其処は、見慣れたと言って良い場所だった。詰り何時もの地下水だまりだ。
「……あぁ、ここ最下層?本当に最下層?」
「地面があるし壁もある。詰り最下層」
「地下水が溜まっているからとかそう言う判断では無いんですね。全力で同意しますが」
「壁があるのってこんなに素敵な事だったのね」
そう言えって、漸く一息入れ彼等。しかし、それが限界だった。
バサリと、音が響く。其れだけで、分かった。突風、引き飛ばされない様に堪える彼らの前に、それは音を立てて降り立つ。最初から見れば、可成り消耗しているが、しかし未だに脅威は健在の恐鳥は威嚇する様に翼を広げて。
『アァァアアアアアアアアア―――――――ッ!!』
「うるせぇ」
ローウェンが嘴を撃ち、砕く。走る激痛に思わず蹈鞴を踏む恐鳥。しかし。
「俺達が勝てないから逃げてたとでも思ってたのだろうが、違うからな?」
彼の言葉を聞くか否か、分からないが翼を羽ばたかせて飛び立つ。
その、前に。
其の両翼をコバックが切り裂きハインリヒが叩き折る。またも、絶叫。もはや翼は使い物にならない。飛ぶことが出来ない。
「あの場所だと満足に戦えない。だから俺達はお前から逃げると言う選択をした。ちゃんと…戦える場所までな」
暴れる様に、だが語るローウェンに向かって猛進する恐鳥。しかし、放たれた氷槍が恐鳥の脚部を貫き、崩れる様に地面に突っ込む。。
「既に、どの様な行動をするのか知っている。その上でD.O.Eと衝突した事によって消耗までしている」
詰りはと、そんな呟きを零しながらクルリと見せ付ける様に足掻き、しかし動く事の出来ない恐鳥に向かって銃を回して、突き付ける。
「もう、負ける要素が無いんだよな。残念だったな」
銃弾が、撃ち込まれた。
「あ、追撃しときますね」
序に爆炎も。
「いやぁ、今回のは強敵だったな!!」
「ですね」
「もうやりたくないわね」
「でも本当に強敵だったよ」
「崖は」
ハインリヒの呟きに同意する様に頷く三人。本当にそうだ。崖が在ると言うだけであそこまで不利な状況に追い込まれるとは。案外、オラリオにある迷宮の攻略が進まないのはモンスターが強い以上に其れが原因なのかもしれない。いや、そんな訳無いか。
けれど、改めて考えると不思議だ。モンスターは強かった。けれど、それを言ったら冒険者達だって強い。負けずに、ちゃんと戦える程に。なのに、何故なのかと。神の居ない、なのにちゃんと勝利へとたどり着く事が出来るのだ。なのに、神が居りその恩恵を得られ、強くなれると言う圧倒的なアドバンテージが在り、レフィーヤの記憶が正しければ神々が降り立ってから相当の月日が経っている筈なのに。
どうして、迷宮は攻略されていないのか?
いや、そもそも。
壁からモンスターが生れる様な場所であるあそこは、本当に迷宮なのか?
ふっと息を吐く。此れ以上は考えても仕方が無いと首を振る。考えても分かりようの無い事なのだから。だが、不思議だ。考えれば考える程、オラリオに在るあの場所は、迷宮とは掛け離れた物である様に思えてくる。というか普通に考えて壁からモンスターが生まれるって何だ。可笑しいだろうと。今居る第六迷宮並みに可笑しいだろうと。
「どうした?」
また、考え込んでしまっているとローウェンが覗き込んでくる。いえ、と言って。何なら彼に言ってみようかと思って口を開き、止めた。確かに彼なら見たり行ったりしてなくとも、それなりに考えて納得できる事を言うだろう。が、今聞く事では無い。また今度、ふとした瞬間に思い出したなら訊いてみようとレフィーヤ思い。
「ちょっと世界の不思議について考えてました」
「なんだそれ滅茶苦茶面白そうだな」
凄い勢いで食いついて来たがこれを華麗に無視。恐鳥がちゃんと倒せているかを確認していた二人を見る。
「どうでした?」
「逆に訊くけれど、追い打ちまでやっておいて、あの状態のあれが耐えられると思う?」
「いえ、思わなかったから撃ち込んだので」
「だろうな」
同意するハインリヒ。取りあえず、脅威は去ったと言える。ならば、あとはミッション達成を目指すだけ。世界の不思議って何だと呟いていたローウェンも、何時の間にか最下層の奥の方まで行っていた。
「じゃあ、地下水と琥珀が流れてくる方に向かって行くか」
「……そう言えばどうやって行くんですか?」
「それは大丈夫だ。持ち運べるくらい軽量化された小型のボートが在る」
「あぁ、背負ってる大きな荷物って其れだったんですか。てっきり大量の弾丸かと思ってました」
「…あぁ、それもあって逃げる事にしたのか」
「万が一、壊れたら面倒だものね」
成程と、ローウェンが浮かべた其れを見る。小型の名に恥じない小ささだ。確かに此れなら持ち運ぶことが出来るだろう。だが、そう何個も運べる物でも無い。壊されたら取りに戻らなければいけなくなっていたと言う事だ。其れも在って戦い辛さも相まって逃走する事に決めたのだろう。
所で、だ。
「これ、四人乗れます?」
「乗れるかじゃない、乗るんだ」
「ギリギリそうね」
「僕が小さくて助かったね!!」
「…言ってて悲しくない?」
「うん」
そうかと、呟きながらボートに乗るローウェン。続く様にレフィーヤが乗り。じゃあと言ったコバックが何故かハインリヒへと向かって言って。
「こうすれば解決よね」
ひょいっと、ハインリヒを肩車した。
「……おい、コバックおい」
「コバックさん其れはちょっと」
「なんでそんな表情されてるの?!」
「そう言ってるが如何だハインリヒ?」
「…死にたい」
「ハインリヒちゃん?!」
「取り敢えず降ろしてやれ」
仕方ないと言った様子で降ろすコバック。そしてしばらくの間、顔を覆いながら微動だにしないハインリヒを乗せて、空気的には沈んでいるが彼等は水脈を遡る。
他愛無い会話をしたり、未だに若干落ち込んでいるハインリヒを励ましながら暫く進んでいると行く手に光が見えた。如何やら出口、目的地が近い様だ。故に彼等は光に向かってボートを進めて。
そこに、辿り着いた。