世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第三十九話

「いった」

 

呟きながら瓦礫から這い出る。なんだか、今日の目覚めは痛がってばかりだなと思いながら確認する様に自分を見る。思ったよりもダメージは少ない。衣服は汚れているが破れておらず、動けなくなるほどの痛みでも無かった。

 

氷槍の印術を応用した壁で、防御したからだ。

 

本当に、印術は便利だなと思いながら。無意識の内にそんな事が出来てしまった自分自身が可笑しくって、笑う。これは、もう人間と呼んで良いのだろうかと。出来れば人外だとは思いたくはないが、ホロンの言っていた通り出来てしまったのだから仕方ない。

 

だから八つ当たり精神を込めた火球を放つ。

 

完全に不意を突かれた花の怪物は、避ける事等出来ずに直撃する。爆ぜる火、上がる絶叫。そう言えば何処から声を出してるのだろうかと疑問に思いながら。乱暴に振るわれ、しかしレフィーヤを狙った一撃を躱しながら下がる。

其れを見て、追撃と蔦を振るい。それが切り落とされる。

 

「ぬん、レフィーヤ殿は大丈夫そうでござるな」

 

目の前に着地して、チラリと彼女を見たゴザルニは再び前に出る。其れを見るや、直ぐに頭部を振るわせる花の怪物。彼女を近づけては危険だと理解しているのだろう。毒の花粉を壁代わりに撒き散らす。その一手は確かにゴザルニの足を止めることに成功し。

 

「思ってましたけどそれ、よく燃えそうですよね」

 

パチリと、レフィーヤは指を鳴らした。直後の轟音、そして悲鳴。撒き散らした花粉が火薬代わりと為り爆ぜて、怪物自身を焼く。思ったよりも威力が出た事に驚いて、しかし顔を顰めた。思った所に印術が向かわないからだ。

 

敵が大きいから、今の所は外さずに済んでいるけれど。しかし此れでは何時誤射してしまっても可笑しくない。それ程までに、精度が酷い。そうなっている理由は、杖が無いからだ。彼女自身、まさかここまで違いが出るとは、そう思いながらも、気を付けながら火球を放とうとして。

 

「これ、使って」

 

声と同時に、何かが向かって来る。反射的に、其れを掴み取って何かと見れば。其れは杖だった。声のした方を見る、其処には怪物に向かって呪詛を口にしながらもレフィーヤにサムズアップするポシェの姿が。少し、可笑しいと思いながらも放つ。

 

投げ渡された杖は、とても扱いにくかった。当然だろう、カースメーカーであるポシェが使う為に調整された物なのだから、ルーンマスターのレフィーヤが使い難くても当然だ。其れでも誤射し無い様に気を使えるくらいにはなるので、火球を連射する。

 

放たれた其れは、全てが当たった訳では無いが。しかし、それでも苦痛だと言わんばかりに怪物は身悶える。レフィーヤを危険だと排除したいがゴザルニがその度に邪魔をし、其れを無視しても彼女自身に攻撃を避けられる。故に怪物がとる行動は彼女達が回避できないもの。

 

花の中心に在る歪な口の様な者が開く。何かをする積りかとレフィーヤは身構えて。冷気が吐き出されるのを見る。

 

それは、印術に因る耐寒を貫きレフィーヤの動きを鈍らせる。痛みすら感じる冷気に、如何するべきかと考えて視線を走らせる。ゴザルニとポシェは問題なく動いている。自分だけかと思いながらも、仕方ないと防ぐのではなく、温度を上げる事でやり過ごす。強引な方法だが、少し熱く感じるだけで問題なし。

 

冷気も効果が無いと判断したのか、花の怪物は震わせながら口を開く。其処から放たれるのは何であるのか。よく分からない甲高い声か、或は刺す様な冷気か。それともまだ見ぬ何かが。何れにせよ。

 

「もうやらせんでござるよ」

 

刃が走る。行動を起こす前に潰す様に切り落とす。絶叫。まさか何もせずにただ待っているとでも思っていたのか。だとすればそう思ったままで居て欲しい。隙だらけで実に狙いやすいから。

 

「死ね、死ね、死ね死ね死ね! 不幸をまき散らす貴様はさっさと死ねぇ!!」

 

ポシェの呪言が花の怪物を蝕む。それは毒で在り睡魔で在り、呪縛である。目に見えて動きが鈍る。其れを見て、如何するかと思考する。それは何を叩き込むかという悩み。火球でも良いが、それでは倒すまでに些か時間が掛かり過ぎるのではと。なので、もっと火力の高いものを叩き込む。

 

印す。それは火球。其れに火球を重ねれば即ち炎。示される印は爆炎の物。かつて期せずして放った其れを、今度は自らの意思で放つのだ。現れたるそれは驚きべき熱量を宿しながら其処に在る。一瞬だけ、此れを放っていいのだろうかと頭を過る。が、そんな事は知らんと撃ち放つ。怪物を倒せない方が問題だから。

 

見れば危険と分かる其れが花の怪物に迫り、何とか避けようとその身を捩る。が駄目。刃が、呪縛が、動きを封じてしまっている。故に、故に。爆炎は炸裂する。響き渡る悲鳴。其れだけで命へ至る一撃であったと確信できるほどに、悲痛なモノ。

 

なの、だが。叫べるならば・・・死んでいない。だから。

 

「もう……一撃!!」

 

示し、輝き、そして……放つ!!

 

 

「もぉぉえろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

爆炎が、飲み込む。後に残る物はなにもない。

 

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