再びの第四階層。其処を歩む彼等。その内の一人であるハインリヒは。
「…死にたい」
酷く嘆いていた。
「お前何時まで引きずるんだよ」
「だってー……」
「まぁ、死にたくなる気持ちは分からなくも無いですけどね。別人なのかと疑ったくらいですし」
「そうね。あたし、ハインリヒちゃんがあんなにはしゃいでるの初めて見たわ」
「忘れろよ」
懇願する様に、醜態を忘れてくれと口にするハインリヒ。確かに、よく分からないテンションで街中を笑い声を響かせながら歩いていたと言うのは。忘れたい事だし、忘れて欲しい事だろう。なので。
「大丈夫ですよハインリヒさん」
そっと、レフィーヤは優しく彼の肩に手を置く。仲間が苦しんでいる、悲しんでいる。ならば、すべき事は一つだけ。
「ちゃんと忘れますから」
「レフィーヤ、君は……ッ」
「忘れた頃に…弄った方が楽しいですからね」
「君はそんなに畜生だったか?!」
心底驚いたと言った様子のハインリヒ。自分でもかなりあれな事を言っている自覚はある。有るのだが、その驚いている表情を見た瞬間、何とも言い難い感情が生まれるのを認識し。あぁ、もう駄目な所に居るんだなと察した。と、頭に軽い衝撃、痛いと言う程では無い其れに、無い事かと視線を向けると。呆れた様子のローウェンが居た。
「お前、何馬鹿な言ってるんだよ」
「…馬鹿な事ですかね?」
「相当な」
「むぅ」
「おぉ、いいぞローウェン。やっぱり君は」
「そんな事を言ったら弄る時に効果半減するだろう」
「畜生だな!でも、知ってたよそんな事!!」
絶望したと言わんばかりに膝をつき、しかし溢れ出す感情を叩き付ける様に地面を殴るハインリヒ。そんな彼に話し掛けるコバック。
「ハインリ」
「君は黙ってろコバック!! 無自覚に傷を抉る君が一番、一番酷いんだからな!!」
「酷い!?」
が、駄目。話しかける前に言葉を叩き付けられたコバックは酷く傷ついた様子。其れを見たレフィーヤはと言えば。
「いけませんね、此れはいけませんよ。そう思いませんかローウェンさん?」
「確かになぁー。此れはいけないなぁー。仲間を罵倒するとかいけないなぁー」
「どの口が言うのか!!」
「この口」
「寧ろ其れ以外無いですよね? 大丈夫ですかハインリヒさん」
「あぁああぁああああああ!! もうそう言うのは良いから!!」
「じゃあ進むか」
「ですね」
「でも叫ぶのは如何なのよ? モンスター寄ってきたらどうするのよ?」
「おふざけが長いのが悪いと思います!!」
その言葉は否定しないレフィーヤ。と言うか出来ないと言う方が正しいだろう。だってその通りだし。
「うむ、おふざけが長く成ってしまうのは良くないな。気を付けるか」
「それでも長くなるんでしょうけどね」
「それな」
「そうね」
「だろうね」
その通りだと頷く彼等を見て、其れで良いのかと疑問が過り、まぁ良いかと直ぐ消える。戦闘中でも無いならリラックスできるし…特定の誰かはとても疲れるが。
尤も、その特定の誰か。もとい弄られ役に成る様な人は何かしらをやらかして居るのだが。迷宮を攻略中なのに落ち込んだままだった今回のハインリヒの様に。尚、関係無い事だが一番弄られて居るのはコバックだったりする。
「…あ」
と、何かに気が付き声を零すローウェン。如何したのかと視線を向けられ、あれと言いながら指さした。そこには。
「…あ、軍隊バチだ」
「あ、本当ね」
「へぇ、あれ此処に居るんだぁー」
何だぁとても懐かしく思えてならないモンスターの姿に。意外そうに言葉が零れる。実際、意外と言えば意外だったから。
「あそこ特有のモンスターじゃ無かったんですね」
「いや、ボールアニマルととか、結構居たじゃん。アスラーガ周辺の迷宮に現れたのと同じモンスター」
「そう言えばそうでしたね」
言われてみればその通りだった。のだが、なら何で言葉を零したのだろうか。気に成ったので視線を軍隊バチから逸らす事無く見続けながら問い掛ける。と、ローウェンは何でも無いかのように答えた。
「いや、軍隊バチがこんなに迷宮の奥の方に生息してる事が意外でな」
「奥…そう言えばアスラーガの方では割と近かったですもんね」
確か第四迷宮だったかと思い出しなだら。気が付いた。
「第四迷宮と第四階層」
「…どっちも四だな」
「軍隊バチは四が好き?……何ですかねローウェンさん」
「訊かれても困るんだが」
だろうなと頷くしかない。自分でも答えられない事を聞いてしまったなと思ったし。それでもつい言葉に成ってしまったのだ、許してくれと心の中で思うレフィーヤだった。そう、心の中でだ、言葉にはしない。だって、別に謝る様な事では無いし。
「で、如何しますか。倒しますか?」
「あぁ…いや、あれを倒した結果あれの仲間がわんさか襲い掛かって来るかもしれないから放置で」
「分かりました」
確かにそれは面倒だと、そうなった場合を考えて顔を顰める。厄介事は少ないに越した事は無い。
「しかし」
「どうしたんですか?」
「いや、少し気に成る事が在ってな」
其れは一体何だろうと首を傾げながら問い掛けると、ローウェンは答えた。
「なんか、翼人の気配を感じないなと思っただけだ」