世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第二十九話

ゆっくりと通路から現れたそれは、鹿だった。

 

尤も、普通の等とは口が裂けても言えそうにはないだろう。何故ならば、生き物なのかと疑いたくなる様な圧力を感じるからだ。それは敵意か、殺意か、それとも悪意か。いいや、そのどれでも無く全てだろう。敵意も、殺意も、悪意も。

 

全てを集め煮詰めたかのようなそれは―――――怨讐。

 

「あれが……D.O.Eッ?!」

 

想像以上だった。石灰魔人や魚蜥蜴に比べれば其処まででは無いだろうなどと頭の片隅で思っていたレフィーヤは戦慄していた。あんなにも恐ろしいモンスターをレフィーヤは知らない。

 

そして、恐ろしき角を持つ鹿は、彼等を見て。ゆるりと口を開き。

 

 

三発の銃弾に撃ち抜かれた。

 

 

「……ん?」

 

 

一瞬、見間違いかと思い見直すレフィーヤ。見えたのは、僅かに傷ついた角鹿。鬱陶しいと言わんばかりに揺らしている体には……既に治りかけの傷が三つ。そう、三つである。其れを行ったローウェンを見ると。何かを確認する様に銃を弄りながら。

 

「不自然に硬いなぁ、やっぱ何かしらのからくりが在るって感じかね」

 

 

―――――タンッ

 

 

銃声、撃ち放たれた弾丸が両目を抉り喉を叩く。角鹿の悲鳴にも似た叫びが、しかし喉に浅いとはいえ傷があるからか、響く事無く掠れる様に耳に届く。そしてやはり、弾丸は三つ。

 

「うわぁ、眼球も治んのかよ」

 

やだねぇ、なんて呟きながら続けて発砲。当然の様に放たれる三発の弾丸は、先程と同じ場所に狂いなく叩き込まれ。

 

色が咲き誇る。それは炎、氷、雷。何時だったか言っていた属性弾と言う言うものか。

 

初めて見るそれに興味を惹かれるけれど。しかし、それでも少しの傷のみで平然としている角鹿は、脅威と言う他無いだろう。普通なら一撃でも食らえば死にかねない場所に何発も叩き込まれているのに。それは嘶きを掠れさせながらもローウェンを治りかけの瞳で睨み付け、彼に向かって駆けだす。

 

「誰が歩いて良いと言ったかなぁ?!」

 

直後に銃弾が前足の両関節を撃ち抜き崩れる様に転がった。序でのように喉も撃ち抜かれており、声を発する事も出来ず、立ち上がろうと足掻く。その姿を見ながら、ある事に気が付いて。

 

「あぁー、成程そう言う事か」

 

ローウェンも又、気が付いた様だ。傷が、先程までのよりも深いという事に。いや、恐らくはレフィーヤが気が付いた事よりももっと、より詳しく。それこそ、何故今までの弾丸が通らなかったのかまで理解しているのだろう。だから、彼は語り始める。

 

「どうやら、D.O.Eは…と言うにはまだ一体しかだから何とも言えんが。取りあえず目の前の鹿に限れば、あの不自然な防御力というか回復量というかは何処かしらに不調が出れば無くせる様だな。不調を取り除く為に其方に気が向くからかね?」

 

なんて、首を傾げながら立ち上がった角鹿の関節を撃ち抜き再び転ばせる。

 

「倒せたのに職業は関係ないって言われるわなこんなんじゃ。俺みたいに関節ぶち抜いたり…あと毒とか呪いでもいけるのかね? そう言った類いが無ければ碌にダメージ通らなないんだからな」

 

傍から見れば、熟練冒険者の攻撃が通らず。なのに初心者なら通り、かと思えば駄目になる。そんな光景が在ったのだろう。確かに、意味が分からないという事になっても仕方が無いだろう。

 

と、何度も転ばされる角鹿が大きくその体を震わせる。疑問に思うよりも早く、琥珀色の何かが角鹿から宙を舞ったのだ。それが何であるのかは分からないが、なんの効果があるのかは直ぐに分かった。惹かれる様に複数のモンスターが、角鹿に向かって集まっているからだ。

 

流石に、これは不味いのではと杖を構えて。

 

 

――――タタンッ

 

 

全てのモンスターが、急所に弱点と成る属性弾を叩き込まれ射ち落された。視界に収める事無く当然の様に、いや、角鹿の関節を撃ち抜きながらついでにモンスターを倒したのだ。

 

「モンスターを呼び寄せる…か。此奴の固有の物なのか、それともD.O.Eは皆出来るのか。何方にせよ面倒である事に変わりは無いか」

 

さて、と呟く様に言葉にして角鹿を見る。何度も関節を撃ち抜かれ倒れている姿を。最初に見た時に感じた恐ろしさを、レフィーヤは感じられなかった。それは、角鹿が弱っているからなどでは無く。

 

余りにも、ローウェンが圧倒的だったから。

 

「そろそろ止めを刺すかね。此れ以上は危なそうだし」

 

立ち上がろうと足掻く角鹿に、改めて銃を向ける。其れを見てか、更に激しく動く。きっと理解したのだろう。此の侭で殺されるのだと。けれど、尽きることが無かった、嗚呼そうだ。違った、魚蜥蜴の時とは違った。目の前の敵は、逃げる事等考えていなかった。

 

足掻くのは、眼前のローウェンを殺そうと言う意志の元。

 

 

「それじゃ、お休み」

 

けれど、高位冒険者には……殺意の刃は届かない。

 

引き金は引かれ、銃弾は放たれる。立とうと、避けようと、殺そうと暴れる角鹿、その頭部に。そう動くのだと知っていたかのように、吸い込まれる様に。

 

 

弾丸が―――――撃ち込まれた。

 

 

大きく体を震わせた角鹿はやがて、地にその体を横たわらせた。もう、動く事は・・・無い。

 

「いやぁ、とても強い敵だったな。ま、運は相当悪かったみたいだけどな」

 

ローウェンは笑みを浮かべながら、三人を見て。口にする

 

「と言う事で、見てたか?」

 

これが。

 

「最上位冒険者の本気と言うやつだよ。お前達が……目指すべき場所だ」

 

そう、彼等に向かって。遥か先を示し。

 

「いえ、人間やめたくないんですけど?」

「其処まで行ったらお終いよね」

「どんな外法に手を出したんだ君は」

 

「解せぬ」

 

 

 

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