風に揺られ擦れ合う枝葉の音。草木の香りがレフィーヤには何とも心地よく。すっと、深く息を吸い込んだ。
彼等が居るのは世界樹の迷宮、其の一階層だ。確か古跡の樹海と呼ばれていた筈だ。ふむと、見渡す。樹海の呼び名に違わぬ木々の密集度。獣道と呼ぶべきものが無ければ迷い込んで其のまま出て来れなく成ってしまいそうだ。
そう思いながらふっと息を吐いた。そして、落ち付いた様子で見る。あぁー……なんて気の抜けた声を出しているローウェン、の、眼前で倒れ伏している鹿を。当然の様に事切れている。
ふと、視線を感じて振り返るレフィーヤ。そこには呆れた様子のハインリヒと辺りを見渡しているコバックが居た。そして、溜息を吐いてからハインリヒは二人に対して言った。
「で、どうだった?」
「あぁ…強かったぞ」
「一階のモンスターとは思えない強さで吃驚はしましたね、この鹿」
「F.O.Eって呼ばれてるらしいぞ、それ。アスラーガでのD.O.Eみたいなものだな。冒険者の間では壁扱いされてるみたいだね」
「あぁ、成程」
「戦ってみた感じあれほど厄介では無いけどな。見た目殆ど同じなのに」
若しくは古代種だったD.O.Eが琥珀に閉じ込められることなく普通に繁殖したのがF.O.Eなのかも。なんてレフィーヤは考えてみたり。
と、そう言えば何で彼は呆れた様子なのだろうか。冒険者の間で壁扱いされているF.O.Eを二人で倒してしまったからだろうか。正直言ってD.O.Eの方が厄介さという点では上だった。状態異常にしなくても攻撃が普通に通るし
しかしと、言いながら見る。そこには先程倒した鹿と同種が数体程、獣道を徘徊しているのが見える。D.O.Eと違ってかなり数が居る様だ。下手に動けば、複数体のF.O.Eを同時に相手にしなければいけない事態に成りかねない。
「必要でないなら避けていった方が良さそうだな」
「ですね」
頷きながら鹿を改めて見る。F.O.E、此れからの冒険できっと幾度と無く立ち塞がるだろう存在。一々戦っていては切りがない。そう思いながら見つめて。
「…解体して鹿肉を女将さんに渡せば料理してくれますかね?」
「考えがゴザルニに似てきたなお前。まぁ、同意だが」
「え、美味しそうだから倒したんじゃないの?」
「コバック…お前、元気に跳ね回る鹿を見て美味しそうって感想出て来るか?」
「美味しそうだったじゃないのよ」
あっそう。そう言う他無い。コバックがどんなことを思い考えているのはローウェン以上に分からないから。違う事を考えようと書いている途中だった地図を見る。が、顔を顰める事に成った。
「如何した?」
何か在ったのかと問い掛けてくるローウェンに、いえっと言葉を置いてから。
「何故か地図に違和感が在るな…って思ったんですか」
「違和感ねぇ」
スッとレフィーヤの手から地図を取り眺めるローウェン。ふむ、なんて呟きながら暫くすると。
「単純に完成してないからじゃないか?」
「完成してない……?」
其れはおかしいと思うレフィーヤ。だって、既にこの階で行ける所は全て行った筈だと。其処で、思い至った。
「あ、あぁ。二階から降り…」成程」
「そう、二階から降りなければ行けない場所が在るのは別に不思議な事では無いからな。お前の感じた違和感は、二階に足を踏み入れてないのにこれで完成って事にしたからじゃないか?……まぁ、違和感を感じるとかちょっとあれだけどな」
あれとは何だと思いながら、返された地図を見る。完成したと思っていたそれは実は未完成。成程、違和感も感じると言うものだ。しかし、オラリオの迷宮も、不思議の迷宮もそれぞれ描き方が違うとは。地図とは本当に奥深いものだ。
だからこそ綺麗に仕上がったならばそれこそ、その瞬間を思い浮かべるだけで身震いしてしまう程だ。達成感とか凄いだろうな、そう思いをはせるレフィーヤは、ふいに上を見上げてそういえばと呟いた。
「この上に在るって話でしたよね」
「ん?…あぁ、あの空に浮かぶ城の事か」
「です」
「いや、在るかどうかは分からないんじゃかな?それを確かめる為にハイ・ラガードは冒険者を集めた訳だし」
「でもランディ教授の書籍には在ると書かれてませんでしたっけ?」
「いや、飽く迄その城に関する伝承と実在しても可笑しくないって書いてあっただけだぞ」
「あぁ、そうでしたね」
「と言うか、実在すると判明してるならここ来てないだろう。ランディ教授の本を頼りにするなら辺境、エトリアか。後はアルカディアだな」
「それもそうですね」
確かに、分かっているならここに来たりはしないかと頷いた。そうだったなら世界樹が在るとしてもここには着ていなかったかもしれない。
「尤も誰もそこに辿り着いたことが無いとかだったら喜んで踏破するけどな!!」
その言葉に頷き強く同意するレフィーヤ。其処に在るのに誰一人として辿り着く事の出来ない空の城。そこに初めて足を踏み入れるなんてそれはもう……最高じゃ無いかと思うレフィーヤ。
と、なにやら唸るコバックが見えた。如何したのかと問い掛けてみれば。
「いえねぇ、空飛んでるなら…如何やって其処に行けば良いのかしら。って思ってたのよ」
少しだけ、沈黙。いや世界樹の頂からそこへ至る道があるとか書いて在った様な言って居た様な、いやそれが本当かどうか確かめる為に冒険者集めてたんだっけー。なんて、思い乍らローウェンを見ると。彼は、静かに頷きながら答えた。
「其の時に成ったら考えよう」
頷くしか……無かった。実際、其れ以外に手は無いし。気球艇? それで如何にかなるならとっくの昔に在るか無いか位は判明してるだろうと。
何とも、微妙な空気に包まれながらも。彼等は街に帰還した。
尚、ミッションはしっかり、そしてあっさり達成したギルド・フロンティアだった。