世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二百四十話

不快な音が響き渡り地面を揺らしながら罅を走らせ、光が弾けた次の瞬間には星喰らいは眼前にまで迫り光の剣を振るわんとしている。速すぎて目で追うこと等出来ない。

 

だが、しかしそれでも銃声が響けば狂いなく放たれた銃弾は星喰らいを穿っていく。

 

それは目で追えているからでは無い。経験と僅かな観察した結果から導き出したこう星喰らいは動くだろうという予測し銃弾を撃ち放っているのだ。僅かなズレでさえ、引き金を引くまでの僅かな時で修正し、そして命中させていく。正しく人外的腕前を披露するローウェン。

 

だが、其れだけでどうにかなるならば星喰らいはとっくの昔に打ち倒されていた事だろう。

 

銃弾が星喰らいを穿ち、光の剣を腕ごと吹き飛ばす。けれど次の瞬間には新たな腕が、光の剣が文字通り生えてくる。異常な回復能力。傷が刻まれるよりも治る方が速い。いずれは限界が訪れるのかもしれないが、そこに至るよりも先に銃弾が尽きてしまうという結果に至るのは明白。

 

当然それは、ローウェンだけだったならばの話。

 

銃弾を受けながらも無理やり動き、ローウェンへと向かう星喰らい。しかし高速で在るからこそ突然眼前に現れた氷の壁に避ける事出来ずに衝突する。いいや元より気にも留めていなかったのかもしれない。その証拠に、衝突しそのまま壁を砕き、僅かに落ちた速度を取り戻す様に下部にあるなにかに光を蓄え。

 

シャラリと涼やか乍ら鋭い音を響かせながら振るわれたゴザルニの刃が斬り落とす。

 

欠けた状態のままなにかから光が弾けると同時に、凄まじい勢いで星喰らいその場で回転し勢いをそのままに地面に叩きつけられる。その衝撃は地面を揺らすほどで、僅かにゴザルニの足が取られる。

 

その次の瞬間、ずるりと光の剣が異様な動きを見せ彼女の腹を引き裂いた。

 

ゴポリッと口と傷から血が溢れ、中身が零れ落ちる…よりも前にぶん投げられゴザルニに叩きつけられると同時に割れて零れてかかった薬瓶の中身が無理やり致命傷を完治させる。

 

「おぉ―――…!?」

 

ゴザルニは奇妙な声を零しながらも、続けて振るわれる剣を躱し距離を取った。その次の瞬間には地面を力強く蹴り一気に星喰らいへと接近する。

 

白い仮面の如き星喰らいの顔が蠢き視線は自らに向かうゴザルニを捉える。地面を削り割り、銃弾と術を受けながらも態勢を整える様に宙へと戻り、そして剣が振るわれた。彼女との間に一人の人間が割り込んできた事など気にも留めずに。

 

「ふぅ――――――…」

 

光の剣をその歪んだ盾で彼は、コバックは受ける。剣が盾に触れた瞬間、金属音では無い熱に焼かれ溶ける音が盾から響く。一番星喰らいと相対していた時間が長いコバックは当然、その一撃を盾で防ぐ事が出来ない事は分かっていた。このまま剣が振り抜かれれば、ゴザルニと一緒に、先程のレフィーヤと同じか、其れよりも酷い状態に成るのだろうとも。だが同時に、彼は確信していた。触れれば次の瞬間には断ち切られるのだとしても。

 

 

刹那であろうが触れられるならば――――――――逸らす事が出来ると。

 

 

「らぁぁぁ―――ッ‼」

 

軌道がずれる。振り抜いたにも関わらず、未だに眼前の存在が健在である事驚いたかのように、視線をコバックへと星喰らいは向けた。駆けるゴザルニから、視線を逸らしたのだ。

 

当然それは、紛れもない隙だった。

 

地面を蹴り、飛ぶように跳ぶ。まるでローウェンの撃ち放つ弾丸の如く真っすぐに。ただ、刃を振るう。それは技と呼ぶまでもない斬撃。だが、しかし。只管に研ぎ澄まされたその一閃は、極みに近く。

 

故に、音もなく星喰らいを両断する。

 

僅かに、星喰らいの体がずれる。上と下とに分かれてずれて。直後に繋がり傷が塞がり消える。両断されども、未だその星喰らいの命には届いていない。

 

星喰らいの力が集う。何をするのかと、考えるまでもない。最初に、自分達の事をほぼ全滅状態にまで追い込んだ何かをする積りなのだ。

 

はっきり言って二度目は無い。もう一度それを放たれれば、彼らには防ぎようがない。今度こそ全滅してしまうだろう。そう、二度目は無いのだ。

 

彼らが一度受けた攻撃に、何もしない訳が無いのだから。

 

溜め込まれた力が、弾ける前の僅かな間。不意に、星喰らいの眼前に何かが映る。一見、なんの変哲もないただの袋でしかないそれの中身はハインリヒが持っていた物。そう、彼らの中で唯一無傷で在り持っていた道具も無事だったハインリヒが持っていた、ラキアの変態たちが作り出した火薬を丸めてレフィーヤが印石として手を加えて好きな時に爆発するようにした物を詰めるだけ詰めただけの袋。

 

要するに…爆弾である。

 

弾ける。星喰らいと爆弾が弾けて視界を光で覆いつくす。遅れる様に衝撃と音。あらゆるものを根こそぎ吹き飛ばしてしまうのではと思う程のその威力は、星喰らいにも確かな結果を刻んだ。

 

視界に色が戻ると同時に移り込むのは吹き飛んだ地面に仮面の如き顔がひび割れ欠け、その体を抉られた星喰らいの姿。光の剣や下部の何かまで失われているのは爆弾の威力ゆえかそれとも何かの代償か。

 

だがそれはどちらでも良い事。今まさに星喰らいは傷を治す為かこれ以上ない隙を晒している。だから迷いなく、レフィーヤは動いた。

 

杖を振るい印術を刻み、手袋から音が響き印術を術式に巻き込み組み上げ、生み出された術はエーテルと共に圧縮され、三属性の支配者と呼ぶに相応しいその技量を以て形を成す。

 

レフィーヤが生み出されたその術には当然、名は無く。故に彼女はとある神話に語られる杖で在ったり剣で在ったりする武具で在り。そして尊敬し、今もその背を追っているある女性の誇る魔法名を勝手に受け取り、こう名付けた。

 

 

―――――――――レーヴァテイン、と。

 

 

杖を砕き手袋を吹き飛ばしながら放たれる剣の如きその極光が、星を喰らうものを飲み込む。或いは先程の爆発以上の威力を誇るその術に、レフィーヤの腕は拉げ未だ籠る熱に血が蒸発し肉を焼く。痛みも感じることのできない状態、だがしかしその視線は鋭く前へと向けられていた。

 

映るは星喰らい。術が直撃し体の実に半分を消滅させながら、それでも欠損を埋める様に蠢いていた。まだ、生きていた。

 

 

一発の魔弾が、その面を撃ち抜くまでは。

 

 

声も無く、唯一つの弾痕が仮面の如き星喰らいの顔に刻まれた。それは小さなものでしかなく、けれどそれは埋まることなく。急速に星喰らいの敵意が、殺意が、それを覆う程の飢えが消えていく。

 

そして静かに崩れ落ちた。

 

静寂。歓喜の声は無く、余りに静かな終わりに意識が追いつかずレフィーヤは実感が無かった。けれど、目の前で崩れ落ち動かない星喰らいは、間違いなく彼らの勝利の証明であり。

 

 

 

 

最果ての世界樹の下。尤も新しき伝説が、英雄たちの軌跡が…刻まれた瞬間だった。

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