其の後、彼等が魚蜥蜴を倒したから大丈夫と判断したのか。何処からともなくひょっこり現れたサラ教授を連れ無事にアスラーガへと帰還した。これを以てミッションは達成…けれど。
「―――――はぁ」
街を彷徨いながら、レフィーヤは酷く重い溜息を吐いていた。気分は、最悪と言っても良い。それは自分自身が情けなくて仕方が無いからだ。
「また……駄目だったなぁ」
呟かれた言葉。そう、そうなのだ。剛腕の石灰魔人も、紅蓮の魚蜥蜴と名付けられたそれも。レフィーヤが戦った怪物二匹は、しかし自身が居る意味が在ったのだろうかと疑問に思ってしまうのだ。きっと、其れを彼等に言えば極めて正しい言葉が返って来る事だろう。前、言っていた通りに。
けれど駄目だ。
今回は駄目だ。あの戦いは、自分が居る意味が見いだせなかった。いいや、それ処では無い。唯単に、足手まといとして其処に居ただけでは無いかと。そう、レフィーヤは思わずにはいられなかった。結局、行った事は最後の方で印術を一発叩き込んだだけでは無いか。
威力が高い?
だから如何した。敵を、モンスターを倒す事が出来ずに危うく逃がす所だったではないか。
ローウェンは最大火力だと言っていたが、如何考えてもゴザルニの方が……いや、あれはジャンル違いだから良いかとレフィーヤは思った。
弱ってたとは言え何で両断できるんだ。
というか何で水面に立ってるんだおかしいだろうと。
どうやったのかと問い掛けてみたが。技術でござる、と一言。なんと返したらいいのか分からない類の物だった。
「……はぁ」
また溜息。
切り替えようと考える。何故、倒せなかったのだろうかと。あの時の一撃は間違いなく今放つ事の出来る最高の物だった。消耗していた怪物に止めととなる一撃だと自負できたほどだ。
それで倒せなかったからこうも落ち込んでいるのだが。
まだ使い始めて一週間と少ししか経っていないから仕方が無いと、頭の隅を過る。それは、仕方が無いと言えば仕方が無いだろう。けれど、いやだからこそ自己嫌悪に陥る。そんな事を考えながら一瞬とは言え比べたのだ、自分とホロンを。どれだけ馬鹿げた事なのかと理解しながら。
彼に比べて自分はと考えてしまった。比べてはいけないのに、比べようが無いのに。と、其処で彼にある事を言われた事を思い出す
「そうだ。私から君に一言送ろう。『君はもう出来るだろう』とね」
それが何かを察したかのように、去り際にホロンが残していった言葉。尤もその時点では滑る様に去って行った事になんでだと疑問で頭が一杯だったので其処まで考えていなかったが。出来るとは、如何いう事だろう。なにが出来るというのか。
ホロンの様な働きがと言う事か?
「あ、みみだ」
馬鹿馬鹿しい。
「みみ、みみさわらせろ!!」
出来る訳が無いだろう。
「みみー!!。みみみみ――――――!!!!!」
こんな未熟って。
「いっ―――――――たたたたた?!。痛い痛い耳が痛い!!」
痛み、突然の其れは耳が潰されるのでは思う様なもの。そして同時に、背中の重さ。それから察するに、原因はあの耳に異様な程執着していた子供だろう。
「は、これは?!」
「いやこれはじゃ無くて耳引っ張らないで」
「このみみおちこんでるみみだぞ!?どうしたみみのねーちゃん!!」
「え、なにそれ怖い」
確かに落ち込んではいた、いたが何で耳を引っ張ったら分かるんだ。今までの経験にない意味の分からなさだった。
アスラーガって魔境なの?
「なにかなやんでるのか?おしえろぉー!そしてそんなものすててしまえ!!」
「凄い事言ってるこの子?!」
「がっかりみみはよくないぞ!!うきうきみみがいいんだぞ!だからいえー!!」
「いやよくわかいっ――――たい?!わ、分かったから。言うから引っ張らないで!」
「ならはやくいえい!」
理不尽だと思ったレフィーヤは悪くない。
「ぼうけんしゃになれないんじゃないかってなやんでだわけか」
「違うけど?」
出来る限り分かり易く説明したのにどうしてそんな結論に至ったのかさっぱりなレフィーヤ。子供の考えって摩訶不思議。そしてその子供はと言えば、そんな事等知らんと言わんばかりに続けた。
「だいじょうぶだぞみみ!!」
「せめてねーちゃんってつけて欲しいかな」
「まえにこるぼのにーちゃんがいってたぞ!」
「うん、誰?」
「だからきにするな!」
「いや、そこは言ってくれないと分からないんだけど?」
「ぼうけんしゃにひつようなのは『いっぽまえにあしをふみだすこと』だっていってたからな!!」
一瞬、息が詰まる。子供の、少年の口にした言葉どの様な意味なのか理解したから。
「そ、れは」
「だからふかくかんがえなくてもいいぞみみ!!まえにでるなんてだれにでもできることだからな」
そう言って、笑みを浮かべながら深く頷いた。言いたい事は言い終わった様で。
「じゃあなみみ!!つぎはうきうきなみみをさわらせてくれ!!」
手を振り、ふはははと笑い声を上げながら去って行く少年。その後ろ姿を見ている事しか出来なくて。
「ジャッ!!」
「グルピョッ?!」
だから、その芸術的なボディブローが叩き込まれる瞬間を目にした。
崩れ落ちる少年、しかしそれに一瞥もくれる事無くボディブローを放った存在、少女はレフィーヤを見て。
「ごめいわくをおかけしまた」
ぺこりと頭を下げて、少年を引き摺って行った。やはり、アスラーガは魔境なのか。
なんだか、自分が何を考えていたのか忘れてします程のインパクトだった。けれど、言葉は憶えている。
「……一歩前に足を踏み出す事、か」
それが、どれ程難しい事なのか。レフィーヤは知っている。