栗鼠への殺意に目覚めたレフィーヤ。だとしても奪われたアリアドネの糸が返って来る事は無く。夜も近い事から仕方なく街に帰還する、何てことは無くそのまま探索を続ける。だって、アリアドネの糸は複数持っているし、そもそもレフィーヤ以外も持っているのだから。
「アスラーガのかすみ屋で言ってた事ってあれ対策だったんですね」
そう、思い出しながら呟いた。確かに、あんな事が起こり得るなら複数持っていなければならないだろう。嵩張ってしまうから一つで良いなんて考えてたのが間違いだったと。
ふっと、息を吐きながら空を見る。星空の広がる空を。
「……あれ、此処って世界樹の中ですよね?」
「いや知らん。ここが世界樹の中に在る空洞なのかそうじゃ無いのかはまるで分からん」
「そうですか。不思議具合ではそう変わりありませんね。アスラーガの世界樹と」
「寧ろ不思議じゃない世界樹とか逆に気に成るんだが?」
確かにと頷く。不思議でない、何の謎も無い世界樹とは何なのだろうか。考えれば考える程わからなくなる。
「あるかどうか分からない事はあまり考えない方が良いんじゃないかな?」
「其の分からん事に挑んでる冒険者の言葉とは思えんなハインリヒ」
「なら訂正しよう。答え合わせが出来そうに無い事は考えない方が良いんじゃないかな?」
「んー…其れなら問題ないのか?」
言いながら視線を向けてくるローウェン。正直、困る。知らんと言いたい。ので、敢えて何も言わずに視線をコバックに向けてみる。サンドイッチを食べているコバックに。
「あら?如何したのレフィーヤちゃん、若しかしてこれ食べたいの?カレーのサンドイッチ」
「いえ、そういうわカレー?!」
「貴女が今朝食べてるの見て食べたくなっちゃってね、お弁当にして貰ったのよ。それにしても凄い反応ね。そんなにカレー好きなの?」
そうじゃ無いと思いながらもはいと渡されたそれを見る。カレーがパンに挟まれたそれを。その・・・所々からカレーが零れていてとても手がべたつく。
「これ…え、これハンナさんに頼んだんですか?」
「そうよ」
「なにかこう…言われませんでしたか?」
「あぁー…そう言えば本当に良いのかって何度も訊かれたわね」
なんでだったのかしらと呟く彼に、レフィーヤは笑顔を浮かべてこう言った。
「不思議ですね」
そう、言うしか無かった。そして渡された其れを……普通に返した。
「世界樹よりもコバックさんが分からない」
「否定はできん」
言いながら頷くローウェン。彼にも何故パンでカレーを挟んだ其れを、弁当として持って来てしまったのか分からないらしい。と言うか、なんで今食べてたのだろうか。そう思って訊いたら。
「昼よりも夜の方が美味しいじゃない」
「あ、そうですか」
レフィーヤは、考えるのを止めた。
「…あぁ。しかしあれだね」
切り替える様にハインリヒが呟く。
「やはりと言うか、アスラーガの付近の迷宮と比べると随分と違うね」
「だな。まぁ、何方かと言えばあそこの迷宮は可笑しいんだけどな」
「上り下りするだけで形変わってましたもんね」
「あれに比べればまだ探索しやすいな。流石に広さと言う意味ではこっちの方が上だが」
確かにと頷いた。二階を探索している間に日が傾いてしまう程度には広い。と言っても、他の二日ほどかけてF.O.Eを避けながら進んでいる冒険者に比べればかなり順調に進んでいるのだが。
探索に時間が掛かると、如何したって無理が出る。道具の消耗とか。そう言った理由で。
そう言えばローウェンはまだ大丈夫なのだろうかと見ると。察したのかクルリと銃を回して見せた。まだ大丈夫なのだろう。
「ま、何時間でも探索し続けるのは無理だから気を見て戻るかね」
言いながら歩いて行く彼に。そうですねと同意しながら付いて行く。無理はするものでは無いしと。しかし。
「コバックさん何時まで、と言うかどれだけ持ってるんですかそのサンドイッチ」
「それで三つ目だよな?」
「四つよ」
「そっか……え、四つ?」
「そう、貴方達も食べるかと思って」
「…次からは食べるかどうか訊いてからにしてくれ」
「分かったわ」
なんて会話をしていると、視界に映るものが在る。何だろうかと目を凝らすと。それは、人だった。
「冒険者でしょうか?」
「いや、結構な頻度で国の衛視が迷宮に入ってるって話だから其れの可能性も在るぞ?」
「他にも賊とかも在り得るね」
「え、入るんですか賊」
「居るぞ、モンスターを利用して冒険者から道具やら武具やらを奪い取ろうとする奴が」
「えぇ」
本当なのかと疑問に思い、いや在り得ない事ではないと思い直す。オラリオの迷宮でも、同じ様な存在がいる事を思い出したからだ。
さてと、人影を改めて見る。それがどんな人物なのか。危険な者で在ったとしても対応できるようにと警戒しながら近づき。
「ん? あぁ、冒険者か。こんな夜遅くまで探索とは。頑張る物だな」
見覚えのある鎧。人影は国の衛視であった。と言っても警戒は続けるのだが。若しかしたら身に付けている鎧は奪ったモノかも知れないからだ。だからと言って即座に敵対するような事はせずに、ローウェンは気軽気に会話する。
「頑張る、と言う程じゃ無いけれどな。この程度なら問題ないと判断して進んでいる訳だし」
「そうか。まぁ無理をしていないなら問題ない。幾ら、先日キマイラが討伐されたからと言って…いや、だからこそモンスターが活発に動き回っているからな。十分、気を付けた方が良い」
「其の忠告、ありがた……なんて?」
「?気を付ける様に」
「そうじゃ無く、え?キマイラって、第一階層の主の?え、倒されたの?」
「あぁ、その事か。そうだ、確か…ミズガルズの調査隊と、ベオウルフだったな。その二つのギルドに因って討伐されたんだよ。えぇっと、確か三日ほど前だったか」
「まじかぁー」
驚愕の事実が発覚。第一階層の主、討伐済み。