世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第八十七話

まだ気が付いて無い様子のミズガルズの調査隊。さて、これは声を掛けた方が良いのかとローウェンに確認しようとして。調査隊の内の一人、恰好からしてドクトルマグスと思われる少女が彼等に視線を向けてきた。気が付いたかなと思いつつ、何やら少女に見覚えのあるレフィーヤは、何処かで会ったか、或は見た事でも在っただろうかと思い出そうとして。少女が、あっと言葉を零してからレフィーヤを見て。

 

「ひッ…?!」

 

さっとパラディンと思われる男性の影に隠れてしまった。其れを見て少しだけショックを受けるレフィーヤだった。

 

「…今、思いっきりお前の事見て隠れたよな。お前何したんだよレフィーヤ」

「え、いや。此れと言って何かした憶えは無いんですけど」

 

憶えてないだけで何かしてしまったのだろうかと考え。しかしさっぱりだと首を傾げる。

 

そして少女が切っ掛けと成り、視線を向けてくる調査隊の面々。しかし気が付くの遅いな。自分達がモンスターだったら死んでたぞと彼女は思う。

 

「うぉ、冒険者だ!?」

「なんで驚いてんだあいつ?」

 

在り得ないものでも見た。そんな様子のレンジャーの青年・・・と言うには少し若いか、少年に心底分からない様子のローウェン。まぁ、なんで冒険者が迷宮に居る事に驚いているのかは本当に分からないが。

 

「フラヴィオ。冒険者が迷宮に居るのは驚くような事じゃ無いだろう」

「え、其れはそうだけど…って、いやいやそうじゃ無くてだな」

 

フラヴィオと呼ばれたレンジャーの少年は、褐色の……多分、ソードマンだと思われる少年に言葉を発する。しかし、本当に褐色の彼は服装が普通のと違う所為で職業が分かり難い。剣を持っているから辛うじてそうなのかなと思える程度だ。

 

「で、そのこはなんでそんなに怯えているのかな?」

 

話を変える様にハインリヒがドクトルマグスの少女に隠れられているパラディンの男性に問い掛ける。しかし彼はさっぱりだと言いたげに首を振る。

 

「って、訊かれてるが。如何したんだ?」

「…眼鏡」

「ん??眼鏡がどうした」

 

ぼそりと呟かれた言葉に、何故その言葉を言ったのかと更に問い掛ける男性に、小さな声で少女は答えた。

 

「眼鏡…割られる」

「眼鏡、割る?……あ、あの時の」

 

思い出した。初めて錬金術師互助組合に向かった際にぶつかった少女。確か、クロエと言う名前だった筈だと思い出しながら。

 

「レフィーヤ…君はそんなにも恐ろしい事をあんな少女にやったのか?!」

「やってませんからね」

「ぐッ。僕は恐ろしい。震えが止まらない程に君に対して恐怖している。まさか君が畜生を通り越して外道であったなんてッ!!」

「だからやってませんからね」

「だが!! それでも僕は屈しない! 少女の眼鏡を、命を守る為に…僕は、僕は!! 君と戦おう!!」

「だからやってないって言ってるでしょう!! ただ単に口にする事を考えないと眼鏡が割られるかも知れませんよって注意しただけですよ!!」

 

「知ってる」

「知ってる事を知ってます」

 

いえーい、と気の抜けた声を出しながら特に意味は無いがハイタッチするレフィーヤとハインリヒ。そんな二人の会話の落差に困惑気味の調査隊。その様子にローウェンはまぁ、仕方ない事だと苦笑した。

 

「取り敢えず、名乗っておくか。と言う訳で端から」

「コバックよ」

「ハインリヒだよ」

「レフィーヤですよ」

「そして俺がローウェンだ」

「ローウェンさん」

「なんだレフィーヤ」

「最後によって付けましょうよ」

「何でだよ」

「其れで良いんですよ」

「まじかよ」

「マジですよ」

 

「はい、ふざけるの此処まで」

 

パチンと手を鳴らすローウェンに合わせて黙る三人。そしてやっぱりその様子に困惑している調査隊で。

 

「これはご丁寧に。私はアリアンナと申します」

 

そう言って頭を下げながら名乗るのはプリンセス…とは少し見た目が違うが恐らくそうなのだろう少女だった。そしてその行動に驚いているのは他の調査隊だった。

 

「ちょ、なんで普通に返してんだよ?!」

「自己紹介にはちゃんと返すべきでしょう?」

「そうだけどそうじゃ無いだろう!!」

 

叫ぶフラヴィオと何かおかしなことでも言っただろうかと首を傾げるアリアンナ。そのちょっとしたやり取りで分かる事はフラヴィオと言う少年が苦労している事と、アリアンナという少女が何処と無くコバックと似ている事だろう。それはローウェンも思ったのか、何気ない動きでコバックの前に立つ。二人に会話をさせない様に。

 

と、そう思ったのだが。

 

彼の意識が調査隊の彼等に向いて居ない事にレフィーヤは気が付いた。ならば何をと思い探ってみると。気配が一つ。

 

「ローウェンさん、あれって」

「まぁ、だろうな」

「何言ってるんだ?」

 

首を傾げ、訝し気にフラヴィオは問い掛けてくる。どうやら気が付いて居ない様だ。

 

「で、如何しますか?」

「如何するも何も、襲って来なければ話をする。それだけだ」

「だから、さっきから何の話を」

 

「と言う事で、だ」

 

投げ掛けられる言葉を敢えて無視しながら、ローウェンは視線を向ける。気配を感じる…空に向かって。

 

「話が在るなら降りてきたらどうだ?」

 

 

バサリと羽ばたく音が響いた。

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