ふらりと、外に出る。
途中、そう言えばと気に成ってローウェン達の部屋により貴方たちは出ないのかと問い掛けた。其れに対して彼等は言った。
「弾の補給が先」
「盾が無いから無理ね」
確かに、それでは冒険に出ようがない。少しだけ、コバックに申し訳ない気持ちになりながらそうですかと言って部屋を出た。
やはり、やることが無い。何時もなら何て何度も考えた事。買い物と言う気分でも無いレフィーヤは彷徨う様に歩き気球艇乗り場に辿り着く。
他の場所よりも高所に作られている其処は、しかし世界樹を見るという意味では其処まででは無かった。建物に遮られるからだ。何故、ローウェンは最初に態々こんな場所まで遠回りしてここに連れてきたのだろうかと疑問に思ったが、特に意味はなさそうだなと思ってしまった。なんとなくと、そう答える彼の姿が容易に想像できる。
そんな場所だが、別に景色が嫌いと言う訳では無い、寧ろ逆だ。レフィーヤは其処から見る眺めが好きだ。アスラーガの街が良く見えるから。
何気無く、柵に腰掛けながら街を眺める。住人達が今日も元気に動いて回っている。一年前に悲劇に見舞われたとは思えない程に。
「……強いなぁ」
呟く。そう、彼等は強いのだ。悲劇に見舞われようと、それでも此処まで歩き続けられる程に。自分には無理だと、思う。
視線を移す。街から、世界樹へと。見辛いと言っても他の場所と比べればと言うだけで、ちゃんと見える其れは。変わらず其の威容を見せつけている。
と、振り払う様に頭を振って。とん、と柵から降りる。余り世界樹を見ていると考えない様にしている事が頭を過ってしまう。それは、よく無い事だと出来るだけ世界樹を見ない様にし乍ら歩いて行く。
さて、如何したものかと彷徨う。ダーナ直売店にでも行くか、いいや、あそこは冒険者関係の物が多く置いて在る。今のレフィーヤが見ても面白くはないだろう。ならば琥珀軒にでも行くかと考えて。
「ごっざごっざごっざござー♪」
よく分からない事を口にしながら機嫌よさげにゴザルニが向かって行ったのが見えたので瞬間その考えは消え失せた。少し、相談してみようかとも思ったが最終的にどうなるのか目に見えているし。
ならばどこに行くか。他に主だった場所と言えば冒険者ギルドか、そう言えばサラ教授の研究所も言って良いみたいなことを言っていた事を思い出す。けれど、その二つは駄目だ。言っても意味が無い、というか世界樹を見るよりももっと其れを考えてしまう。だから駄目だ。
いよいよ以て、行く所が無い。細かな場所は見ていないが、やはりそんな気分に成れず。かすみ屋に戻ろうとしていた時に。
「おや、君か。元気かね?」
と、声を掛けられた。声からしてホロンだろうと思いながら振り返り。高速回転している彼が目に入った。何故回っているのかとか、思わなくも無いが。
「元気……では無いですね」
「確か、第五迷宮の調査に行って不測の事態に陥り緊急帰還したのだったな」
「…はい」
「そうか、まぁ冒険は最終的には運が付きまとう。故に、其処まで気にしても仕方が無い事だと言って於こう」
ではと言って、やっぱり回転しながら去って行くホロン。何故、回っていたのか聞きそびれた。たいした意味はなさそうだけれど。
「それでも、如何でも良い事を考えて少しだけ元気が出たのではと思う私だった」
「……本当に貴女達は急に出て来ますよね」
何時の間にか、レフィーヤの背後に居たのはカースメーカーのポシェ。彼女は、否定するかのように頭を振った。
「そうでも無い」
「いやでも」
「私は貴女の後ろにずっと居たし」
「何時から!?」
「ローウェン達に問い掛けた時から」
「最初からじゃないですか?!」
「うん」
うん、じゃ無くてだ。何故そんな事をしたのかと。ていうか、今までずっと無言で背後に立ってたって事なのか。怖いからやめてほしい。
「貴女、今不幸でしょう?」
「え、いえ別に不幸って訳じゃ」
「貴女、今不幸でしょう?」
「あの、だから」
「貴女、今不幸でしょう?」
「……そうですね」
同意する、そうしなければ話が進まないから。すると、目に見えて悍ましいオーラを垂れ流すポシェ。思わず、一歩後ろに下がってしまうレフィーヤ。思い出したのはゴザルニの言っていた言葉。
「何で不幸なの?」
「…其れを言ったらどうなるんですか?」
「原因を呪う。幸せになるまで呪う。何だろうと呪う。とにかく呪う。不幸等、この世界には、うん不要だから」
幸せになるまで呪うって何だ。誤字か、誤字なのか。祝うの間違いなのでは無いだろうか。いや、今の彼女の雰囲気を見るに間違いなく呪うだろう。
こんな状態のポシェに、不幸な理由は自分にあるなんて言ったらどうなるだろうか。いや間違いなく呪われる。幸せになるまで呪われる。一言で云って怖い。呪いに因る幸せの押し売り怖い。
何と言ったらいいのか、悩むレフィーヤと、それを酷く暗い表情で見つめるポシェ。やめてほしい。せめてもっと光の湛えた瞳で見つめて欲しいと思って。
空気が変わった事を肌で感じた。
顔を上げる。何か、決定的な何かが変わった。其れはまるで、敵と遭遇した瞬間の様な。そう思っているレフィーヤよりも、当然の様に早く動き出すのはポシェだ。一目散に、目的地が分かっているかの様に彼女は走り出す。向かうのは、琥珀軒方面。其処で、何かが起こっているのだろうか。
行かない方が良い、そう思う、思っている。けれど、足は自然と彼女の後を追う様に動いていた。
駄目だ。
駄目だ。
駄目だと、思いながらも止まる事が出来ずに。
そして彼女は、街を破壊する花の怪物を見る。