「ここですね」
そう言って睨み付ける様に眼前の店を、栗鼠の喫茶店を見る。手作り感満載の看板には…多分栗鼠、だと思われる絵が描かれている。いや、栗鼠か? と思わず殺意も失せて首を傾げてしまう程だ。
なんだか気が抜けてしまったなと溜息を吐く。そうしてから改めて見るととても良い店であると思える。汚れも目立つところには無いし。まぁ、目立たない所まで汚れを探したら分からないが、そんな粗探しの様な事をしようなどとは欠片も思わない。
なんにせよ、気が抜けてよかったとレフィーヤは思う。確かに名前はあれだが、どうせ食事するなら落ち着いて食べたい。ある意味、看板の・・・・栗鼠?の絵に感謝しつつ店内に入り。
視界に入り込んだ栗鼠の置物に殺意が再びあふれ出す。
「いらっしゃ…なんだまたか?」
「またかって何ですか」
ここに来るのは初めてなのだが。そう首を傾げ、殺気を抑えて恐らく店主と思われる女性を見る。彼女は、軽く肩を竦め乍ら言葉を返す。
「店に来る冒険者の客が如何も殺気立っていてな。まぁ、来てくれるぶんにはありがたいのだが」
「あぁ、成程」
それなら確かにまたかと言われても仕方が無い。レフィーヤも殺意を漲らせていたのだから。しかし、またかと言うわりには店主の顔色が優れない様に見える。そんな風に言う程何度も殺気立った冒険者が来店していたのなら少しくらい慣れていても良いと思うレフィーヤは改めて首を傾げる。若しかして自分の殺気他の冒険者よりも凄かったとか?なんて考えて……出来る限り忘れようとした。決してキチガイでは無いと自分に言い聞かせながら。
さてと、カウンター席に座るレフィーヤ。其れを見て少し気を取り直す様に頭を振ってから近づく店主。何にするかと問い掛けられた。
「そうですね」
メニューに目を通す。喫茶店と言うわりには…いや、ローウェンが料理店と言っていたからそう言ったご飯系の種類が多いのは普通の事かと。成程、そう言う意味でも名前があれと言う事なのかと納得する。
しかし、此処まで種類が多いと少し迷うなと思いつつ眺めて…其れに目を奪われる。若しかしたら運命なのではと思う程、スッと視界の中に入り込んで来たその料理の名は。
『ジビエカレーライス』
最近、カレーに嵌っているレフィーヤ。とても食べてみたい。いや、しかし待てと自制する。今朝もフロースの宿でカレーを食べたじゃ無いかと。流石に一日に朝昼と二回連続でカレーは如何なんだと。しかしとても食べてみたいレフィーヤ。取りあえず、落ち着く為に飲み物でもとおススメのハイラガコーヒーを頼む。
暫くしてから出されたハイラガコーヒーを口に含む。苦い、だが良い。此れでこそコーヒーだ。其れでも普通のコーヒーと何か違う様な気がして微かに首を傾げるレフィーヤ。だが、落ち着く事が出来たとカップを置いて注文する。
「ジビエカレーライスお願いします」
食欲が理性を突き破った瞬間だった。
「どうぞ」
と、そんな声を聞きながらしかし視線は眼前の料理、ジビエカレーライスへと注がれていた。見た目は勿論カレーライスだ。しかし、一体フロースの宿で出されている物とどう違うのだろうかと考えつつレフィーヤはスプーンを手を伸ばす。
其の前に、帽子を取り横に於く。そのまま流れる様に長い髪を纏める。最近は余りやっていないが、オラリオに居た時は朝の一番でやっていた作業だ、手慣れた物である。
さて、そうやって髪の毛が邪魔にならない様にしてからスプーンに手を伸ばす。ので無くコップに手を伸ばし、スッと水を口に含む。口の中に残ったハイラガコーヒーの風味を洗い流す様に飲み込んだ。
そうして漸くスプーンを手に取り、カレーライスを掬う。上手い事カレーとライスとのバランスの取れた掬い方が出来たと内心で少し嬉しく思いながら……口の中へと。
そして、そして。
「…あぁ、そう言う事ですか」
レフィーヤは結論に至った。
「またどうぞー」
そんな声を聞きながら、酷く久しぶりに思える外へ。何気なく空を見上げる。其処には、葉を茂らせ揺らす世界樹の姿が。やはり、凄い物だなと思いながらフロースの宿に向かって歩いて行く。
暫く歩けば、見慣れた宿が見えてくる。最近、宿を見ると帰ってきたと思うようになったなと気が付き、可笑しくて微笑む。
「あら、レフィーヤちゃんお帰り」
「ただいまです」
そう、宿から出てきたコバックに言葉を返す。と、何故かコバックが首を傾げている。何か気に成る事でも在るのだろうか?或は、何時もの様に馬鹿げた事でも考えているのだろうか。まぁ、何方でも良い、何故なら今のレフィーヤはとても機嫌が良いのだから。故に敢えて彼女から問い掛けた。
「如何かしましたかコバックさん? なにか、気に成る事でも? 私で良ければ聞きますよ」
「あぁ、いえ大した事では無いのだけれど」
「いえいえ、遠慮なくどうぞ」
「レフィーヤちゃん、やたらと機嫌がいいみたいだけどどうかしたの?」
何だそんな事かと少し拍子抜け。けれど、けれども。とても機嫌の良いレフィーヤは気にせず答える。其れこそ大した事ではないのだけれどと言葉を置いてから。
「少し……答えを得ただけなので」
「え…何よそれ」
何か聞えたが耳に入って来ない。そう、そうだ。レフィーヤは今日、答えに到ったのだ。即ちそれは。
「辛さの中の旨味……故に辛味!!」
「何を言ってるのレフィーヤちゃん? レフィーヤちゃーん?」