世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第七十八話

「なんか、凄いな第三階層」

「第三階層がと言うよりはビックスノーがって感じですけど」

「そこそこの頻度で現れて、その度にモンスターを処理してったからな彼奴。弾とか色々と節約できたから良いけど」

 

お陰でと言いながらローウェンは前を。

 

「あいつを容赦なく吹っ飛ばせる」

 

敵を前にして唯微笑むばかりのモンスター、第三階層の主・スキュレーを見た。

 

 

 

「しかし、本当にあっちから攻撃してこないんだな」

「明らかに敵なんですけどね私達」

 

言いながら小さめの樽をスキュレーに向かって蹴り転がしていくローウェンに頷きながらレフィーヤは言う。

 

「やっぱり、どこか壊れてますねここのモンスター達は……生物として」

「天の支配者にはそういう趣味でもあるのかね。あとレフィーヤ」

「なんですか?」

「スノーゴースト」

「あれは…って、よく考えたらあれって生物ですか?」

「動物ではあるな」

「動く物って意味ならそうですね」

 

凄いあれな気がするレフィーヤだった。主に動く物であるスノーゴースト達よりも生存本能が低い他モンスターが。

 

「ま、ぶっちゃけ倒すの滅茶苦茶楽だから良いんだけどな。F.O.Eは無駄に硬くて弾を無駄に消費するから余り相手にしたくないけど」

「そうですね。唯でさえ今のローウェンさん、金欠ですし」

「これを用意した所為でさらにな」

 

言って、さらに小さな樽を蹴り転がす。床が良く滑る氷で覆われている為か、止まる事無くスキュレーへ向かって行き、軽く当たって止まる。反応が無い処を見ると攻撃だとは思われて居ない様だ。変わらず、微笑みを浮かべている。

 

「それにしても」

「どうした?」

「スキュレーの人みたいな部分あるじゃないですか」

「みたいって…まぁ、あるな」

「無駄に美人ですよね」

「否定はしない、色はあれだがな」

「でも、アーテリンデさんとはあまり似てませんよね」

「ふむ、それも否定しない」

「単純に似て無かったのか、それとも変えられたのか」

「似て無かったって訳では無いみたいだぞ?似ていると言う程では無かったらしいが」

「そうなんですか」

 

父と母、何方に似たかによって変わるし可笑しくは無いかと思いつつ続ける。

 

「もしも、天の支配者が見た目を変えていたのだとすればあれですよね」

「あれって何だよ」

「あれが天の支配者の好みの容姿と言う事に成りませんか?」

「好み……」

 

視線を転がっていく樽から上へ。具体的にスキュレーの人の様な部分を見る。そして成程と頷きながら呟いた。

 

「結構な趣味をお持ちなようで」

「悪趣味ですけどね」

「そうだな…成程、あのモンスター死ぬ事の無い存在。詰り自分が死ぬまでずっと愛でる事が出来ると言う算段か」

「頭の良い馬鹿ですね天の支配者は。趣味に全力とは」

「巻き込まれた奴はたまったもんじゃないけどな」

「ですね」

 

そんなくだらない話を続ける。そんな話でも続けなければ気分が悪く成ってしまうから。

 

「終わった?」

 

そう、問い掛けてきたハインリヒにローウェンは頷いてかえす。

 

「持ってきたのは全部スキュレーの傍だ」

「じゃあ、こっちもよろしく」

「自分でやれよ」

「ローウェンがやった方が確実だろう?」

「それはそうなんだがな」

 

なんて言いながらも、ハインリヒに渡された箱を氷の上を滑らせてスキュレーの傍まで移動させる。それは絶妙な加減でローウェンが蹴り寄せた樽に当たる事無く止まった。

 

「流石の精密さだね」

「この程度出来なきゃガンナーなんてやってられんからな。金銭的な意味で」

「知ってる」

「まだぁ?流石にあたし暇なんだけど」

「とか言いながら警戒を怠らない辺りちゃんと冒険者だよな。コバックだけど」

「ねぇ、今如何いう意味であたしの名前言ったの?ねぇ」

「馬鹿と言う意味で」

「はっきり言われると傷付くのよ?!」

 

また何時ものかと思いながらも手を動かし続ける。思う様にいっていないが。

 

「で、レフィーヤは随分時間かかってるな。そんな複雑じゃないって言ってなかったか?」

「複雑では無いんですけどね。刻んだ端から雪が積もって台無しになるんですよ」

「あぁ、成程」

「で、其れの対策が今終わったのであとはこうこうこうのこうで」

 

終わりと言いながら杖を持ち直す。軽く雪を掃いながら確認して、ちゃんと出来たとレフィーヤは彼等に頷いてみせた。

 

「ばっちりです」

「そうか、一応確認するが巻きこんだりは?」

「これ自体は大丈夫ですけど、流石にあれを含めるとどうなるのかは分かりませんね」

「それに関しては仕方ないから」

「そうですね」

 

「じゃあ、始めます」

 

言って、印を廻す。今まで使って来た使いやすさを重視したものでは無く、威力を重視した印を。念入りにある事を、憧れであり目指すべきものを思い出しながら、其れに近づけようと描いた印は問題なくその役目を果たさんと輝きを放つ。

 

そこで、漸くスキュレーが動き出す。レフィーヤの描いた印の輝きが彼女の危機感でも煽ったのだろうか。随分とおそまつな危機感だなと、彼等は笑う。

 

「今更動いてもな」

 

そう呟くローウェン。と其の時、氷を突き破って現れるそれはルインクリーパーと呼ばれる触手。彼等の攻撃を止めようとしているのだろうか。だが、遅い。ローウェンの言葉の通り、遅すぎる。何故ならばレフィーヤは既に印術を完成させた後で在り、唯放てばよいだけなのだから。

 

「劫火の大印術」

 

放たれた炎はルインクリーパーを消し飛ばしスキュレーを飲み込んで。樽や箱に、それに詰め込まれた火薬と爆薬を糧として。

 

 

眼前を白で覆いつくした。

 

 

一瞬の空白。音も色も無い世界が広がり。直後に激痛。音を言葉に出来ず呻き声が零れる。暫くして、痛みが治まり。戻ってきた音と色に、自分が先程まで居た場所から随分と移動している事に気が付く。なにがどうなったのかと確認する様に未だに光が瞬く視界に映り込んだ光景に。レフィーヤは絶句した。

 

眼前に居た筈のスキュレーの姿が無く、唯クレーターだけが残されていた。

 

「あぁー……」

 

のそりと、雪の中から這い出てきたローウェンはその光景を見て、暫し考える様な仕草をしてから。

 

呟いた。

 

「…これやっちゃ駄目なやつだ」

「そうですね」

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