それは何処に隠れることも無く其処に居た。背に朱色の樹木を宿した甲虫は、樹木をゆっくりと揺らして彼等の方を向く。まるで見定める様にその瞳を蠢かし。
火球を叩き込まれた。
「…えーっと、レフィーヤちゃん?」
駆けだそうとしていたコバックが、レフィーヤに言葉を掛ける。彼女は、何でも無いかのように。
「隙だらけだったので」
良い笑顔でそう言った。其れを見て、えぇっと呟きながら汗を垂らすハインリヒ。此れは完全、きてる。何がとは言わないが。
「まぁ、レフィーヤの言ってる事は間違ってないわな」
言いながら、銃弾を放つローウェン。全く動じていない。
「と言うか速く動け、相手はもう戦う気満々だぞ?」
撃ちながら指さす。見れば、甲虫は体を揺らし何かを撒き散らす。明らかに、体にいいものとは思えない。毒、なのだろうそれは広がり、警戒する様に彼等は下がる。毒で無かったとしても、態々突っ込むような事はしない。馬鹿ではあるまいし。
「しかし硬いな。D.O.Eのと違って普通に硬い。ダメージが通ってる気がしない」
関節を撃っているのに少しだけよろめくだけで転ぶ様子の無い甲虫に、ローウェンは呟いた。確かに、先程火球を叩き込んだ時も頭を振りはしたが其れ以上に効いている様子は無かった。
「ま、それに関しては確かめながらって事よね」
前に出るコバック。突き出された角を盾でながしながら剣で切り裂く。それは銃弾や火球よりも効いている様に見えて。しかし。
「弱点って訳じゃなさそうだな」
そう、傷が浅い。確かに、比べればマシだが決定打に成り得る物では無かった。と甲虫が体を揺すり、再び撒き散らす。
慌てて下がるコバックは、しかし酷く足元がおぼつかない。まるで、酔っぱらって居る様な、或は眠気と戦って居る様な。
ハインリヒが動く。素早く鞄から薬を取り出しコバックに向かって投げる。今にも崩れ落ちそうな彼に薬がぶつかり、甲高い音を立てて割れる。直後、足取りは確かなものとなり、踏み潰さんとする甲虫の足を躱す。
「如何やら、あの…花粉? は、吸った相手を眠らせる効果があるみたいだね」
冷静に考察するハインリヒ。それはある意味で毒よりも厄介なモノだった。眠ってしまったなら、どれだけの手練だろうと無防備をさらす事に成るのだから。だから。
「なら近づかないでやるぞ」
言葉と共に銃弾を放つ。打ち出された三発の銃弾は狂いなく同じ足の関節を撃ち抜く。此れには堪らず甲虫も揺らぐ。が、其れだけ。動きを止めるまでには至らず。
それでも印術を叩き込むだけの隙にはなった。
放たれる其れは氷槍。其れは真っ直ぐに甲虫の顔面に向かい、弾かれた。単純な甲殻の硬さによってである。火球よりも効いている様子は無い。思わず舌打ちをしたくなるが。甲虫が身を震わせるのを見て、もしもと考えて後ろに下がる。しかし、今回は花粉が巻かれる事は無かった。代わりに、守るかのように軍隊バチが現れ。
「お前も呼ぶんかい。面倒だな、おい」
ローウェンが全て射ち落す。此れには流石に驚いた様に体を甲虫は揺らす。脅威だと認識したのだろう。さらに激しき体を揺らし、花粉をばら撒く。しかし、吸う様な事は無い。息を止め、素早く距離を取る。唯それだけで対処できるのだから、油断しなければそこまで脅威には成り得ない。が、こうも思う様に近づけないと苛立ちも積もると言うモノ。唯でさえ決定打と成り得る攻撃が出来ないのだから、尚更だ。
だから、レフィーヤは火球を放つ。其れを受け、鬱陶しいと言わんばかりに体を揺らす甲虫を見て、又は放つ。
ローウェンに言われた事。敵を倒すまで攻撃をし続ける。実の事を言えば、出来無いと心の何処かで思っていた。だって、レフィーヤの知る魔法は連射出来る様な物では無かったから。ここぞというときに、放つ物だったから。だから、目一杯力を込めて放っていたのだが、間違っていた。当然だろう、魔法と印術は違う。
だから放つ。何度も、何度も。印術は連射が出来るのだから。
流石に、拙いと思ったのか体を震わし軍隊バチを呼び寄せる甲虫。レフィーヤに襲い掛かる様に向かい、ローウェンに射ち落される。
其れを横目に、火球を放つ。
硬い、だから如何した。耐性が在る、だから如何した。関係無いと叩き込む。悲鳴が上がる、苦痛を感じているのだろう。だから叩き込む。だって、まだ倒せて無いから。甲虫が倒れ込む、限界が近い様だ。だから叩き込む。もう少しだから。足掻いていた甲虫が動かなくなる。もう、瀕死だ。
だから、火球を叩き込んだ。
少しの間、様子を見て。動かない事を確認すると、ふっと息を吐き。
「倒せました!!」
笑顔でそう言った。なんでか、ハインリヒとコバックの表情が引き攣ってるが、ローウェンは良い笑顔でレフィーヤの肩を叩く。
「いや、うん。よくやったじゃん。今回はレフィーヤがいなかったら確実に面倒な事に成ってたは。具体的に弾が無くなってただろうからな。いや良かった」
褒めている積り、なのだろうか。嫌では無い、寧ろ嬉しいと言えるだろう。だから、胸を張って見る。ローウェンは楽しそうだ。
「さてじゃ、ミッションをこなしますかね」
「え?」
「え、じゃないから。倒すのが目的じゃ無いからな?調査が目的だからな?」
そうだった、すっかり忘れていた。目的を忘れるなんてと思わなくも無いが。取り敢えず良いかと切り替えて。
「じゃあ、何か無いか探すぞー」
その言葉に頷いて、各々が探す様に動き出し。
巨大な琥珀を、其の内の影を見る。