世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百三十九話

『まずは称賛を送ろう。よくぞ我が書斎に辿り着いたと。汝らは今、世界の真実に尤も近い場所に居る』

 

手を、動かす。今更ながら、片腕が無い事に気が付くが、それでも体を引きずり動く。

 

『我が書斎に至るまで道。それは艱難辛苦に塗れたもので在った事だろう。だが、だからこそ辿り着いたという事実は偉業として記し残される。尤も、このような事を言葉にする必要も無いのだろうがな』

 

血が流れ出るのを少しでも抑えようと術を行使する。あまりうまくいかなかったが、少しの延命位は出来るだろうと彼女のは思い、なお動く。

 

『聴いているのだろう? 我を超えし冒険者よ』

 

視界を動かし、探す。見失ってしまった星喰らいを。そして、見つけた。霞む視界の中で恐らく、時間稼ぎをしているのだろうコバックの姿も。

 

『そう汝らが我の言葉を聞いているのだと、確信している。ただ、そうなのだと思う故に』

 

よく見えなくともとても辛いのだろう事は彼女は分かった。近く限界が来るだろう事も。いやそもそもあの異様な速度で動かれればそれまでなのだ。限界まで行く前に終わってしまう可能性だってある。

 

『はっきり言おう。汝らに対して我が残すべき言葉は無い。汝らは、我を超え、証明した存在なのだから』

 

ならばどうするのか。彼女は、自信がすべきことをするだけだ。もう殆ど目が見えない状態で、しかし外すとは欠片も思う事は無かった。星喰らいの動きは分からずとも仲間の、コバックの動きは見えずとも良く分かるから。

 

『だが同時に。汝らがどこまでも脆弱である事を我は知っている。汝ら以上に、強大な存在が存在する事もだ。或いはその体が血に沈む事も汝らが人で在る限り、逃れる事は出来ない可能性の一つだろう』

 

余りに雑で、歪な氷の槍が放たれる。しっかりと目で見ていたならば、余りの雑さに自分で笑ってしまう事だろう。だが、それでも威力だけは変わらず、そして外す事無く確かに命中した事を、自分に注がれる視線とそこに籠った敵意からレフィーヤは確信した。

 

『だが、其れもまた我が口にするまでもない事柄であると確信している。例え絶望の内だろうとなんの関係も無いだろう』

 

これで、少しとは言えコバックは余裕を作ることが出来るだろう。尤も、自身が死んでしまう事に変わりは無いが。と、ふとそう言えばと朧気に星喰らいはその名に在る様に喰らう事に因って何かしらが会ったようなと、頭の内を過る。もしも喰われてしまったら拙いと思い、それならばいっそ自爆でもしてしまおうかと、術を行使し、そして。

 

 

 

『汝らが、諦めること等無いのだからな』

「あぁ、全くもってその通りだ」

 

 

何かが衝突し何処かへと吹き飛んでいくのと、眼前に良く分からないものが落ちるのをレフィーヤには分かった。勿論、感覚的なものでしかなく目が見えず音が聞こえない今の状態に変わりはない。

 

「ちょっと変な感じするだろうが我慢しろよ?」

 

だから、その言葉も彼女には届くことなく。ただ何となく斬られた場所に何かが当たったような気が彼女はして。

 

 

そして、なんか良く分からない感覚が一気に彼女の肉体を駆け巡った。

 

 

「お、おぇええええ!? な、なな、なんなん?」

 

ゴポリと、喉奥に詰まっていた血反吐が口から噴き出し、同時に奇妙な声が零れる。だがそんな事を気になどレフィーヤはしていなかった。と言うか出来なかった。妙なむず痒さと不快感とは違う感覚。そして思わず視線を向けた結果、見えたのは煙を噴き出している自分の体だった。異常事態過ぎて、目が見える様になっていること等気にしている余裕が無い程だ。

 

「ちょっと待って。待って待って待って、本当に待って。何、私に何したの?!」

「いや薬使っただけだぞ。其れこそどんな状態だろうが問答無用で治る位強力な」

「それ使っても大丈夫!?」

「多分」

「多分なの!?」

「いや渡されただけの薬だしな。エリクサーとか言うのとネクタルを混ぜ合わせたような効果を持つ、位の事しか分からんし」

「いやそれとんでもない代物なのでは?」

 

死んでいなければ大抵の傷は治せるエリクサーと死んだばかりで在れば蘇らせることが出来るとまで言われているネクタル。そんなものを混ぜ合わせたもの、貴重処の話では無い。なんでそんなものを持っているのか。勿論、レフィーヤには分からなかった。が、取り合えずはと混乱しすぎて逆に落ち着きを取り戻したレフィーヤは立ち上がり、調子を確かめる様に体を動かす。

 

そして問題事を確認すると、何故か服が綺麗に成っていてもしもの時の為の予備として取っておくと言って居た筈の少し前まで使っていた銃を手にしてるローウェンへと視線を向け、彼から放り投げられたものを反射的に受け取った。

 

「…杖? しかも私が予備として取っておいた倉庫の奥で埃かぶってる筈のこれをなんでローウェンさんが今持ってたんですか?」

「其れに関しては、薬や俺のこれと同じように渡されたからだな。誰から…って言うのはまぁ言うまでもないだろう?」

「あぁ…そうですね」

 

こんな場所まで来ることが出来る人物などレフィーヤはアルコンと言う少女しか思い当たらなかった。

 

「けど、なんで態々」

「其れに関しては特に詳しき言ってはいなかったが、まぁ少し呟いてたな」

「なんて呟いたんですか?」

 

「倒してくれる事を願っている、との事だ」

 

其れは詰まり、彼女もまた星喰らいに思う所がある、と言う事なのだろうか。と、そうレフィーヤは思い。

 

 

トンッと軽やかに跳び、星喰らいの振るう光の剣を躱す。

 

 

「流石に、二度目は勘弁してほしい所なんですよね」

 

なんて言いながら距離を取りつつ術を放つ。弾ける炎は、しかし星喰らい加速して躱し、そのまま速度を落とす事無く一気にレフィーヤへと接近、再び光の剣を振りかぶり。

 

「確かに、二度も両断される経験などしたくはでござるな」

 

ストンッと、振るわれた刃に因って星喰らいの腕が切り落とされた。

 

星喰らいが仮面の如きその顔を蠢かし視線を自身の腕を切り落とした存在、ゴザルニへと向けるのを見ると同時に、術を行使し生み出した氷塊を叩きつけ吹き飛ばして無理やり距離を作り出す。音を立てて転げていく星喰らいを見ながらも横目で確認するように彼女を見る。

 

「もう大丈夫なんですか?」

「まだ体が軋んでるでござるな。と言う訳でローウェン殿、拙者にもそのとんでも薬を分けて欲しいのでござるが?」

「あ、多分それ殆ど死んでいる様な状態でもない限り効きすぎて体が弾け飛ぶと思うよ」

 

なんて言葉をコバックの治療をしながらハインリヒが口にする。その言葉を受けたゴザルニは一言、迷いなく口にする。

 

「やっぱりいいでござる」

「だろうな。まぁそれは良いとしてコバックはどうだ?」

「折れたままだけど問題ないわよぉー。まぁ盾はちょっとあれだけどね」

「取り合えずパパッと治療したからね。十全では無いのは仕方ないと思って欲しいかな」

「因みに拙者は地味に刀が歪んでて使いにくい事以外は問題ないでござるよ。あ、痛みに関しては気合で何とかするでござる」

「そして私は何故か異様な程疲れてはいますけど大丈夫ですよ」

 

「成程、詰りいつも通りだな。なんの問題も無い」

 

そう、いつも通り。死に掛けたたが、と言うか殆ど死んでいたがそれでもいつも通りまで立て直した。だからここからもいつも通りにかの超越者が言った通りに諦める事無く。

 

 

五人の冒険者は、命懸けで勝ちに行く。

 

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