ハイ・ラガード公国へと到着したギルド・フロンティア一行。そんな彼らが今居る場所はフロースの宿と呼ばれる冒険者向けの宿屋だ。
「酷過ぎると思うんだけどな」
そんな宿に在る食堂の一角。テーブルを囲む彼等の内の一人、ハインリヒが愚痴の様に呟いた。レフィーヤは如何したのかと首を傾げる。
「いや、私分かりませんよ?みたいな顔してるけど分かってるだろう?もう、分かってますって気付いてほしいみたいに視線が泳いでるからね?」
「じゃあ言います。馬車の荷台にで貴方たちを寝かせたままにしたのはずばりコバックさんが気持ち良さそうに寝ていたからです」
「あらそうなの。ありがとう」
「違うだろう!!」
勢いよくテーブルを叩くハインリヒ。勢いが良すぎて椅子が揺れて倒れそうになっている。子供用の椅子って倒れにくい様に創られてる筈なのになぁ。なんて考えながらシチューを口に運ぶ。
「美味しい」
「それに関しては同意見だけども…っ!!」
話がずれていくと嘆くハインリヒ。しかしそんな事よりも美味しいとレフィーヤが呟いた際に嬉しそうに胸を張った少女がとても気に成る、だって可愛いから。宿の女将の娘だろうか?いるとか何とか言っていた様な気がしたし。
「おーい、君ー。話聞いてくれないかなー?」
「ワタシ、チャント、キイテル」
「…そっか、なら訊くけど。どうして僕の事を馬車に放置したのかな? 苦しんでたよね僕? 唸ってたよね僕?」
「ん?」
「その分かりません見たいな表情を浮かべないでほしいな! 起きてたからね?! がっつり起きて楽しそうに言い訳じみた事を言ってるの見てたからね!!」
「え、そうだったんですか」
起きていた事には気が付かなかったレフィーヤ。目を閉じてたし。てっきり普通に魘されているだけだと思っていたのだ。だから、意外だった。
「起きてたなら普通に逃げればよかったのでは?」
「お前、枕がわりにされた事在るか? 無いだろう? あれな、動けないぞ? 荷台の中が狭いのも相まってな」
「あぁ…成程」
其れで唸っていたのか。助けを求めて。普通に声に出せばよかったのに。その場合でもやってる事は変わらなかったかもしれないけれど。
「でもハインリヒちゃんの抱き心地かなり良かったわよ」
空気が死んだ。他のテーブルに座っていた冒険者と思われる人たちが若干距離を取った様に見える、主に男性が。そして、名を口に出されたハインリヒは笑っていた……泣きながら、笑っていた。
「…なぁ、分かるかレフィーヤ?枕替わりに頭を腹に乗せられてな、苦しい思いしてな。その後何を思ったのか抱き枕にされたんだよ僕は。鎧を着こんだ男にだよ?嫌に成るよ本当に。さっきのだって慰める積りだ言ったのは分かるよ。けどさ、もう…もう僕は駄目だ」
「ちょっと、如何してそんなに嘆いてるのよ」
「うるせぇ吊るすぞくそが」
「何で罵られてるのあたし?」
「コバックさんですし」
「あたしだからってどういう事?!」
何故だと今にも叫びそうなコバックを無視してハインリヒを慰める。今回は、謝らなければいけない事が起こってしまっていたようだ。すべき事はする。これ冒険者の基本。謝罪だって例外では無いのだ。
ただちょっと待っててほしい。何の話をしているのか分かっていないのか首を傾げている女将の娘と思われる少女が可愛すぎて目が離せないので謝罪はもう少し待ってほしい。
「なにやってんだお前等は?」
そんな声に、あっと言いながら見る。
「戻ったぞー」
「お帰りなさいローウェンさん」
「お帰りなさい」
「お帰り」
ただいまー、何て言いながら同じテーブルの開いている場所に座るローウェン。先程まで悩んで居たり嘆いていたり慰めていたのが嘘であるかのように、スッと姿勢を正して食事を再開する。
え?なんて驚いたような声が何処からか聞えたが、この程度で驚くとは練度が足りんなとふっと笑う。
「で、結局何が在ったんだ?」
「コバックが馬鹿だなって話してただけ」
「天然炸裂って感じでした」
「成程、じゃあ後で吊るしとかないとな」
「吊るす事確定なの? まぁ、良いけど」
良いのかよとかまた聞えた気がした。如何やらハイ・ラガードの冒険者は可成り練度が低いらしい。これは今まで世界樹が踏破されていないのも仕方ない事だと思うレフィーヤだった。
いや、アスラーガが魔境だっただけかと直ぐに思い直したけれど。
「それで登録は終わりましたか?」
「さっくり終わらせてきた。ミッションをやれって言われたけど」
「行き成りですね」
なんで冒険者ギルドに登録に行ってそうなるんだとローウェンを見る。其れを受けて、それがなと呟いた。
「なんでも、世界樹の中に在る迷宮を探索するにはハイ・ラガード公国の民でなくちゃいけないそうでな」
「え、何で?」
「知らん。で、その国民に成る為の試験をミッションとして出してるらしい」
「それで、ミッションを請けたと」
「そうなるなー。ま、そんな難しい事じゃ無いけどな迷宮の一階の地図を書いて来いって内容だったし」
思わず立ち上がりそうになった。まじでか、なんて言葉も零れる。地図書ける上にそれで迷宮探索の許可が得られるなんて。レフィーヤのハイ・ラガードへの好感度が爆上がりしている。
最高じゃないかハイ・ラガード公国!!
「まぁ、迷宮に行くのは二日後だけどな」
「えぇー……明日じゃ無くてですか?」
「明日は街を見て周るからな」
「そうですか……今日じゃなくてですか?」
「今日はこの街に来たばかりだから休む。というか今の状況で迷宮になんていったらお前…あれだぞ」
「なんですか?」
「テンション上がり過ぎて許可とか関係なく迷宮攻略をやっちゃうだろうが」
「成程、確かに」
なら仕方が無いと頷く。そうなる事が目に見えている。寧ろ、何故そうなると考えなかったのかと自分自身不思議になる位だ。
お預けかと、少し残念に思いながら。それでもこの街はどんな店があり、どんな物が在り、そしてどんな人が居るのか。楽しみだと、冷めてしまったシチューを口に運びながら思うレフィーヤだった。
「?!……このシチュー、冷めても美味しい!!」
「まじかよ」