「そんな訳で」
言葉を置き、お茶で口を潤しながら続ける。
「そのままノリと勢いに身を任せて第一階層を突破した訳です」
「うーん。色々と可笑しいね」
なんて、言われたレフィーヤ。迷宮探索から帰ってきた翌日。彼女が居るのは公国西区にある錬金術師互助組合の一室。そこで冒険の話をしていた。のんびりとお茶を飲みお菓子を口にしながら。
「可笑しいですかね?」
「可笑しい、取りあえず第一階層はそんなに簡単に突破できる場所じゃ無いよねあそこは」
「でも、出てくるモンスターに関して可成り情報が集まってましたし。あと、馬鹿でしたし」
「いや、馬鹿だとしても強いよね」
「そこは、強いけど馬鹿って言うのが合ってると思いますよクロさん」
いや、其れでも可笑しいだろうと呟くクロと呼ばれた男性。彼はアルケミストと呼ばれる戦闘時にはルーンマスターと似通った役割を持つ職業についており。今居る施設に専用の部屋が用意されている。因みに迷宮探索よりもどうすればより術式が使いやすくなるか、色々と思考錯誤する方が主だった迷宮に向かう理由、だそうだ。
「あと、四階と五階の話はどうしてしないんだ?」
「やってる事変わらないからですよ。こっちに襲い掛かって来る奴は喜んで叩き潰してそうで無いなら無視したり偶にコバックさんが捕まえてきたり」
「君の仲間は、と言うかそのコバックと言う人物はよく分からないな」
「コバックさんに関しては私もよく分からないんですよね。蝙蝠捕まえようとしてましたしね」
「そんな事までしようと…蝙蝠? 私の記憶に間違いが無ければ第一階層に居る蝙蝠はF.O.Eなのでは?」
「あぁ、そう言えば嗅ぎまわる大飛鼠とか呼ばれてるみたいですねあれ。改めて考えると確かに鼠っぽいですよね、あれ」
「それに関しては分からなくも無いが。え、捕まえたの?」
「ようとした、ですよ。詰り捕まえられなかったんですよ」
「そうか。戦いには?」
「なりませんでしたよ」
言って思い出す、あの光景を。
「そりゃまぁ、幾らF.O.Eと呼ばれる存在でも行き成り鎧姿の男性に飛び乗られそうに成ったら逃げますよねって話です」
「……なんでそんな事をしたんだか」
「曰く、あんなに大きければ乗っかっても大丈夫なのか気に成ったからだそうですよ」
まさか、確かに乗れそうだなと呟いたローウェンもそんな事をするとは思っていなかっただろう。さらに後に訊いてみたら、其れで飛べたのなら空飛ぶ城にも問題なく行けるかもしれないと思ったからだそうだ。
「まぁ、でも全滅しかねない事態は引き起こしてませんからね。今の所は」
「いや、F.O.Eに飛び乗ろうとするのは十分全滅の危機だと思うのだが?」
「えぇ、そうですね。だから今日はコバックさんを吊るしてるんですよ」
「そうか、本当に吊るすのか」
言いながらドン引きした様子のクロ。いやしかしだ。
「言って於きますけど貴方も大概ですよね?」
「何故だ。私は普通のアルケミストだろう」
「普通のアルケミストは迷宮を焼き払いそうに成ったりはしないですよね」
「それは…あれだ。思ったより火力が出たと言うか。詰り、望んでそれをした訳では」
「燃え盛る炎を見ながら狂喜乱舞してたそうじゃ無いですか」
「何故知っている!?」
「何故って」
消火目的で踏み入った衛視が見付けたからだけど。そして逃がそうとしたら暴れ、取り押さえようとしたら術をぶっ放したからでしょうと。そんな事をすれば話も広がるだろうと。
「むぅ、次は気を付けなければ」
「次って、何かやらかす積りですか?」
「やらかす積りは無い!!が、結果的にそうなるかも知れないと言うだけの事だ」
レフィーヤは思う。あ、これはやらかすなと。
「やらないって選択肢は無いんですか?」
「ない」
「はっきり言いますね」
どうしてなのかと問えば。だってと言って。
「新しい知識を得られたのだ。色々と試さない方が可笑しいだろう?」
「あぁ……成程」
詰り技術提供してしまった自分の所為かとレフィーヤは、ほんの少しだけ申し訳なく思う。まぁ、一方的にアルケミストの技術と知識を教えて貰うのは失礼だったから、仕方ないよね。
「しかし、便利そうですよね」
「む?何がだ」
「あの圧縮……なんでしたっけ?」
「圧縮錬金術の事かね」
「そう、それです」
大規模の術を圧縮し、凡そ一匹分の範囲まで狭まるがその分威力を上げると言う技術。範囲が狭まるのはデメリットだとか言っていたが。仲間への誤射してしまう可能性が低くなるのだからメリットしか無いだろうとレフィーヤは思う。
「私からすれば専用の器具が無くても使う事の出来る印術も素晴らしいと思うけれどな」
「あぁ、そう言えばなんか必要だって言ってましたね」
「これだな」
言いながら取り出したのは、厳つい手の形をした道具。
「此れが無ければ碌に制御が出来ないんだよ」
「使えないって訳じゃ無いんですね」
「小型化したものを持っているからな。と言っても、威力はお察し程度しかだせないが」
「成程」
「だからと言って印術の方が優れているのか…なんて、不毛な話はしないけれどな」
「一長一短って感じですからね」
「そうだね」
何方も優れてている部分があり、劣っている部分がある。そんな当然の話。尤も、劣っている部分を埋めることが出来るのが技術なのだが。
と、其の時レフィーヤがそういえばと言葉を漏らした
「如何かしたかね?」
「あぁ、いえ。大した事じゃ無いんですよ」
「そうか……逆に気に成るな」
「と言われましても、なんでここの迷宮に居るモンスターは馬鹿ばかりなんだろうなぁ、って」
「え、いや其処まででは無いと思うが」
「いえいえ、十分すぎる程馬鹿ですって。同じ事しかしませんし、全然学習しませんし」
まるで。
「それしか出来ない様に作られたみたいですよ、本当に」
まぁ、流石に無いかと。少女は笑いながらお茶を口にする。