世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第五十二話

光陰矢の如し、なんて言葉があるらしいと聞いた事が在る様なそうでも無い様な。ただ、時が過ぎるのは速いと言う意味が在るらしいそれは、その通りだと思うレフィーヤ。

 

世界樹の麓での出来事から、三日。そして余裕と言うものは街に余りない現状。今日が、その日だ。

 

軽く体を動かして調子を確かめる。痛みを感じる様な場所は無く、また疲れも感じない。一応はと荷物の中身を確認する。入っている物の種類と位置、どれも良し。問題なし、詰り万全だ。チラリとローウェンを見る。彼も又、荷物を背負い直しているところだ。そう言えばあれだけの荷物を背負って重くないのだろうか思うレフィーヤ、まぁ何でも無いかのように動き回っているのだから大丈夫なのだろう。取りあえずいうべき事は。

 

「ローウェンさん」

「問題は?」

「ありません」

「そうか、コバック?」

「大丈夫よ」

「ハインリヒ?」

「同じく」

「ならよし」

 

言葉に頷くながら彼は見る。世界樹の根の下へと続く石階段を。

 

「じゃあ」

「はい」

「そうね」

「うん」

 

「行きますか」

 

彼等、ギルドフロンティアは第七迷宮火焔郷ムスペルへと挑む。

 

 

 

 

彼等の挑む第七迷宮、そこがどの様な場所なのか。其れを一言で表すならば。

 

「……暑い」

 

そんなコバックの呟き通りだろう。そう、火焔と言う言葉の通り、とても暑いのだ。其れこそ歩いているだけで肌が焼けそうになる程。印術を使ってある程度緩和しているレフィーヤでさえ汗が止まらず、肌を露出している場所がひりひりとした痛みを感じている。それでも、鎧姿のコバックに比べれば遥かにましだろうが。

 

「おっと」

 

レフィーヤの目の前で軽やかに横に動くローウェン。直後、其れまで居た場所から紅い何かが噴き出す。飛び散る其れを避けながら、またかと視線を向ける。噴出した其れは、溶岩だった。考えるまでも無く、触れたらそれまでな熱を持つだろうそれが恐ろしい事にそこら中から噴き出し、他の迷宮なら水が溜まって居るだろう場所を流れているのだ。

 

断言しよう、レフィーヤが知っている中で一番殺意が高い迷宮だと。オラリオの迷宮に関しては、其処まで分かっている訳では無いので除外。もしかしたら知らないだけでとんでもない場所があるかも知れないし。

 

そんな事を考えながら、現れた獅子に氷槍を放ち、顔を顰める。

 

いや別に、効かない訳では無いのだ。寧ろ、この迷宮に現れるモンスターの大半によく効いていると言える。問題は、威力が低く成ってしまっている事だ。何故、いや考えれば分かる事だ。氷槍が溶けてしまうのだ、モンスターに直撃する前に。迷宮の暑さに因って。お陰で、ある程度近づかなければならない。危険が倍増してしまうとしても、そうしなければ碌に戦えない。いや、雷撃を放つと言う選択肢もあるのだが。やはり、氷槍に比べるといまいち通りが悪い。尚、火球に関しては語るに及ばずと言った所だ。

 

他にも単純にモンスターが他の迷宮と比べて強いと言う事と。後は、そうかなり眩しい。

 

「目が痛い。命中率下がりそう」

 

そう言いながら襲い来る蜂の羽根を二発の弾丸で撃ち抜き、堪える事無く落ちていく蜂の頭部を撃ち抜くローウェン。命中率が下がるって冗談っで言ってるのだろうか?けれど、言ってる事に間違いはない。其処彼処に流れ噴出している溶岩が熱いだけでなく、目に痛みが走る程の光を放っている。直視し続けたら視力が落ちてしまいそうだ。お陰で深い所まで潜っているのに暗さを其処まで・・・いや、暗い所と明るい所との差が激しすぎて更に見辛く成っているだけか。

 

「……」

 

急に、ローウェンが立ち止まる。別に通れないと言う訳でもないのにだ。如何したのかと見れば、顔を顰めている。

 

「なぁ、ハインリヒ」

「ん?」

「今居るの二十階だよな?」

「うん、数え間違いで無ければだけど。サクサク進めてるね」

「だよな」

 

同意する様に頷く彼の表情は、しかし変わらない。なにか、気に成る事でも在るのだろうか。と、懐に手を入れ何かを取り出すローウェン。それは、D.O.Eレーダーだった。其れを見て、更に顔を険しいものへと。其れを見てと言う事は。

 

「D.O.Eが近くに来てるんですか?」

「いや、全然」

 

ズッコケそうになった。ならなんでそんな表情を浮かべているんだ。そう思うと、溜息一つ付いてD.O.Eレーダーをレフィーヤへ向かって投げた。少し驚きながらも飛んできたそれを受け取って、見てみると。

 

「……ん?」

 

首を傾げた。レーダーに灯る色が無かったのだ。赤色でも黄色でも青色でも無く、無色。其れが表している事は詰り。

 

「D.O.Eが居ない?」

「近くに居ないだけなのか、それともこの迷宮に居ないのかは分からんがな」

 

それは、おかしいのではないだろうか。いや、しかし。

 

「偶々…ですかね?」

「鎮守の民の言ってる事が正しいと仮定したとして、D.O.Eを生み出した存在が居るのに偶々…ねぇ」

「普通、無いわね」

 

なら、何故。何故D.O.Eが居ない。或は、レーダーに反応しない様な個体が居るのか。可能性としては在り得る寧ろ、いないと考えるよりもその方が良いだろう。

 

だから、彼等は油断する事無く降りていく。

 

 

下へ。

 

下へ。

 

下へ。

 

 

そして、遂にモンスターの姿も…消えた。

 

残るのは、其処に居る事すら苦痛な程のモンスターすら耐えられぬ熱と漂う憎悪。

 

「如何思う?」

「そう、ですね」

 

呼吸をする。熱を印術で緩和しながらしかし、肺が焼かれる様な苦痛を感じながらも。それでも言葉にする

 

「居ると思います」

「だよな」

 

彼等の眼前には階段。其処から余りに重く深い憎しみが感じられる。其れこそ、一瞬とは言え暑さを忘れ去る程に。

 

「何故D.O.Eが居なかったのかは分からんが、取り敢えずこの下には確かに居ると分かった訳だが」

 

言って、彼は三人を見る。この先に待つ其れを思い浮かべながら。しかしその視線は、本当に行くのかと問い掛けている様で。けれどあぁ、其れを彼が語らず、問い掛けないのは分かり切っているからだ。答えなど、こんな所まで来た時点で分かり切っている。

 

此処まで来て挑まない等、冒険者ならば在り得ない。だから、彼は小さく笑みを浮かべながら呟く様に、しかしはっきりとこう言った。

 

 

さぁ、行くぞ。

 

ギルド・フロンティアは地獄へと足を踏み入れる。

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