世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第八話

何故殴る、何故殴った。可笑しい、銃と言う武器は遠距離から攻撃をする為の物では無かったのか?

 

少し混乱しながら、レフィーヤはローウェンを見る。彼はその視線に、肩を竦めて。

 

「言っただろう?……金が掛かるってな」

 

だから必要でないなら使わないと、彼は言った。その目はやはり…死んでいた。レフィーヤは天を仰ぐ。そして思うのだ。世知辛すぎると。

 

 

 

「まぁ、他にも理由は有るんだが…そこはちゃんと見たら分かる位、当然の事だからな。取りあえず言わないでおこう」

 

頷きながら言って、再び彼は歩き出す。言わないのかと思わなくも無いレフィーヤだが、教えてくれと言った訳でも無いのだから其れもそうかと、しかし何と無く不満気だった。

 

と、突然ローウェンが立ち止まって振り返る。何事かと彼女も止まれば、彼は指さした。

 

「因みに、次戦うのはお前だから」

「私…いえ、そうですよね」

 

その通りだ。此の侭全部ローウェンに任せてしまっては此処に来た意味が無い。戦わなければ。と、ふと気に成る事が在るレフィーヤ。

 

「…今、私の事お前って呼びましたけど、ちょっと前までもう少し丁寧じゃありませんでしたか?」

「え? 同類で在る冒険者相手に気を遣う訳ないじゃん」

 

何言ってんの?と、そう言いたげにローウェンは首を傾げた。嗚呼、レフィーヤは思った。この人割と畜生の部類なのでは?と。もしかしたら冒険者全体が大体こんな感じなのかも知れないが…其れでも彼が容赦、というよりは遠慮が無いのだろう。いや、別にお前呼びが嫌では無いのだが何とも言い難いレフィーヤだった。

 

と、其の時だ。ローウェンが何かを見つけた様に小さく声を零した。その何かは、考えるまでも無いのだろう。何せ、彼が退ける様に横に動いたのだから。それが意味するのは、お前の出番だという事だろう。

 

杖を持つ手が震えるのを感じる。だが、それを抑える様に手を重ねて。深く息を吸って…吐いた。大丈夫だと自身に言い聞かせて。一歩前に進み、敵を目視する。

 

 

其処には、蝶が居た。

 

 

体に痛みを感じた気がした。

 

もちろん、気のせいだろう。迷宮に来る前にちゃんと治療を施され、痛みや違和感が無い事を確認したのだから。ならば、そうならば。そう感じたのは。

 

恐怖からだろう。

 

止めた筈の震えを感じる。目の前の敵は強くない、強くない筈なのに。如何する事も出来ない様な化物に見えてしまって。

 

「避けろ」

 

反応できたのは、それに慣れていたからだろう。言葉を聞いて動く事に。だが、体が思った様に動かなくて蝶の突進が掠る。だが、其処では無い。何時の間にこんなに近くにまで来ていたのかとレフィーヤは驚き。

 

『――――――――ギッ!!』

 

しかし、暇など与えないと言わんばかりに蝶は方向転換。攻め立てる様に突進を続ける。

 

頭では理解できている。目の前の蝶は弱い。弱いのだと。それこそ、レフィーヤが習った印術を当てれば終わると分かる程に。けれど、けれど。それが出来ない。

 

最初に、一瞬とは言え棒立ち状態に成ってしまったのが悪かった。その結果が蝶の接近を許し。攻め立てられてしまっているのだから。愕然としてしまいそうな程、反応が鈍い体を何とか動かして、突進を回避するのに手いっぱいで、攻撃する暇がない。如何すれば良い、如何すれば良いのか。

 

いや、分かっている。距離を取ればいい。しかし、其れはどうやって?。

 

今までの経験、しかし、其れを何とか思い返しても。状況の打破に繋がる物は無かった。状況が違いすぎるから。こんな、敵に接近されるのはそうそう無かった。魔法使いとして一人で挑むなどと言うのは…皆無では無いだろうか?。

 

嗚呼、だから、だから如何すれば良いのか分からなくて。

 

 

「さっき言ったよなぁ。ちゃんと見たら分かるって」

 

 

不思議な程、ローウェンの言葉がすんなりと思考に馴染む。そして、まわり始める。

 

見たら分かるとは如何いう事なのか?

見る、見る?

何を、ローウェンを?

行き成り、敵に殴り掛かる様な行動を見て、何が分かるというのか。

それに一体、何の意味が在るのか考えて、思い浮かんだのは先程のローウェンがした行動だった。

 

 

「―――――――ヤァッ!!」

『―――――――――――ギッ!?』

 

 

突進する蝶に向かって、レフィーヤは杖を横に薙ぐ様に振るう。しかし、驚いた様に蝶は停止した為に、当たらない。

 

けれど、止まった。それは分かり易い隙だ。

 

急いで、距離を取る。その様子に、威嚇する様に蝶は激しく羽ばく。だが、杖を警戒しているのか、近づいてこない。  

 

嗚呼、そうかと呼吸を整えながらレフィーヤは確りと理解する。ローウェンの行動。敵を殴るというのは、接近された際の対処法だったという事かと。何だと、笑ってしまいそうになる。本当に彼の言った通りだ。ちゃんと見たら分かる事だ。当然のこと過ぎて忘れてしまっていた。 

 

今までが恵まれていたのだと、レフィーヤは再認識した。

 

落ち着く。呼吸は、整った。しびれを切らした蝶を杖を振り回してけん制して。また、ローウェンの言葉を思い出す。 

 

ちゃんと見たら分かる。

 

だから見る。今度は目の前の蝶を。シンリンチョウと呼ばれる其れを。見て、見て、そして気が付いた。

 

とても弱いと。いや、分かっていた。だが心の片隅で、あれは自分にはどうしようもない化物だと、そう思っていた部分が在った。だから、必死に避ける事しか出来なかった。

 

だが、如何だ?

 

実際は、当たっても居ないのに。杖を振り回すだけで近づいてこようとしないでは無いか。いや、いいや。それだけでは無いだろうレフィーヤ。

 

思い出して見ればどうだ。奴の攻撃、突進は如何だった?

 

当たった其れは、痛かった。痛かったが、何だ当然の事じゃ無いか。そう、攻撃が当たって痛いのは当然の事だ。

 

敵は恐ろしい、死ぬは怖い、痛いのは嫌だ。

 

けれど、嗚呼けれど。だからこそ単純な事だった。レフィーヤが恐れていたのは、目の前の敵では無かったという事だ。 

 

震える理由は在る。恐れる理由は在る。

 

だが。

 

止まる理由は無い。挑まぬ理由も無く。

 

何よりも。

 

 

打倒できないと決めつける理由も―――――――――在りはしない!!

 

 

 

杖を振るう。力は駆け抜け、刻まれた印を煌かせる。何かが抜けるような疲労感が蝕む、しかし、だから何だというのか。 

 

廻せ、廻せ。印を示せ。輝けるそれは、爆炎を示すモノ!

 

何かを感じ取った蝶は慌てたように突進を繰り出す。しかし、遅い。遅すぎる。何故ならば既に示された。ならば後は解き放つだけなのだから!!!!

 

 

「はあぁああああああああああああああああああ―――――――――――――ッ!!!」

 

 

巻き起こるは爆炎。蝶に、シンリンチョウに防ぐ術など無く、欠片も残さず爆ぜ消えて。

 

そして、そして―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

爆炎は……迷宮の壁を、完膚無きまでに破壊した。

 

 

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