁん、あれでござるな? 拙者を殺そうとしてるでござるな?」

 

なんておふざけをして張り詰めて切れてしまいそうだった緊張を無理やり緩め余裕を作る。まだ相対してもいないのに、余裕をなくすなど在ってはならないから。それでは勝つ負ける以前に戦いに成らない。

 

だが、それでも進めば進むほど重く濃く、さらに歪んでゆく。

 

それでも進めば何れ辿り着くもの。いいや、彼らからしても意外な程分かり易く、そしてそこまでの道のりは容易いもので在った。まるで、そこに導かれいたかの様に。いいや、実際導かれたのだろう。

 

朽ち果てようとしている、世界樹そのものに。

 

「……そろそろか」

 

そんな言葉に、彼らは無言で頷いた。気配を感じ取った。いいや、それが気配であると理解した。余りに強大で邪悪に蠢くそれが今から挑もうとしている存在のもので在ると。

 

正確な距離感は分からない。ただそれが居るのだと分かっただけだが、それでも近づいた事に変わりないだろうとレフィーヤは考え。

 

「……ふぅ」

 

思わず、再び張り詰めそうになった精神を緩める様に息を吐く。まだ緊張する時では無い。だから、カタカタと震える手を止め、軽く杖を回し調子を改めて確認する。

 

あぁこれならば大丈夫だとレフィーヤは自分自身に言い聞かせて、そして彼を見る。

 

 

何故か、ハインリヒの事を投げ飛ばしている彼を。

 

 

「―――――――――はっ?」

 

それは誰の口から零れた物だろうか。其れはレフィーヤには分からなかったし、何故ローウェンがそんな行動をしているのかも分からなかった。いいや、何故なのかと考える事もしなかった、出来なかった。

 

視界の中で、何かが爆ぜたから。

 

一瞬の思考の空白の後に自らが吹き飛ばされながら、あぁそうかと漸く理解する。

 

自分達は奇襲を受けたのだと、理解した。

 

 

 

 

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