声が聞えた気がした。問い掛ける様な声が。
――――――……?
その問い掛けに、自分は迷う事無く胸を張って。
「――――――――――」
答えたその瞬間、意識は浮上する。
目覚めて、視界に入ってきたのは天井。もはや見慣れたそれはかすみ屋のもの。そして居るのはもちろん、レフィーヤが寝泊まりしている部屋だった。
「――――……あぁ」
なんだか、憶えがある。なんだろう、前にも同じような事が在った。そうたしか。
「あ、おはよう」
部屋に入ってくるローウェンを見て、思い出す。最初の時とよく似ていると。思い出して、納得して…思わず笑ってしまう。
「え、何で俺笑われてんだ?」
「あ、いえ別に貴方が何かした訳じゃ無くて。その、なんだが初めての時と比べて私は随分変わったなぁ…なんて思ったら、ふふ。可笑しくって」
「あぁ、確かにな。俺からすれば成長だが。前のお前が見たら嘆き苦しむかもしれないな」
「そうですね。きっと『こんなの私じゃない!!』……なんて叫びますよ」
「そうか?」
「えぇ、自分の事ですから」
率先して吊るされた人間を棒で突く様な自分なんて、凄く嫌だろうから。とても楽しいが、それは今だからだし。
と、其処で漸くある事を思い出した。
「そういえば」
「あぁ、お前が気絶した後の事か」
察した様に、ローウェンは言葉にする。肯定する様に頷いて。教えてほしいと言葉にする。
「そうだな、取り敢えず一番最初に言うべきなのは」
「なんですか」
「蹴りかました後の俺が地面に背中を強打したって事を言って於こう」
「何ですかそれ」
凄く見たかった。
「まぁ、そんな如何でも良い事は言いとして。重要で、本当に訊きたい事はムスペルの事だろう?」
「えぇ、はい」
ローウェンが叩き付けられた話も大変、気に成りはするが。それは置いておこう。
「此処に俺達が居る…って事で結果的に如何為ったのかは分かるだろうが。ムスペルはお前の放った一撃で溶岩の中に崩れ落ちる様に沈んで行ったよ」
「……それ、倒せたんですか?」
「さぁ? その後、溶岩が凄い勢いで吹き出し始めたからな。そうで無くても溶岩の中に沈まれたら確認のしようが無いし」
「そう、ですね」
その通りだ。溶岩の中にまで調べに行ける訳が無い。一瞬だけ、いやローウェンなら行けるのでは? なんと思ったがそんな事は無かった。
「って、ちょっと待って下さい。溶岩が噴出した?」
「そうだぞ」
言って、窓へと近づいて行き、開く。其処からは世界樹が見えて。序でに、黒煙が上がっているのも見えた。
「え、燃えてる?」
「煙が上がってるからな。まぁ、世界樹がそうなのか、それとも周りに在った森がそうなのかは分からんがな」
大した事で無い様に呟く彼に、何とかしないのかと問い掛けると。
「いや、あれは如何しようも無いだろう。水の代わりに溶岩溜まってんだぞ?」
確かに、其れは如何しようも無い。印術である程度緩和できるのでは、何て考えてみたが。その程度、試していない訳が無い。きっと駄目だったのだろう。
「ま、見た感じ世界樹は燃えてないみたいだから取り敢えず大丈夫だろう……しかし何で燃えて無いんだ?」
「そうですね」
「あと、気絶したお前を溶岩から逃げながら担いでたの俺だからな。平伏して感謝しろ」
「ははぁー」
「ふはは、良きに計らえー……此れは、なんか違うな」
なんだろう、何ていうのが正しいのだろう。そんな事を呟きながら考え込むローウェン。まぁ、そんな事はレフィーヤには関係ないの気に成る事を問い掛ける。
「ハインリヒさんとコバックさんは?」
「コバックは寝込んでハインリヒはその治療をしてる所だ」
「え、それって」
「死んでないから気にする程では無い。と言っても、流石に二体のモンスターを同時に抑えてた訳だからな。俺達みたいに避けてって訳じゃ無いからやっぱり、酷いもんではあったな」
それでも、生きてるから大丈夫と彼は言った。それに、レフィーヤは静かに頷いた。傷ついていたとしても、それでも生きていれば、うん、大丈夫だ。前に進める。
「…そう言えば」
何かを思い出した様に、ローウェンは呟いた。
「結局、分からなかったな」
「?……何がですか」
「レフィーヤ関係の事」
「……あぁ、そう言えば。そうですね」
若しかしたら、ムスペルに因って此処に引き込まれたのではと思っていた。実際、よく分からない引き寄せる攻撃してきたし。けれど、それだけだ。倒したけれど、何も変わらず分からないまま。尤も、仮に引き寄せたのがムスペルだったとしても、倒したからと言っても戻れない。なんて、当然な事なのかもしれない。それに。
「まぁ、分からなかったなら別に、それはそれでいいですよ」
「随分とさっぱりしてるな。もう少しこう、悔しがるなりがっかりすると」
「そうですね」
ぱたりと、布団に倒れ込みながら考えて。否定する様に首を振る。
「そう言うのは…ないですね」
「そうか」
「そうですよ。だって」
なんだと、問い掛けてくるローウェンに、楽し気に笑みを浮かべながらレフィーヤは答えた。
「分からないなら、分かるまで冒険すれば良いだけですし」
どうせ。
「貴方ならそうするでしょう?」
逆に、問い掛ける様に言葉にすると。暫しの沈黙、そして……笑い声を響かせた。
「確かに!! あぁ、その通りだ!! 寧ろ、分からなかったからこそ心が躍ると言うものだ!!」
「でしょう?」
「全く、あぁ全く! お前は……度し難いほどの冒険者だな!!」
「なんですか、それ」
「俺も分からん」
笑いすぎたのか、少し噎せて。しかし笑みは浮かべ続ける。
「先に言って於くが、嫌だと言っても付いて行くからな?」
「分かってますよ。一人よりも二人、二人よりも三人四人。多い方が楽しいですし」
「辛いとか難しいでは無く楽しいからときたか。いや、本当にいい理由だ」
言って、息を整える。
「取り敢えず、長い付き合いになりそうだな」
「案外、直ぐにお別れするかも知れませんよ?」
「いや、無いな…とも言えんな。お前は行き成り第一迷宮に飛ばされた訳だし。何が切っ掛けで何処に飛ばされるのかも分からないしな」
「あぁ、そうでした」
「だが、まぁ」
「そうです」
『それはそれで面白い』
声が重なる。やはり同じ事を考えていた。それが可笑しくって、また笑う。
ふと、何か思いついた様にローウェンはレフィーヤを見て問い掛けた。
「なぁ、レフィーヤ」
「何ですか?」
「お前は何で冒険するんだ?」
その言葉に、夢を思い出す。夢の中での声の問い掛けを。
声は問う。何故なのかと問う。
帰れるのに。
帰れたのに。
どうしてと。
どうしてなのかとレフィーヤは考えた。それは仲間が戦っているからでは無い。それは冒険を投げ出さない為では無い。
もっと単純な事だと気が付いて。だから起き上がってから、彼女は胸を張って答えるのだ。
「冒険がしたいからですよ」
琥珀色の世界樹は枝葉を揺らす。其れはまるで救ってくれた彼等に感謝している様であったり。
或は、一人の少女を祝福している様にも見えたそうだ。