走る。
「ちょっと落ち着いうぉ?!」
「ローウェンさんが転んですぐ起きた?!」
走る。
「しんどい……ただただしんどい」
「言ってないで走れよボケ!」
走る。
「わっぷ―――――とぉわわ、落ちる落ちる!?」
「レフィーヤ―――――――ッ?!」
走る。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ?! このままだと死ぬわよ本当に!!!」
「分かり切ってるからそんな事!!」
彼等は走る、前に向かって、下へ向かって。
『アァアァアアアアアアアアアアア―――――――っ!!』
襲い来る恐鳥から全力で逃走する。
彼等がそうする事を選んだ理由は単純だ。まずは不意を突かれた事。そしてそれ以上に場所が悪かった。下手に動けば足を踏み外して最下層まで真っ逆さま、何て事が在り得る。そんな場所で、しかも恐鳥が羽ばたく度に起こる風によって体勢を崩され、吹き飛ばされるなんて事も在り得る。更には恐慌状態のモンスターまで現れる始末。
要する、こんな場所で戦えるか!! という事だ。
では何故逃げるのに下へと向かっているのか。上に向かっても落下の危険性が増すだけだからだ。既に彼等はそこそこ深い所まで進んでしまっているから、上に逃げても外まで出るのに時間が掛かると言うのも在るし、もし万が一にも恐鳥が外まで追いかけてきたら目も当てられない。
アリアドネの糸に関しては使っている余裕が無いと言うのが理由だ。一応と言う訳では無いが、試したのだが吹き飛ばされそうに成った故に。
だから彼等は下へ、最下層に向かって突き進むのだ。なに、もしそこに別の怪物が居ても気にするな。上手くやれば同士討ちさせられそうだし。ちゃんとした足場が在れば戦える。勝てるとは言わないが。
尤も、今まさに天井をぶち抜きながら追いかけてきている恐鳥こそが最下層に居るかもしれないと考えていた怪物なのだろうが。寧ろこれ以外に何か居たら困る。最下層に居るのは迷宮の主だと言う話だし。其れだとこれ以上の何かが居る事に成ってしまうのだから。
「まじで落ち着けよ。もう少し理性的に動こうぜおい。そんな動き回ったら疲れるだろう? だから止まって的になれよ畜生がッ!!」
「言いつつ一発も外さないローウェンさん本当に人外」
「だが元気なのは確かだ。眼球撃ち抜かれたのに一切止まらないし」
「と言うか頭撃ち抜かれてるのに何で動けるのかしら」
「頭に何も入ってないんじゃないですか?……コバックさんみたいに」
「だな、コバックみたいに」
「コバックみたいと言う所に全力で同意」
「酷いッ!」
危機的状況なのに、余裕であるかの様に会話を交わす四人。実際、余裕が在るあるかどうかで言えば余裕を持とうとしていると言うのが正しい。戦わずに、逃げる。難しい事だが、彼等は其れが出来ている。しかしそれもちょっとしたミスで、或はアクシデントで崩れ去る物。だから、余裕を持とうとふざけた様な会話をする。そう言う場面かと言いたくなるが。其れでもする。
余裕がなくなる方が危険だからだ。
「最下層まで後何階だよ。というか今何階だよ?!」
「数え間違えて無ければ二十四階」
「数えてたのかよ、ハインリヒすげぇな?!」
「しんどさを紛らわせるためにやってただけだよ」
それでも凄いと思うレフィーヤ。彼女にはそんな事をする余裕は無いのだから。精々、恐鳥に向かって火球を叩き込む程度だ。火球を叩き込むと混乱するのか明後日の方向に突っ込む事が在るからだ。尚、雷撃を叩き込んだ時の惨状は酷いものだったので思い出したくはない。なんだ、加速するとか馬鹿じゃないのかと心の中で罵る。けれどそれではスッキリしない。
「馬鹿なんですか!」
「なんであたし罵られたの?」
なので、心の中で止めずに実際に口に出したら何故かコバックが反応した。そうか、馬鹿だと言われたら自分の事かと思ったのか。そうか・・・・自覚在ったのか。少し、悲しくなったレフィーヤだった。
「はい馬鹿が馬鹿だと自覚してた事が発覚したのは良いから足を動かせ!!」
「酷くないかしら!?」
「だったら反応するなよ!!」
「ごもっとも!」
納得する様に頷いくコバック。しかしローウェン。もっと足を動かせと言っているがこれ以上は無理だとレフィーヤは思う。あぁ、こんな事ならホロンにでもあの謎の滑る様な移動方を教わって置けば良かったと思う。始原の印術なんかよりも便利そうだし。
けれど、知らない出来ない事を今考えても仕方のない事だ。だからもっとと言うのは無理だが、止まる事の無い様に足を動かし続ける。事が出来なかった。止まらざるおえない事態が発生したからだ。
眼前に、ラフレシアと名付けられた街を襲ったモンスターを思わせる存在が一匹。それは、詰り。
D.O.Eと接触を意味している。
拙い、等と云う範疇の事では無い。落ちてしまいかねないような場所で迷宮の主と思われる恐鳥と、D.O.Eとの挟み撃ち。完全に終わったと言いたくなる様な状況だ。
普通ならば。
「D.O.E。詰り敵。其れも強力な敵!!」
「元気溌剌な鳥とも戦えそうな敵ですね!!」
「ならばやる事は一つね」
「壁にしよう」
再び走り出す。眼前のD.O.Eに向かって。ラフレシアと同じく、花の怪物は彼等を見つけるや否やその蔦を彼等に叩き付ける様に振るう。其れを余裕、とは言い難いがそれでも躱して更に前へ。荒ぶる花の怪物の攻撃を潜り抜け。すり抜けていく。そして、恐鳥は彼等を追い掛けて向かって来て居る。まるでD.O.E等眼中に無いかのように。であるならば当然。
激突する。
轟音、恐鳥は地に落ち花の怪物はその身を引き千切られる。恐鳥に関しては分からないが、花の怪物に関しては致命傷なのではと思わせる惨状だ。
だが、彼等にとっては何方も敵だ。そして、今は思っていたよりも傷が浅い様に見える恐鳥はしかし、花の怪物の蔦が絡まり思う様に動けずにいる。いや、あれは花の怪物が恐鳥に向かって攻撃しているのだろう。詰り互いに敵対し合っていると言う事に成る。あるならばやる事は一つ。
下へ向かって走る。幾らD.O.Eとて、あのような状態でどれだけ持つか分からない。だから、出来るだけ下へ下へと突き進み。
二十五階を走り抜け。最下層へと転がり込んだ。