風が頬を撫でる様に吹き、纏めた髪を揺らす。少しだけ、譲られた杖を持つ手が震える。それは緊張からか、それとも。
「さてと。じゃ、行こうかね」
何気無く、そして自然体で在るローウェンが銃と呼んだ武器を軽く手で持ちながらそう言い。
「――――――――はいッ!!」
レフィーヤは強く答えた。
二人が今居るのは場所、其処は迷宮。不思議の迷宮。
少し戻ろう。
それはレフィーヤがホロンと名乗るルーンマスターから基礎を教えられ、そしてそれが終わった処まで。意外な事に、其れは始まってから凡そ一時間程でしかなかった。 余りに短いと言える、だが、試しにとレフィーヤが教えられたとおりにして見れば、ちゃんと行う事ができたのだ。これには、少々の戸惑いを彼女は見せた。余りに簡単すぎたからだ。その様子を見て、ホロンは笑みを浮かべ。
「君のような反応は良く見る。驚く程、あっさり終わってしまったとね。まぁ、仕方の無い事だ。印術は…いや、印術に限らず其れに近しい職業はとても難しく、習得に時間が掛かると思われている」
だが、そう否定する様に口にする。
「難しい様に見えても、やはり技術でしかない。使われなければ意味が無いからな。覚えやすい様に、使いやすい様に調整されているんだよ。だからまぁ、発動するだけならば必要な物を用意すれば使えてしまう」
使いこなせるかどうかは別だが。そう呟く様に口にする。何と無く、彼女にも分かる様な気がした。変わらないのだ本当に。他の、武器と呼ばれる物と。剣を振るうだけならば、剣を持っていれば出来るのと同じ。そして、此れも重要なのも変わらないのだろう。
詰り、経験だ。
「うむ、如何やら分かっている様だ。そう、使える事と使いこなす事はまるで違う。しかし使いこなすために必要な経験、練度と呼ばれる類の物は…私が教えられるモノでは無い。人にはそれぞれ癖が有るからな。私に適している事が君に適しているとは限らない。尤も、それでも参考にする程度なら構わんだろうが…それはある程度経験を積んでからの方が良いだろう」
と言う訳でと、ホロンはレフィーヤを見ながら。
「迷宮攻略をして見るのが一番だろう」
「行き成り難易度高すぎませんか?」
基礎を教わって直ぐなのですが?
余りに無茶ぶりとしか思えない様な言葉に、レフィーヤは思わず口を出してしまう、だが。ホロンは可笑し気に笑った。
「いや、まさかだが未知の、誰も攻略した事の無い様な迷宮に挑めと言う訳では無い。簡単で、油断しなければ傷無く攻略できる所があるのだよ。其れこそ、訓練場として使われる位にね」
「あ、成程」
「だが、それでも迷宮は迷宮、油断すれば傷つくし。命とて落しかねない。そのような場所である事に変わりない。まぁ、だからこそ、訓練に成ると言えなくも無いのだが」
死にかねない場所を訓練場替わりに使っているのかと、其れは大丈夫なのかと思うレフィーヤ。だがまぁ、そんな物かと、一人納得した。言ってしまえば、その程度で立ち止まる様なら、冒険者などやっていけないのだろうから。
「と言う訳で…嗚呼、そうだ。短き間とは言え師であった私から提案なのだが」
「なんでしょう?」
「迷宮の攻略は彼と、ローウェンと共に行ってみてはどうだろう?」
なんで? そう疑問に思う。
いや、別に嫌と言う訳では無い。無いのだが、何故勧めてきたのかがレフィーヤには分からなかった。
「まぁ、理由としては彼がとても上手いからだよ。ルーンマスターは基本的に距離を取って戦う。ガンナーもまた同じ。そして、単純な立ち回り等と言った戦闘技術に関しては、彼から学び取るのが一番だと私が思ったからだ。尤も、如何するのかは君達が決める事だが。では、私は行くとしよう。縁が有ればまた会おう」
そう言って、去って行く。その後ろ姿を見送りながら考える。ホロンの提案だが、如何するかと。いや、先の通り、別に自身は嫌と言う訳ではない。無いのだが、如何なのだろうと考えてしまう。まぁ、一人で考えていても仕方が無いかと、軽く首を振りながら。取り敢えず、聞いて見るだけ聞いて見る事にして。
「迷宮に行きたいのですが、一緒に行きませんか?」
「最初から其の積り!!」
いい笑顔でサムズアップしていた。
そして、迷宮へと至る。
迷宮を進む二人は、しかしのんびりした様子だった。最初は肩に力が入っていたレフィーヤだったが、今は寧ろぬけすぎて疑惑の視線をローウェンに向けていた。
ここは本当に迷宮なのかと。それを受けて、やはり楽しそうに笑った。
「迷宮と言っても訓練場替わり。まぁ、モンスターが出るから危険だが、そんな囲まれる程湧いて出る様な場所じゃ無いんだよ」
「そう……ですか。そう言えば、そんな様な事をホロンさんも言ってました」
「まぁ、更に言えば初心者が対処できない様な量が湧かないように間引きもしてるんだけどなー」
そんな事をしているのかと思ったが、其の位はして当然かと思い直す。幾ら危険とは言え訓練場。命を落としかねない程度なら未だしも確実に死ぬような場所では使えないだろうから。
そう考えている時だ。
『――――――ギィ!!』
声、というよりは音が聞えた。聞いた事が在る音とは少し違う。だが、それでも分かった。モンスターが現れたのだと。
音の聞こえた方を向く。現れたのは、大きな飛蝗のようなモノ。此処に来るまでの間に聞いた出現するモンスター。覚え間違いが無ければ、グラスイーターと呼ばれる其れだ。
身構えるレフィーヤに、抑える様にローウェンは手を軽く振る。自分がやると、そういう意味なのだろう。彼女は、緊張を残しながら少しだけ下がり。
その直後、グラスイーターはローウェンに飛び掛かる様に向かったのだ!!
それは、レフィーヤが思っていたよりも早く驚く。そしてローウェンはと言えば、何でも無いかのように脱力した儘、スッと横に避ける。グラスイーターは、先程までローウェンが立っていた場所に着地する。
そして、そして。
ゆるりと、ローウェンは銃を構え。再び、飛び掛かる為に向きを変えたグラスイーターに向かって。
銃で殴り掛かった。
「えぇぇええええええええええッ!?!??」
直撃して吹き飛ぶグラスイーター。少しの間痙攣する様に震え動かなくなるのを見てレフィーヤは叫びながら思う。聞いていたのと違うと。