世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第五十一話

何時の間に居たのか、声のする方に見れば其処には少女が一人。サラ教授が預かっているサーシャと言う少女が。しかし、尋常ではない様子。

 

不意に、口を開き少女サーシャは語る。その体を借りた、鎮守の民ナターシャは語る。

 

それは、盟約に隠された謀。深き底に届く琥珀の光の意味。憎悪を留めんと鎮守の民が施した封印が破られようとしていると語る。復讐を果たさんとする、神話に語られし焔人ムスペルに因って。

 

最後に彼女が口にしたのは、封印を解く為に必要な事。唯、祈らせなさいと告げ、姿は消えた。突然の事に驚く彼等は、湖の縁で辺りを見渡しているサーシャを見つける。

 

そして、言葉が正しかったことが証明された。それは祈り、とも言えない少女の願い事。唯の言葉と言える様なそれは。しかし響くと同時に、音を立てて変化が訪れる。湖から水が引いて行くのだ。

 

暫くの後に全ての水が失せ、現れたのは無数のD.O.Eを閉じ込めた琥珀と世界樹の根の下の更に其処へと続く石階段。

 

きっと、降りた先にこそあるのだろう。彼女の語った場所。第七の迷宮、火焔郷ムスペルが。

 

しかし、彼女の語った事が全て事実かは分からない。語っていた様に火焔郷ムスペルへの入り口は其処に在る。だが、ムスペルが本当に存在するのか、ムスペルを打倒すれば本当にD.O.Eは消え失せるのか。分からない。だが、其れは全て、眼前の迷宮を踏破すれば分かる事。そもそも、迷宮を前にして挑まない尚、冒険者ならば在り得ない。

 

「取り敢えず、冒険の準備をするかね」

 

楽し気に口にしたのはローウェン。驚いた様に、サラ教授が彼を見る。それに彼は笑みを返すのみ。まるで、任せろと言わんばかりに。其れを見て、マガンは頷き。

 

 

 

ミッションが出された、第七迷宮火焔郷ムスペル踏破せよと。

 

 

 

帰還した二人を迎えた残っていたコバックとハインリヒが見たのは、とんでもなく機嫌の良いローウェンと何かを堪える様に唇を噛むレフィーヤだった。一体、如何したのかと驚き、問い掛けようとしてローウェンに止められる。大した事では無いと、其れよりも話があると。そう言って、レフィーヤに先に部屋に戻っておけと促した。それに従って彼女は急ぎ足で部屋へと向かい駆けこんだ。

 

そして、ずっと、ずっと思っていた事を叩き付ける様に吐き出した。

 

「口寄せって何なのそれぇッ?!」

 

敷かれた布団を叩きながらそう言った。ムスペルだの、第七迷宮だの、色々とあるのだが彼女からすればまずそれだった。

 

え、死んだ人の魂を乗り移らせて語らせるって何?怖いんだけど、そんな事を当たり前のように受け入れてるけど有名なの、誰でも出来る技術なの?巫術とか言ってたからそうなんだろうなぁ、なんて。いや無いわ、色んな意味で無いわと首を振って否定したくなるレフィーヤだが、そう言うものもあるのかへぇ、と言った感じに納得してしまっている自分が居る事に愕然とするしかない。

 

アスラーガ、いやこの世界は間違いなく魔境だ。オラリオなど比べるまでも無くだ。そしてオラリオと同じ世界で在って欲しくないと切に願うレフィーヤだった。

 

ふぅっ、と一通り言いようの無い感情を布団に叩き込んでから一息つくレフィーヤ。そして湧き上がってくるのは、喜びによる興奮だ。

 

多分、いや絶対にミッションを受けるのは、自分達だと確信しているから。自分はこれから準備を済ませて挑むのだ。第七迷宮へと、其処に居るだろう神話に語られる様な存在へと。

 

そんな所に挑むと言うのにワクワクしているレフィーヤはもう、如何しようも無い。彼の言っていた通り生粋の冒険者だ。

 

心情を表す様に布団の上で足をばたつかせる。若しかしたら今夜は眠れないかも知れない。まぁ、夜になれば疲れからぐっすりだろうが。

 

「おぉ、暴れてるなお前」

「あ、ローウェンさん」

 

声に顔を上げて、部屋に訪れたローウェンを見る。何の様なのかと、いや問うまでも無いか。絶対に第七迷宮の話だ。

 

「それで、如何する事に成りましたか?」

「取り敢えず、挑むのは余裕が在れば一週間後、そうで無ければ三日後だな」

「あ、明日じゃ無いんですね」

「今、自分がどれだけ馬鹿みたいな事言ってるかは」

「分かった上で言ってます」

「ならよし、吊るすのは止めておいてやろう」

「ははー、有り難き幸せ」

 

平伏す様に頭を下げてから。ならと呟いた。

 

「今日はゆっくりたっぷり眠るとしますね」

「眠れそうにないのにか?」

「何でそう思いますか?」

「俺がそうだから」

「貴方と比べられる私って」

「じゃあ違うのか?」

「大正解です」

「そりゃあ良かった」

 

言って、笑う。そんなおふざけをしてから、しっかり休めよと言って部屋を出て行こうとして、足を止めるローウェン。まだ、何か在るのだろうかと首を傾げて。

 

「分かると言いな」

 

そう告げて部屋を出た彼を見送る。言葉の意味は、そう言う事だろう。何故、何故と多く在るレフィーヤの謎。鍵を握っているだろうと思っていた世界樹。その下、封印されしかし底より現れようとしているムスペル。そうか、若しかしたら、ムスペルが関わって居るのかも知れない。

 

其処まで考えて、此れ以上の事を考えるのは止めておこうと首を振る。考えても良いが結局は今分からない事に変わりなし、其れなのに考え続ければ気分が落ち込んでしまいそうだから。出来れば、眠る時の気分はいい方が良い。

 

だから、彼女は気分転換にお風呂に向かった。きっと、疲れと余計な考えを綺麗に流してくれて気持ちよく眠れるだろう。

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