世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第四十九話

其処は、琥珀の色に染まっていた。

 

其の巨樹は、風に葉を揺らし陽光を受け輝きを放っている。巨樹を中心とした湖とて、巨樹を映し琥珀を宿している。あぁ、そうだ。其れは正しく美しいと言う他無い其れを、絶景と言い表そう。

 

見て、唖然とした様に、しかし魅入られ目を奪われるレフィーヤは。

 

「凄い目が痛いな」

 

ローウェンの言葉に、台無しだよと思わずにはいられなかった。いや、そうだけども。確かに水面とか色々と光が乱反射している所為か目が痛くはあるけれども。でも、でも!!

 

「もうちょっとこう……他に言う事無いんですか?」

「いや、なんか気が抜ける様な言って於かないとずっと呆けてそうだったし」

 

其れに関しては、反論できない。レフィーヤはずっと見て居たいと思ってしまっていたのだから。若しかしたら、彼がそう言う事を言ってくれなけば本当にそうなっていたかも知れない。

と、そう言えばと思う。

 

「ローウェンさんは良く大丈夫でしたね」

 

何故、彼は魅入られなかったのだろう。コバックやハインリヒでさえ目を奪われていたと言うのに。

 

「いや、確かに綺麗だし感動はするが其れ以上にここまで来たぜ!!って感じの満足感とどんな物が在るのだろうかと言う期待の方が大きくてな」

「本当に冒険大好きですね」

「此れでも堪能してるんだぞ?誰も見た事の無い美しい景色を目にする。これも、冒険の醍醐味だからな」

 

要するに、彼はこの景色を見てはいたが魅入られていなかったと言う事だろう。よくそんな事出来るな。美の女神とかの魅了も平然と退けそうな彼に慄くレフィーヤ。如何いう精神してたらそんな事が出来るのだろうか、不思議だ。

 

「じゃ、調査の為に世界樹まで…と言いたいが取り敢えず岸にボートを着けるぞー」

「世界樹まで行かないんですね」

「絶対に何かあるだろうけど、他の場所に何も無かったら行く感じで」

「そうですか」

 

行くぞと口にしながらボートを漕ぎ世界樹から離れていく。そう言えばと、世界樹をレフィーヤは改めて見る。真下から見上げるのは、もう少しお預けかと肩を竦めた。

 

 

陸へ上がり、これまた世界樹と同じ様に琥珀色に染まっている森を彼等は捜索する。なにか、無いだろうかと。根気よく探す気でいた彼等は、しかしあっさり其れを見つけた。

 

「…琥珀だな」

「ですね」

「凄い量ね」

「本当にな」

 

若干、げんなりとした様子の彼等の目の前に在るのは琥珀。それも巨大で、内にモンスターの影が見える。幾つかは見た事の無いものであるが、見知った物も多い。要するにこれは、D.O.Eだ。間違いなく、此処から他の迷宮に流れているのだろう。しかし。

 

「結構、森の奥ですよねここ」

「奥と言う程では無いが、まぁ湖からは距離があるな」

「どうやって流れたんでしょうか?」

「そうだな、考えられるのは流れていたのは湖に近くて流れやすい場所に在ったから。あとは悪い方に考えれば」

「誰かが流したから」

 

そうだなと、ハインリヒの言葉にローウェンは頷いた。しかし、偶々流れてしまったらな兎も角。若しもそうであったとしたなら、そんな事をしたのかと言う怒りよりも、何故と言う疑問が強い。まるで、意味が分からない。如何思うのかとローウェンに視線を向けるも、肩を竦めて首を振る。流石に其処までは分からない様だ。

なら、此れ以上は考えても仕方が無いのかも知れない。釈然としないが。

 

「取り敢えず、D.O.Eは此処から流れて来ていたって事で確定だな。まぁ、他に埋もれてたりとかそう言うのは在りそうだが」

 

もう少し何か無いか探すかと、呟きながら歩くローウェンに付いて行く。そして暫く進むと森を抜けて。

 

そこには、小さな集落が在った。

 

「……え、こんな所に誰かが住んでいるんですか」

「住んでいた、かも知れないわよ?」

「何方にせよ、随分とまぁ、凄い所にって感じだな。目とか大丈夫なのかね?」

「ずっと住んでたら何かしら影響が出そうな場所ではあるね」

 

なんて、思い思いの事を呟きながら、家屋を一軒一軒調べる。だが、しかしと言うか案の定と言うべきか。人の姿は無い。状態を見るに昔と言う程では無いが、人が住まなくなってそれなりに時間が経っていそうだ。と、其の時だ。

 

「あら? なんで此処にだけ石があるのかしら」

「は?、なんで石に反応・・・・いや、石だけど。確かに石だけどこれ石碑」

「え、石碑なの此れ?」

「お前は何で重要そうなものを見つけては唯の板だの石だのと判断するんだよ」

 

頭に手をやりながら愚痴る様に言葉にするローウェン。また、コバックが何かを見つけたのかと近寄って見る。其処に在ったのは、確かに石碑だ。なんでこれが唯の石だと思ったのか、文字が書いて在るのに。そんな事を考えながら、記されている其れを読む。

 

「『鎮守の民ナターシャ、ここに眠る』ですか・・・・って事は」

「墓だな」

「お墓だったのね…引っこ抜かなくてよかった」

「お前吊るされるの本当に好きだな」

「好きじゃないわよ!!」

「君達何やってるの?」

「いや、コバックが訳分らんなって話をしてただけ」

「吊るされるのが好きなんですねとも言いましたね」

「だから好きじゃないわよ!!」

「成程」

 

理解した様に頷き、すっと視線を彼等から石碑に移すハインリヒ。

 

「石碑…書いてある事からして墓標か」

「そう考えるのが妥当だな。唯の石では無く」

「そうですね。唯の石では無いですね」

「貴方たち、あたしの事を虐めて楽しい?」

 

「「凄く!!」」

 

「はっきりと言ったわね?!」

「で、ふざけるのはこの位して何か在ったか?」

「そうだね、樹海磁軸とモンスターの物だと思われる骸。その二つくらいだね」

「そうか」

 

モンスターの骸。見てはいないが、若しかしたらD.O.Eの物かもしれない。この集落を襲って、退治されたのか。其れとも。

 

「そう言えば樹海磁軸って何なんでしょうかね?」

「アリアドネの糸と関係があるかも知れない物とは言われてるな」

「詰りよく分かってないと言う事ですか」

 

言いながら、何度も使っている其れを思い浮かべる、不思議な光を放つ柱の様な其れは。これがオラリオの迷宮にもあったらなぁ、なんて事を何度考えた事か。

 

「ま、取り敢えずこれで帰りが楽できる様だし。もう少し探索するか」

「そうですね」

「集落があったんだし誰か居るかも知れないものね」

「いや、流石にそれは」

 

ない、とは言わない。可能性は低いが其れを否定しては冒険者として失格だ。と、其処まで考えてそう言えば知らない言葉が在った事を思い出す。

 

「ローウェンさん、鎮守の民って何だと思いますか?」

「訊く前に取り敢えずどんなものなのかを自分で考えろよ」

「いえ、それは文字通り、何かを鎮めて守っていた民。という感じでしか無いですね」

「其処まで考えたならもう少しだろう。鎮めるに関しては何とも言えんが。ほら、ここらへんで守る様な対象に成るのは何だ?」

「……世界樹?」

「まぁ、多分だがな」

 

正しくは分からんから教授にでも報告するか。そう言って、再び探しに歩きだす。確かにそう考えるのが正しいだろう。しかし、守ると言うのは分かる。なら、本当に何を鎮めるのだろうか。それも世界樹なのか。或は別の何かなのか。

 

考えながら、しかし答えなど分からないまま暫く探索を続けるが誰も居らず。これ以上何か得られる様なモノも無いと判断して。

 

彼等は街へと帰還した。

 

 

 

 

そして世界樹を間近で見てなかった事を思い出したレフィーヤは膝から崩れ落ちたと言う。

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