世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第三十六話

――――――帰りたい?

 

そう、声が聞えた気がした。問いの答えは考えるまでも無い、帰りたいに決まっている。

 

――――――帰りたい?

 

問い掛けに、何処を向けてと言う訳では無いが頷いた。

 

――――――なら、帰ろう?

 

手を伸ばされた気がして、それを取れば若しかしたら。

 

――――――帰ろう?

 

レフィーヤは、手を伸ばして。

 

 

「おはようございます!!」

「ゴボロォッ!?」

 

文字通り叩き起こされた。

 

 

 

「いった、え……?いや、え? なに?」

「眠ってたから起こしただけだぞ?踵落としで」

 

何故起こすという行為で踵落としをしたのかと訊きたいレフィーヤは、しかし目に映る人物、ローウェンを見て。あぁ、そうかと思いながら布団に再び倒れる様に寝転がる。

 

「二度寝か……今度はどうされたい?」

「……出来れば静かにしてほしいです」

「そうか、なら歌うか」

「なんで?」

 

思考回路がおかしい。なぜそうなるのかと。

 

「それで」

「なんだ、リクエストでもあるのか?」

「ないです」

「そうか」

「何の用ですか?」

 

問い掛ける。本当に、起こしに来ただけとは思えなかったから。

 

「起こしに来ただけだが?」

 

だけだった。

 

気が抜ける。なんだそれはと思うと同時に、そんな人だったなと改める。寝転がりながら、仕方ないと呟きながら出て行こうとするローウェンを見て、呼び止める。

 

「ローウェンさん」

「今度はなんだ?」

 

「私…もう無理です」

 

 

 

「無理……ねぇ? それだけじゃ分からんな、詳しく話してくれ」

「もう冒険できないって事ですよ」

 

言って、あぁその通りだと自分で思う。もう、レフィーヤは冒険できないのだと。前に進む事が出来ないのだと。

 

「それは、何故だ?」

「だって、進めませんから」

 

何故、何故レフィーヤは前に進めないのか。それは、誤魔化していた事。

 

「恩恵が無いんですよ? 無理ですよ」

 

思ってた事、でも大丈夫だと思ってた事。印術が使えれば、彼等が居れば大丈夫だと。勝てたのだから、前に足を踏み出せたのだから。だから大丈夫だと考えてた。

 

でも、無理だともずっと思ってた。

 

印術が使えようと、彼等が居ようと、勝てようと、前に足を踏み出そうと。恩恵が無いレフィーヤと言う存在は、何も為せないと、ずっと思ってた。

 

「そんな私は、何も出来ませんよ」

 

第五迷宮で、D.O.Eと出くわした時を思い出す。何も出来ずに突っ立って、コバックを殺し掛けたのを。

 

「しかも……ですよ。あの時、私はこれは夢だからって死のうとしてたんですよ?」

 

違う、それは正しくない。今だって起きた時、ローウェンが目の前に居て。あぁ、まだ夢の中かと思ったのだから。レフィーヤはここ、夢なのだと信じたいのだ。今も。ずっと。

 

「そんな私なんて、居ない方が良いんですよ」

 

だから、彼女は。

 

「だから、私はもう冒険は・・・・無理です」

 

そう、言いきって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっそ」

 

じゃあそう言う事でと言いながら、普通には部屋から出て行った。

 

「ちょっと待って下さいよ普通そこで出て行きますか?」

「俺はする」

 

思わず、駆けだして手を掴むレフィーヤ。流石に冷たすぎると思いつつ、まぁですよねと思っている自分も居た。これがローウェンクオリティかと。

 

「え、ていうか何? なんて言ってほしかったの?」

「いやそれは」

「別に慰めてほしかったとか励まして欲しかったりとかする訳じゃ無いだろう?」

「それは……その」

 

口篭もる、何と言ったらいいのか分からなくて。

 

「そして怒られたら殺意湧くだろ?」

「そうですね」

 

即答だった。考えただけでもありったけの殺意と憎悪と八つ当たり精神を込めた火球を叩き込みたくなる。と、そんなレフィーヤを見て、ローウェンは笑う。なんだ火球ぶち込むぞと思いながら彼を見る。

 

「そう怖い顔で睨むな。別に俺は理由も無くお前に何も言わなかった訳じゃないぞ?単純に、必要無いから言わなかっただけだ」

「必要……無い?」

 

何を言っているのか、分からなかった。一体、ローウェンは何を言っているんだ。

 

「無理だって言うなら別に構わんよ。無理強いはしない。元より、挑むかどうかを決めるのは本人だけだ」

 

だからと、言葉を置いて。

 

「お前が無理だと思った。だから言って、俺が其れを受け入れた」

 

其れで良いだろうと、彼は言う。その通りだ。その通りなのだが、その・・・説得成りなんなりも全くされないと、それはそれで、複雑な気持ちに成るレフィーヤ。そんな彼女に、やはり彼は笑って。

 

「尤も、お前の場合は少し違うかもしれないがな」

「違う?」

 

何が違うというのか。問い掛けようとして、彼は肩を竦めて言う積りは無いと口にする。

 

「まぁ、でも。そうだな、敢えてヒントを言うなら、それは前にも言った事だな」

「前にって……何を?」

 

「お前は冒険者気質だから」

 

「…え、それが、ヒントですか?」

「そうだぞ、ていうか答えだな、これ。と言う訳で俺は行くぞ」

 

じゃ、っと彼は音を立てながら廊下を歩いて行く。いつも以上に意味が分からず、レフィーヤは立ち尽くす。ヒントで答えだという、冒険者気質だからって・・・如何いう事だと。

 

廊下を歩くローウェンの背を見ながら。

 

 

 

 

 

「さて、レフィーヤはどれだけ諦めていられるかね」

 

そんな呟きが、聞こえた気がした。

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