世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二十四話

其処は既知感を覚える様な場所だった。

 

そう、石灰魔人と戦った場所によく似ていた。流れる水を見て、或いはここはあそこと繋がっているのか等と考えて。思考を切り替える。ここは最下層だ。何時、怪物に襲われてもおかしくはないと、警戒する様にレフィーヤは見渡す。姿は、見えない。ならば上かと見上げるも、居ない。

 

「いやぁ、怖いね」

「でござるな」

 

軽口を言いながらも、警戒を怠らないローウェンとゴザルニ。何時、何処から来ても対処できるようにしている。それでも思ってしまう。よくそんな風にして居られるなと。

 

こんなにも敵意に満ちている場所で。

 

と、背後から水が弾ける様な音が響く。後ろからと振り向こうとして。それよりも早く襟を掴まれ引っ張られる。思わず、声を漏らしながら如何したのかと問い掛けようとして。

 

先程まで居た場所を巨大な氷塊が音を立てて通り過ぎる。

 

「――――は?」

 

間抜けな声。しかし、それ処では無い。再び水が弾ける。

 

見えたのは巨体。魚の様な、蜥蜴の様な歪な姿の怪物。それが、回転し氷の塊を散弾のように撒き散らしながら飛び込んできた。

 

「殺意高くね?」

 

驚いた様にローウェンは声を上げながらもレフィーヤを庇う様に前に立ち、的確に向かってくる塊を射ち落し。同時に視線を走らせ他の二人が無事であることを確認する。

 

奇襲する様に襲い掛かって来た怪物、魚蜥蜴とでも呼ぶべきそれは。しかし地面に着地すると其の儘止まる事無くゴザルニに向かって突進を仕掛ける。それを冷静に見て、動く。するりと横に避け同時に刃で撫でる様に斬る。

 

痛みから苦悶の声を上げる魚蜥蜴、けれど止まらない。

 

目の前に誰も居ないと言うのに突き進む。その先に在るのは水面だけだ。けれど、それこそが目的なのだと気が付くの容易だった。

 

「また水の中に?!」

 

思わずレフィーヤは叫ぶ。そうなったならば、面倒処の話ではない。一方的に攻撃されかねないのだから。だから、だから。そんな事を許す筈が無い。

 

「おっと、通行止めだ」

 

ホロンの声と同時、氷の壁が生まれ阻む。突然現れたそれに止まる事も出来ずに衝突。其の儘砕き、しかし体勢を崩して魚蜥蜴は転倒した。それを見て好機と前へ踏み出すゴザルニ。 

 

そして、その状況を危険だと感じたのか尻尾を乱雑に振るう魚蜥蜴。狙いなど定めていない荒れ狂う尻尾が、しかしゴザルニに迫り。それでも止まる事無く一歩前へ踏み出す。

 

――――――タンッ!

 

銃声、放たれた弾丸に因って逸らされた尻尾に向かって刃を振るう!!

 

『―――――――――――――――――――――ッ!!』

 

激痛。故に叫び声を上げ、その場で回転する様に暴れる魚蜥蜴。これには流石にとゴザルニは距離を取る。暴れているがしかし距離を取れば隙と言える、故に今かと印術を放とうとし、其れを弾丸を放ちながら手で制すローウェン。まだだ、と言う事なのだろうか。

 

体勢を整え、四人を睨みつける魚蜥蜴。それは威嚇からの行動では無く、何をされても行動できるようにと言う警戒からのものだ。

 

明らかに、敵として見ている。

 

さて如何したものかと考えていると、動く影在り。ホロンだ。彼は視線を三人に軽く向けるとするりと前に出た。何をする気かと力を籠める魚蜥蜴にふっと笑みを浮かべて。

 

腕を交差し。

高々と掲げ。

膝は緩く曲げられる。

そして、そして。 

きわめて真剣な表情で。

 

「ニャァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

絶叫した。 何故か・・・・した。

 

「は?」

 

気の抜けた声がレフィーヤから零れる。しかし仕方が無いだろう。それ程に突拍子も無く、意味の分からない行動だったのだから。現に、警戒していた魚蜥蜴さえも唖然と口を開けており。

 

 

 

 

「はい終わりが見えましたっと」

 

其処に、弾丸が叩き込まれ刃は振るわれる。

 

口を撃ち抜かれた故に、否、そうで無くとも叫ぶ事も出来ぬ痛み。突然感じたそれに、魚蜥蜴は唯その場で暴れる様に動くしか出来ず。

 

「魚?……の様だから此れかな」

 

其の雷撃を避ける事等出来はしない。暴れる魚蜥蜴に雷撃が直撃する。今までの攻撃よりも効いているように見える。魚だからか?

 

未だ暴れながら、しかし魚蜥蜴は理解した。彼等には勝てないのだと理解した。だから、する事は一つ。

 

視線が彷徨い、そして一点に集中する。

 

その先には、ローウェンに守られる様に立っているレフィーヤ。吼える魚蜥蜴。叩き込まれる銃弾など気に成らないと二人に、いやレフィーヤに向かって突進する。あの時のように、冒険者に守られた無力な女性を狙った様に。 

 

しかし、守られてはいるけれど。レフィーヤ・ウィリディスは決して無力では無い!!

 

印は既に記されている。それはホロンの放ったモノと同じ雷撃。しかし、其れでは足りないと。

 

もっと強く、強く、さらに強くと!!

 

痛い程の輝きを放つそれに危険と判断した魚蜥蜴は攻撃の為でなく逃走の為に走り続ける。二人の横を通り過ぎる様に突撃し。

 

「通行止めだと言っただろう?」

 

眼前に氷の壁。其処から、同じ。止まる事が出来ずに衝突し、転倒した。それが致命的だった。そんな状態では、レフィーヤの一撃を躱す事等出来ないのだから。

 

「行きますッ!!」

 

言葉と共に放たれる雷撃。足掻く様に暴れるだけの魚蜥蜴に……直撃する。ビクリと大きく震える。そして力なく魚蜥蜴は倒れて。

 

 

『モォォァアアアアアアアアアアアアア―――――――――――ッ!!』

 

 

まだだと叫び声を上げる。力の入らない体を無理やり動かす。驚くレフィーヤの声。瀕死の魚蜥蜴が行うのは逃走。勝てない、勝てないと分かったのだ。だから、逃げるのだと。生きるのだと。

 

其の意志だけで、奴は動いていた!

 

逃げようとする魚蜥蜴に、思わず如何するべきかとローウェンを見て。何でも無いかのように手を振られた。まるで、もう終っているかの様に。

 

――――――パシャリと、水の跳ねる音が聞えた。

 

「むぅ、止めを奪う様で少々心苦しくはあるでござるが」

 

水に飛び込もうと飛んだ魚蜥蜴が見たのは―――――水面に立つゴザルニ。

 

 

「なんにせよ――――――斬り捨て御免」

 

 

閃が走る。刃は振るわれ二つに裂ける。

 

それは正しく……一刀両断。

 

命尽きた魚蜥蜴は、水底へと沈む。

 

 

「ござ?!沈んでしまったでござる!!」

「いやだからどうした」

「素材が取れない事に関して気にしているのでは?」

「いや、食べようと思ってたのでござる」

「えぇー……」

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