世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第七十六話

雪を踏み締める。降り積もったそれに足跡を残しながら、何気なく辺りを見渡す。今、ギルド・フロンティア一行が居るのは第三階層六花氷樹海。寂しさを感じる程に生き物たちの気配の希薄なそこは。それでも、美しいと言えるだろう階層である事に変わりない。が、其れを見てレフィーヤはなんとも微妙な表情を浮かべていた。

 

「雪…嫌な事を思い出しますね」

「氷晶ヶ岳での事?まぁ、確かに嫌な思い出なのは確かだろうね。君、死に掛けたからね」

「それだけじゃ無くて迷惑も掛けてしまいましたからね私。今度はそんな事の無い様にしないと」

 

そう、自らに誓う様に呟いてから。それでとハインリヒに問い掛ける。

 

「なんでローウェンさんもあんな微妙な表情を浮かべているんですか?」

「ほら、レフィーヤが貰って来た素材。あれを売った際の資金でこうやってまた問題なく冒険で来ている訳だけど」

「もしかしてライシュッツさんからの施しだから嫌だみたいな…そう言うやつですか?」

「らしい、お金に罪は無いって言ってたけどね」

「罪…罪って」

 

それにしても、そんなに嫌だったのかとレフィーヤは思わずローウェンを見る。警戒しているコバックの横で同じ様にみえて、しかし特に警戒している様子で無い彼を。すると、視線を向けられている事に気が付いた彼は振り返り、如何したのかと言葉にした。

 

「何かあったか?」

「いえ、そう言う訳ではありませんが…そんなに嫌ですか?」

「何が…と、訊くまでも無いか。爺さんから、お前が受け取った素材の事だろう?」

「はい」

「嫌って訳じゃ無い。大変良い値段で売れたし、その金を使って良いと言ったお前には感謝しかない。そして金に罪は無い」

「だから罪って」

「だが、なんかな。あの爺さんから受け取ったって言うのがな。どうも嫌な事を思い出してな」

「嫌な事?」

「昔、金欠で悩んでいた時にな。地面に金をぶちまけて這いつくばりながら拾うなら其れをくれてやる、何て言われてなー……自分が金を持ってるからってふざけた事言いやがって。やべぇ、思い出したら頭蓋に弾丸ぶち込みたくなってきた」

 

殺気を滲ませるローウェン。そんな事をしていたのかとライシュッツに対してやはりキチガイなのかと改めて認識したレフィーヤは、さてと歩く。喋りながらも歩き続けている彼等に続く様に。

 

F.O.E。潜伏の白狼と呼ばれるモンスターの真横を。

 

堂々と喋ったり、あんな殺気を滲ませながら歩いているのに何で襲い掛かって来ないのだろうか。なんて、此れまでにも何度となく疑問に思った事を考えながらローウェンへ視線を向ける。彼は油断も慢心もせずに何時襲い掛かって来ても大丈夫な様に構えている。

 

なので、先手を取って燃やす事にしたレフィーヤ。

 

潜伏の白狼へと放たれた印術が焼く。驚いた様に、苦痛の叫びを上げる白狼。視線をレフィーヤへと向けて。ローウェン銃弾を放つ。いつもの様に、しかし何度見ても驚く程精密なその一撃は眼球へと吸い込まれる様に向かって行き、貫いた。

 

一瞬、僅かに仰け反った白狼は、其の儘崩れ落る。今だその体を炎が焼いているというのに微動だにしない。事切れているのだろうか。一応、確認をする。と、其の時だ。

 

「…ちょっと美味しそうね」

「何言っているんですかゴザルニさんじゃあるまいし。頭大丈夫ですか?」

「薬飲む?記憶が吹っ飛ぶけどかなり効くよ?記憶吹っ飛ぶけど」

「寧ろ頭を取り換えるべきじゃないか?」

「酷くないかしら?!」

「行き成り変な事を言うお前が悪い」

「と言うか、なんでそんな事を言ったんですか?」

「いえ、今朝食べたお肉を思い出してね。そしたらなんだか美味しそうに見えてきたのよ」

「料理と比べるとか…本当に大丈夫かお前」

「大丈夫に決まってるでしょう?!」

 

いや、大丈夫じゃないだろうと思うレフィーヤ。可笑しな発言が多いコバックが心配になる。本当に薬飲んだ方が良いのではないかと思う程度には。悪意では無く、純粋な善意でだ。

 

それでもコバックだしと納得出来てしまうのは何故だろう、なんて事を考えなが改めて焼けた白狼の死体を見る。真っ白な毛並みは見るも無残に燃え尽きている。はっきり言って美味しそうなんて感想は出てこない。

 

と、其の時だ。ガサリッと音が響く。モンスターかと構える。音のした方向を見ながらも周囲への警戒を怠らない。幾らF.O.Eが馬鹿だとしても襲ってくるかもしれないからだ。しかも、潜伏の白狼はその名の通り、潜伏する。その白い毛が保護色と成って大変見付けにくいのだ。尤も、此方の事を見つけると敵意と殺意を垂れ流しにして迫って来るのでとても分かり易いのだが。

 

少しの間を置いて、物陰から現れる。それは雪の塊、確かスノーゴーストとなずけられていた筈のモンスターだ。しかし、敵意を感じられない。何か目的でもあるのだろうか、ジッと彼等の事を見つめている。

 

唯、見つめるだけでそれ以外に行動を起こさないスノーゴースト。ならば先手を取るべきかと印術を放とうとして。スノーゴーストが動く。ゆっくりと、其れでいてキレ良く。見るも鮮やかな無駄のない動きでスノーゴーストは地面に手を付け。

 

 

彼等に向かって平伏した。

 

 

「えぇー」

 

思わず声が零れた。如何いう事なんだとローウェンを見ると、彼も又如何しようと思っている様に見えた。というか、みんな同じ表情だった。

 

本当に、如何いう事なんだと改めて見ると。微かに震えている事に気が付く。それはどうしてなのかは…分かる。とても怯えているのだ。何故怯えているのか。ローウェンが殺気を滲ませたからかと辺りを点けて。

 

何気なく視線をスノーゴーストが現れた場所を見ると、何体も同じモンスターが居るのが見えた。これまた同じく、酷く怯えながら。其れを見るに、目の前の個体は代表として命乞いをする為に出てきた。と言う事なのだろうか。

 

とても賢いのだなと遠くへと視線を向けながらレフィーヤはローウェンに問い掛ける。

 

「…如何します」

「あぁ……まぁ、良いんじゃないか?」

「倒しておいた方が安全と言えば安全ですけど?」

「それはそうだが、そう言う気分になれない」

「…ですね」

「襲ってきたら粉砕するって事で」

「分かりました」

 

粉砕と言う言葉が如何いう意味なのか分かったのか、ビクリとその身を震わせるスノーゴーストを見ながら頷き。進んで行く。

 

スノーゴーストの事を通り過ぎ、暫くしてから何と無く視線を向け、見てみたら。喜びを分かち合う様に集まるスノーゴースト達が居たと言う。

 

 

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