「いやまぁ、可能性としては十分あり得る事だけどさぁ。寧ろ起こらない方が可笑しいのは分かってんだけどさぁ」
言って深い溜息を吐くローウェン。目に見えて落ち込んでいる。
「でもそういうのは俺がやりたかったなぁ」
「達、とは言わないんですね」
「俺はそうだとしてもお前達がそうとは限らんしな」
「そうですね。まぁ、悔しいは悔しいですけど」
キマイラと呼ばれる第一階層の主。それが打ち倒されたのは三日前だと衛視は言った。色々と訊いて周った際には丁度まだ知られていなかったのだろう。だから知り得なかった。
知ってたとしてもやる事が変わる訳では無いが。
「恨んだりは…流石にしないですよね」
「当たり前だろう。所詮、早い者勝ちだし。恨むなら遅かった自分を恨むよ。まぁ八つ当たりはするけど」
「八つ当たりはするんですね」
というかと、呟きながら前を見る。其処にはF.O.E、駆け寄る襲撃者二体とその色違いのモンスター。確か残酷なる蹂躙者と呼ばれているものが。
綺麗に横一列に並んだ状態で落とし穴にはまっていた。
「さっきから這い出ようとする度に叩き落としてるのって八つ当たりですか?」
「そうだ。只々、弾を消費するだけの極めて無駄な行為だ」
「ならやめましょうよ」
「じゃあ止め頼む」
「はーい」
よいしょという掛け声と共に生み出すのは三つの氷槍。其れを、落とし穴から出ようとしている三匹の上から落とす。
響き渡る表現の出来ない生々しい音と断末魔。思った以上の惨状に、固まるレフィーヤ。
「いやぁ、楽でいいですね」
なんて事になる少女はもう居ない。其処に居るのは平然と楽できたことを喜ぶ冒険者だけだ。落とし穴の中がとんでもない事に成っているが一切気にしない。
「終わったかなー?」
「おぉー、終わったぞー」
「じゃあどうする。進む?それとも帰る?」
問い掛けに、ローウェンは気の抜けた様な声を零しながら鞄を探る。どれだけ弾が残っているのかを確認しているのだろう。
「弾的には問題ないな。体力もまだ大丈夫。で、お前達は如何だ?」
「僕は問題ないよ」
「私も大丈夫です」
定期的に挟んだ休憩時に睡眠をとっていたし、と思いながら告げる。そうかと呟くローウェンは視線をコバックに向ける。
「で、コバックは……何やってんだ?」
「え?……ちょっとした運動だけど」
「なんで今運動してんだよとか思うが、其れはいい。其れは良いんだが…お前の持ってるのは何だ?」
「何って、見れば分かるでしょう?」
言いながら、スッとぐるぐると回していた其れを見せる。それは、何処から如何見ても。
ボールアニマルだった。
「…何処からそれ捕まえてきたんだよ」
「うろうろしてたのよ。丁度良さげだったから捕まえたの」
「そうか」
「もう良くって言うなら放すわね」
「ちょっと待って下さい」
ボールアニマルを地面に降ろそうとするコバックを止めるレフィーヤ。如何したのかと視線が集まるが意に介さず告げる。
「渡してもらっていいですか?」
「え、良いけど。レフィーヤちゃんも運動したいの?」
「そうですね。走りながら激しく地面に叩き付ける様にすれば気持ちのいい汗が流せそうですね」
「其れは確かに気持ち良さそうね。ボールアニマルでする必要は無いけれど」
「貴方が言いますか、それを。でも、えぇ気分は最高でしょうね。えぇ、本当に」
「あれ、放置しても良いの?」
「さっきまで八つ当たりしてた俺に何と言えと?」
其れもそうかと呟きながらハインリヒはレフィーヤを見る。ボールアニマルを受け取った彼女は、其れはもう良い笑顔を浮かべている少女を。そして、ちょっと休憩時間が伸びたそうだ。
「スッキリした……!」
「じゃあ先に進むって事で良いのか?」
「あ、はい。大丈夫です」
言いながら先に進もうとしているローウェンの元へ駆け寄る。因みに、ボールアニマルはきっちり仕留められたそうだ。可哀想とは言ってはいけない。
今、敵対してなくても後々どうなるのか分からないからだ。そこの所、一切容赦ない冒険者達だった。まぁ、報復として襲い掛かってきたら容赦なく灰になってもらうのだが。
「次やるときはもう少し時間を掛けないようにな」
「それは、すみません」
「まぁ、其処まで気にしてないけどな」
だろうと、コバックとハインリヒに問い掛ける様に口にする。
「そうだね」
「……」
「コバック?」
「んぁ?!え……あぁ、何かしら?」
「お前寝てたな?」
「え、あ、え。そう、ね」
「そうか……寝るならちゃんと言ってからにしてくれ。困るから」
「…はい」
縮こまるコバック。またお前はと言いたげな視線に、申し訳なく思っているのだろう。
「じゃあ行くぞー」
「はーい」
「りょうかーい」
「しゅっぱーつ」
しかし、さらりと切り替えられるのがちょっとあれな冒険者達。先程まで休んでいたにしてもちょっと元気ぎないかと一般冒険者に言われそうな程だ。
尤も、本当に疲れていないのかと言えばそう言う訳でも無いが、不思議の迷宮の様に時間の経過がよく分からず。街に帰って初めて一週間近くたっていた事に気が付く。みたいな感覚がおかしく成る様なことが無いだけかなり楽だと。詰り。
夜だって分かるの、良いね!! って事だ。
そんな迷宮探索にたいして色々と麻痺してしまっている事を思いながら、彼等は意気揚々と四階へと向かう。