一言、問いに問いを返す様な言葉は、しかしレフィーヤには十分だった。それ程、オラリオとは彼女にとって重要な言葉で、場所だったからだ。だから、一言で十分だった。
何処だ?
では無く。何だ?
それだけでローウェンは分からないのだと、知らないのだと分かった。
それでも、若しかしたらと言う言葉が彼女には残っている。
若しかしたら、余りに田舎で知られていないのかも知れないと。そう、そうかもしれない。レフィーヤとて、アスラーガ成る町は知らない。だから、だから。もう一つ、小さく呟く様に。口にした。
――――――神様は居ますか?……と。
レフィーヤは彼を見る。まるで縋る様に。どうか、どうか。お願いしますと。
否定しないで。知っていると言って欲しい。どうか どうか どうか!!
「いや、居るかどうかなんて知らないが?」
レフィーヤは、自身が震えている事を自覚した。駄目だ、考えてはいけないと思い。頭を働かせて、若しかしたらを彼女は探す。しかし、しかしだ。レフィーヤは分かってしまっていた。
先程、彼の言ったモノ。そう、不思議ノ迷宮と言ったそれ。それがどんなものなのか、レフィーヤには分からない。分からないのだが、よく分からない物で、場所であると言う事は分かった。そして、そんな分からない物に、場所に。
彼女の知る神、あの神々が興味を示さない等と言う事は・・・・在り得ないと分かってしまった。
考えの足りないところは在るだろうと、レフィーヤ自身も思っている。まだ、一人からしか聞いていないのだからとも思っている。だから、まだ若しかしたらがあるのだろう。しかし。それでも、在る疑問が思考を遮ってしまう程に大きく横たわっていた。それはローウェンに最初に問い掛けた。
―――――ここは、何処なのか? と言う、疑問。
「うーん」
声がした。はっとした様に、レフィーヤは目の前に座っているローウェンを見る。底なし沼の様な、しかしそれよりも暗くて重い何かに飲まれそうだと自覚していたからこそ、彼女は何かを言おうとしている彼に集中した。
「オラリオとか神とか。よく分からんが、取り敢えず分かった事が一つ在る」
言葉を切って、彼はレフィーヤを見る。何を、言う積りなのか。少しだけ身構えて。
「訳分らん内に訳分らん事に巻き込まれて、訳分らんが此処に居ると言う事が分かった」
ズッコケた。言っている事は全く間違ってないが其れは何も分かっていないと言う事だろうとか考えたり。そしてそう言えば布団の上だったなとか思ったり。しかし驚く程心地いいなこれとか現実逃避したりと。割と頭の中が忙しい事に成っているレフィーヤは。だから、少し遅れたのだろう。
手を掴まれた事に気が付くのに。
「―――――――――――えッ?」
「まぁまぁまぁまぁ。取りあえず行こうか」
それだけ言うと、彼は彼女を立ちあがらせて背を押しながら歩く。当然、背を押されているのだから、少し足がもたつき乍らも歩いて行く。何処に行くのかとか、行き成り手に触られたとか。そう言った考えが追いつかない程に唐突で、引かれたままにに立ち上がってしまったのがある意味悪かったのかも知れない。まぁ、仮に座ったままだったとしても引き摺って連れて行きそうな勢いだったが。
もはやだれにも止められない勢いが在った!
「あ、履くのはサンダルでいいか?」
まぁ、そんな事は無く普通に止まるのだが。そして、レフィーヤは言われるままにサンダルを履いた。別にこれと言って考えていない。勢いってすごいですね。
そして再び始まる押して押されて歩かされ。そして、色々と視線を感じるレフィーヤは、深く考えない様にし、現実逃避のように空を見上げ。
「―――――――――――――――ッ?!」
何かが有る事に気が付いた。
其れが何なのか分からない、分からないが。しかし、如何しようも無く彼女には気に成った。だから、其れに向かって思わず走り出そうとして。
「はいストップ。何処に何が在るか、分かってないだろう? 取りあえず、俺に押されるままで居なさいな」
ローウェンがそう言った。確かに、その通りだ。この街がどの様な街なのか知らない。何処に、何が在るのか知らない。衝動の儘に走り出しても、迷子に為るのが目に見えている。だから、言われるままに。
「自分で歩きますから」
「あ、そう?」
流石に、背を押され続けると言うのは……いやだったようだ。
目を見開いていた。
「よっす」
「ん? おぉーローウェンか。如何した? 迷宮にって感じの恰好でも無いな。って事は、其方の可愛らしいお嬢さん関係か?」
「そうだよ。此処が一番見やすいかと思ってなー」
ローウェンが、すぐ横で誰かと会話している。しかし、今のレフィーヤには届いていない。唯、目に映る其れに、フラフラと引き寄せられるように進んで行く。行き過ぎると危ないぞと、声を掛けられた気がするが、此れも届いていない。
「此処が何処かって、聞かれたからな。ちゃんと答えておこうかと思ってな」
レフィーヤは、見入っていた。
「此処は絶景の街、アスラーガ」
レフィーヤは、圧倒されていた。
「良い所とか特徴とか、まぁ、色々あるが。まずは此れだと言うのが、目の前の」
そう、目に映り込むそれに。
威風堂々という言葉がこれほど似合うものは無い。
空を覆ってしまうのではと思わせるほどの――――――美しき巨木。
「琥珀色の世界樹だ」